第16話 『リズと青い鳥』におけるreflexion
長編アニメーション映画『リズと青い鳥』(2018)では音楽室のフルート奏者がフルートの反射光を向かい側の校舎にいる友人に当てて思わぬ言葉によらぬやり取りをするシーンがある。このシーンに当てられた劇伴音楽の曲名は『reflexion,allegretto,you』。本作を知る人はこのシーンの良さをあげる事が多い名シーンでもある。
長編映画『裏切りのサーカス』(2011)はル・カレのエスピオナージュ小説の傑作『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』をアルフレッドソン監督が映画化。ゲイリー・オールドマンやトム・ハーディーが出演していて知る人ぞ知る作品となっている。
この作品、英国の諜報部員リッキー・ター(トム・ハーディー)がトルコでソ連の通商交渉団でやってきていたある夫婦が投宿していたホテルを向かい側で監視していたところ、ある出来事を見てしまいその結果、ロシア人の妻と恋に落ちる。そしてその女性とのデートで入った食堂でターが彼女の顔にコンパクトの鏡を反射させて愛撫するというシーンが入っている。二人が急速に関係を深めている事を象徴する手段として効果的な描写になっていた。
『リズと青い鳥』でのreflexionはこの『裏切りのサーカス』の向かい側の建物からの監視と目撃、そしてその後の食堂での反射光愛撫を引用したものに思える。手は届かないが反射光は相手の顔、頬を撫でるというだけの描写で性愛的なものを感じさせるというのは『リズ』では関係性が定まらず、でも一方が相手に大して近づきたいという願いを持ち、もう一方はそうでもない中で決定的に関係を変える事態が起きる。その前に一方の気持ちに何か少しだけでも喜びを与えた。そんなシーンとしての反射光で撫でる行為の届きそうで届かない距離感描写は観客に届いていた。
時にこういう引用があるから山田尚子監督演出作を探るのがやめられないのです。そんな思いがあったのでここに書いておく。
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