第13話 映画『トップガン:マーヴェリック』黄昏の空を飛ぶ「助ける」「助けられる」物語

 将官昇進を断りいまだにウイングマークを保持し続けている”マーヴェリック”海軍大佐。またもや若者のような無謀な賭けをやらかしてなお生き延びているのは彼に守護聖人のご加護があったからだった(劇中では「守護天使」と言っていたけど)。

 その守護聖人が軍内の力を使ってマーヴェリックを呼び戻した先はトップガン。そこで与えられた任務は準備が始まった空爆作戦に参加するトップガン卒業生の訓練と選抜を行う教官だった。


 前作では海軍の主力戦闘機の座にあったトムキャットは冷戦後の変化の中で運用コストの高さととある事情もあって機体寿命延命はされず早期退役しており、次世代を担ったホーネットもA/B型、C/D型を経て更に大幅な設計刷新が行われたスーパーホーネット(単座E・複座F型)に刷新されていて本作ではそのE/F型での作戦訓練がもっぱら描かれる。このスーパーホーネットにしても次世代ステルス戦闘攻撃機であるF-35Cの配備も始まっていて1世代古いものとなった。

 本作は前作の戦闘機機外撮影の革新を受け継ぎつつコクピットでGにさらされる俳優達をカメラが捉えるというアップデート、新たな挑戦が図られた。F-35シリーズには複座型はない。トムキャットや複座型ホーネットにいるバックシーター、兵器システム士官は今後の米海軍では当面いなくなっていくし、本作のような複座型でないと撮れない作品を実機で撮影するというのも困難になっていくと思われる。この観点で本作はトップガン最新作にして最期の作品になる可能性は高い。


 女性パイロットもまた前作と異なる新たな要素だがこれは現実の反映に過ぎない。米海軍は戦闘機パイロット職種で性別規定はなくなっている。軍隊のような保守的、その中でも海軍は特別保守的な組織でもかような変化はある。


 トムキャットは米海軍では退役済みで動態保存も一切ない。これはトムキャット製造元のマクダネルダグラス社が経営破綻寸前の中で王政イランにトムキャットの大量採用があったおかげで回避されたのですが、よく知られる通り王政イランはほどなく革命により崩壊、残されたトムキャットは革命後のイラン空軍が運用を続けていて密かに部品調達を図る恐れがあるためその阻止のために早期退役と厳しい展示制限(エンジンや部品類の撤去などされているという)が課された原因と推測できる。


 マーヴェリックは天才であり老いてもなお若者を先導出来るのだといわんばかりの活躍をする。その一方で彼の守護聖人は病を患い、でもその中で友を導こうとする叡智をみせる。彼の描かれ方はマーヴェリックの運命の行方の一つでもある。彼がコブラ機動を掛けてフレアー発射ボタンを押した時、考えるのではなく行動を選び取っただけだけど、それは我が身の危険を顧みず親友の息子を救うための行動だった。その結果は彼の守護聖人のラストショットにつながっている。

 と言ってもマーヴェリックはマーヴェリックなのでという展開にすぐなるのは少し笑いそうにはなった。でも本作はいつものトム・クルーズではない。そこから「助ける」マーヴェリックが「助けられる」事を知る人に変わる。そしてファンサービスともマーヴェリックへのご褒美とも取れるプレゼントがあり、更にマーヴェリックは「助けられる」事を選んでその為に必要なリクエストを告げた。


 本作がマーヴェリック最後かもしれない着艦で華麗にワイヤーを捉えたりしない事にこそ本作の意義がある。

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