第8話 長編映画『オペレーション・ミンスミート』コメディとスパイ冒険と真摯な批評を込めた作品

あらすじ 1943年英国。アフリカ戦線の戦いが終盤に入る中、次の一手としてシチリア島強襲上陸作戦が計画される。イタリア戦線を開くには地中海に浮かぶこの島を取ることは不可欠。その中で英国の情報工作機関はシチリア攻略はないとナチスに思わせるための作戦を複数立案していた。その中の一つを弁護士から召集されたモンタギュー海軍少佐がいた。モンタギューはフレミング海軍少佐、チャムリー空軍大尉らと一緒にオペレーション・ミンスミートを実行しようとある海兵隊少佐の経歴、人柄、恋人の創造を始めた。


 マッデン監督の手がける作品の振り幅は広い。前作はワシントンDCを舞台にしたロビイストvs.NRAロビイストの全面衝突の死闘を描いた『女神の見えざる手』、その前には欧米の高齢者がインドで余生を楽しもうという『マリーゴールドホテル』二部作もある。

 本作の性格は複雑。作戦を推進する「13号室」の中で三角関係が発生する。その関係は一方通行が錯綜する性格のものであり、そこで男性優位の社会における女性の自立、自らの選択権の行使の問題に触れつつ、メンバーでのめり込んだキャラクター創造の苦しみと楽しみ、そしてそんな楽しいはずの仕事の果てにつながる最前線では男女関係・同性愛を駆使する工作員や、嘘でもなんでもついて状況を意図する方向に向けようとしてドタバタ喜劇になったりする。


 本作では諜報機関責任者のMことゴドフリー海軍提督やQも登場する。ゴドフリーはどうもスパイハンターらしくともかく物事を悲観的、最悪の事態が進行しているから認めないぞ!というネガティヴな性格で描かれている。対する作戦の最終決定者たるチャーチル首相はゴドフリーの認識を理解しつつさらに相手は裏を読んで結局は大丈夫、作戦は成功するぞというオポチュニスト、楽観論者ぶりを発揮する。


 閑話休題。本作では墓地が重要な役割を果たしている。英連邦軍は戦没者を死亡地で埋葬する方針をとっており遺体を母国へ戻す事は原則としては行なっていない。だから海兵隊少佐はあの地に眠っているし、だから空軍大尉は取引条件にした。この事は劇中でわかる紹介がない「常識」として出てくるので知っておいた方がいいとは思う。


 コメディとシリアスさ、スパイモノに付き物のマチズモに対してそれだけじゃないだろと突きつけるところなどあって作品内の振り幅も大変広い。マッデン監督は一筋縄ではいかないなという一本です。

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