第13話

「お待たせしました」


 私はティーカートを押して、再びお父様の部屋を訪れた。

 アーサーには親子二人で話をしたいからと伝えた。アーサーは終始心配していたけれど、私は笑顔で「大丈夫だから」と伝えると、渋々部屋に戻っていった。


「あぁ」


 お父様は疲れた顔をして目のあたりを抑えていた。私たちが遠征している間も、各国とは緊張状態だったことは知っている。なので、私のことでさらに心労を増やしてしまったと思うと少し心苦しかった。


「さっそく、お茶を入れますね」


 私は紅茶の準備を始める。まず、お父様はお疲れのようだから、疲れに効くと祝える紅茶の葉を選び、ティーポットに入れる。そして、熱いお湯を入れた容器を高い位置に掲げてティーポットにお湯を注いでいく。すると、ティーポットの中で紅茶の葉が踊りだし、色味が濃くなっていく。私は蓋を閉じて、数分待つ。そうすることで、紅茶の葉に含まれている旨味や香りが広がっていくのだ。


(そろそろ、いいかな?)


 私は自分のカップから紅茶を注いでいくと、十分に紅茶は色づいており、湯気と共に心が落ち着く香りが部屋に広がっていく。


「さっ、どうぞ」


 私はお皿に乗せてカップをお父様に渡し、ちょっとした口にはさむようのサンドイッチもお渡しする。


「あぁ、ありがとう。ミシェル」


 お父様は優しい顔をしている。先ほど叫んでいた姿とは正反対で、まるで憑き物が落ちたようだった。


(でも・・・・・・怖い)


 何かを覚悟したお父様の様子に私はごくりと喉を鳴らした。


「はぁ・・・・・・美味しい」


 そんな私の気持ちを知らないでいるのか、とても穏やかな声で紅茶を飲むお父様。


「上手に淹れられるようになったな、ミシェル」


 私の頭を撫でてくれるお父様の手は大きかった。とても心地いい瞬間。でも、心の底から落ち着けるわけではなく、心がざわめていた。


「あのね、お父様っ」


 先に言わねばならないと思った。けれど、お父様は、


「まず、紅茶を飲みなさい。冷めてしまうよ?」


 と、私が必死になることがわかっていたかのように落ち着き払って、伝えてきた。私は紅茶を口に近づけると、穏やかな香りがする。急いで喉を潤して、お父様に自分の気持ちを伝えようと思うけれど、淹れ立ての紅茶は熱いため、少しずつしか飲めない。


「私はこの国を捨てようと思う」


 私の意識が言いたいよりも、紅茶の方に移ったのを見計らって、私は紅茶を吹き出しそうになった。

 

 ずるい。

 

 お父様ったら、自分が先に言うために私に紅茶を飲ませたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る