第3話
「この国は腐ってやがる」
アーサーが後ろに見える王宮を睨みながら、私の隣を歩く。
「そんなこと言わないのっ。と言うか、私たちの領地だってこの国の一部ですからね」
私がそう言うと、そんなことはすっかり忘れていたかのようにたじろぐ、アーサー。しかし、
「でもよ、あんな風に言われて、悔しくねえのかよ、姫さん」
と腕を組みながらプンプンするアーサー。
(貴方が私の代わりに怒ってくれたからよ)
私は心の中で、アーサーに感謝する。
「なっ、何笑ってんだよ」
「ううん、ごめんなさい。ありがとうね、アーサー」
どうやら、私は微笑んでいたらしい。私はすぐにアーサーに謝ると、アーサーは照れ臭そうに頬を掻きながら、「別に」と呟いた。
あんな大勢の敵意。
負の感情で淀んだ重い空気の中、あの場で一人だったら私は声を荒げて怒ったかもしれないけれど・・・
(ううん、多分泣いちゃったかな)
私は両手で頬を叩く。
突然のことだったから、アーサーがその音にびっくりしてこちらを見た。
「よし、悔しいから、たくさん買えるところ見せていこうーーっ」
私が笑顔で拳を掲げると、アーサーが冷めた目で私を見る。
「いこうーーーっ」
「・・・・・・おーーーっ」
私に合わせて、アーサーも拳を照れ臭そうに上げる。
「私、絨毯が欲しいなぁ。持ってくれる?」
「ふっ・・・。姫さんは、か弱いからな。全くしかない、いいぜ」
アーサーもいつもの笑顔になって来たので良かった。きっと、ぶっきらぼうなところがあるけれど、責任感があるアーサーは私があんな目にあっても守れなかったのが悔しかったのだろう。だから、役立てることを見つけて、頑張る気満々だ。これで、あとはたくさん買い物をして帰るだけ。お父様が怒らないか心配だけど、お父様が気にいる様なお酒を買って帰れば、
(多分・・・・・・うーん、だめかな?)
駄目な気しかしない。
別にお父様は怖くはない。私のことを溺愛していて、とても優しいし、だいたい私の言うことも聞いてくれる。けれど、唯一欠点がある。
・・・それは、私だ。
私が傷つくようなことがあれば、お父様は暴走馬車のようになかなか制御不能だ。
「・・・待ってくれっ」
私がお父様をどうしたらなだめることができるか考えていると、さっき私に冷たい言葉をかけた人の声が後ろから聞こえた。同一人物だと思うけれど、優しそうで、優柔不断そうな声だった。
「待って、くれっ」
振り返ると、レオナルド王子がいた。
それを見ると、私とレオナルド王子の間にアーサー入り、いつでも剣が抜けるように構える。私は「大丈夫よ」と言って、アーサーに臨戦態勢に入らないように告げると、ぶつぶつ言いながら、アーサーが私の後ろに控える。
「ミシェル。もう・・・帰るのか?」
彼の瞳が自信なく泳ぐ。
「えーっと・・・・・・レオナルド王子・・・?」
「俺の顔を忘れたのか?」
疑心暗鬼なレオナルド王子。でも、私もさっきと雰囲気が少し違うから疑心暗鬼なんです。だが、どうやら、双子とかそう言うことではないようだ。
「すいません、まさか王子に追いかけてくださるとは思ってもみていなかったもので。私たちは、買い物をしてから帰ります」
アーサーを見ながら言うと、アーサーは強く頷く。再びレオナルド王子を見ると、王子は私をじーっと見つめていた。
「何か?」
「ん、あぁ、いや・・・」
レオナルド王子は頬を赤らめ、口を手で覆う。それを見たアーサーが腰に手を当てながら、イライラしている。
「じゃあ、俺が案内をするよっ」
レオナルド王子が急に大きな声を出すので私はビクっと反応してしまう。
「ええっと・・・・・・大丈夫です」
私はレオナルド王子にフラれたばかりだ。フラれたというのも、私から好意を持ったわけではないので、少し不服だけれど、まぁ、仕方がない。そんな関係の私とレオナルド王子が歩いていたら、王都の人たちが勘違いするかもしれない。それで、結婚おめでとうなんて言われた日には流石の私でも、夜にマクラに叫んでしまうかもしれない。
それに私とレオナルド王子が仲良くするのを良く思わない人たちもたくさんいるのはさっきのことで分かった。悪いことがおきそうだと感じたので、私は丁寧に頭を下げて断った。
けれど、レオナルド王子はそれでもめげなかった。
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