私の秘密の聖水

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

私の秘密の聖水

 私の名前はカタリナと申します。

 教会に仕える普通の新米シスター。

 ……のはずだったのですが。


「カタリナ様! 聖水を売ってください!」


「聖女様ー! ぜひ聖水をー!」


 今日も、私が働いている教会に人が押し寄せてきます。

 彼らは冒険者。

 危険な魔物を討伐してくれる、立派な方々です。


「ど、どうぞ。私が清めた聖水です」


 私は平常心で、彼らに聖水を渡します。

 私の聖水が評判になったのは、つい最近の話です。

 口コミで徐々に広まり、今ではたくさんの人が来るようになりました。


 それはいいのですが……。

 少し恥ずかしいです。

 なぜ恥ずかしいか?

 それは言えませんけど。

 彼らは、普通の水を私が魔力で清めたものだと思っているはずですから。


「ありがてえ! カタリナ様の聖水は、何にでも効くんだよな!」


「道にまけば魔物が近寄ってこなくなるし、武器にかければアンデッド系の魔物を瞬殺できる!」


「傷口に塗れば、たちどころに治る! そうだ、飲めば体調が良くなったりするんじゃないか?」


「確かに。さっそく試して……」


 冒険者の方々が、私の聖水が入ったビンを傾け、口にしようとします。


「ダ、ダメーー!!! それだけはダメです!!!」


 私は必死に彼らを止めます。


「お? おお、どうしたんですかい? 聖女様」


「聖水は飲んだら有害なのですか?」


 彼らがそう問いかけてきます。

 特に有害なものは入っていないはずですが、とにかく飲んではダメなのです。

 主に、私の精神衛生上の理由で。

 しかし、事情を正直に話すわけにもいきません。


「え、ええ。道にまいたり武器にかけるのはいいですが、飲むのだけはやめてください」


 本当は、道にまいたりするのもやめてほしいのですが。

 しかし、私にも生活があります。

 聖水を売ること自体をやめるわけにはいきません。


 いったいどうしてこうなってしまったのか。

 私は過去に思いを馳せます。


 あれは、ある日の深夜のこと。

 尿意を覚えた私は、トイレに向かいました。

 その途中で、低級ゴーストに襲われ腰を抜かしました。

 実際には大したゴーストではなかったのですが、未熟な私にとっては恐怖が大きかったのです。


 そして、私の聖水が不意に漏れてしまいました。

 ゴーストに襲われた恐怖で、私のダムが決壊してしまったのです。


 話はそれで終わりません。

 ゴーストが突然苦しみだし、霧散したのです。

 その後自分なりに検証し、私の聖水には本物の聖水と同様の効果があるらしいことがわかりました。


 私はお金を得るために悪魔に魂を売り渡し、私の聖水を聖水として売ることを決心しました。

 とても恥ずかしいですが、生活には代えられません。


「へへっ。そういうことなら、カタリナ様の聖水を飲むのはやめておきますぜ!」


「ああ。ビンに入れたまま、使わずに大切に保管することにしよう」


 冒険者の方々がそう言います。

 大切に保管されるのも、それはそれで恥ずかしいのですが。


 ああ。

 こんな恥ずかしい思いを、いつまですることになるのでしょうか。


 残念ながら、教会の運営費はまだまだ不足しています。

 教会で預かっている孤児たちに不自由な思いはさせたくありません。

 なんとしても、この秘密だけは漏らすわけにはいかないのです。

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私の秘密の聖水 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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