僕が星雲になった夜
わた氏
Rose Nebula
天地がひっくり返っている。
雨上がり。
建物の屋上で、僕は一人地上を見下ろす。
地上の星——いつか誰かが歌っていた、地球への讃歌。
そう。
このセカイは、この街は、星々煌めく夜の海。
黄、赤、青、橙。
息をするように輝く光は、見上げた先の一等星よりも眩い。
澄みきった漆黒の空が遠くに見える。
踏みしめるコンクリートですら、酷く暗く薄ら笑いを浮かべている。
だから僕も、笑って返した。
横に目を向けると、水たまりの中で満月が白く燃えていた。
輪郭を歪ませ、そよぐ風に揺れている。
——星も、月も、そこにある。
或いは、鏡合わせなのかもしれない。
だからここは、このセカイは、宇宙そのものなんだ。
なんだか不思議な感覚だ。
それを見下ろしている自分が、
ずっと見下ろしていたかった。
毎日毎日見てるのに。
すると何かが降ってきた。
こちらに向かって、抗う力も持たぬまま。
自由に、それでいて限りなく不自由に。
——それは、少女だった。
————
私は落ちていた。
地球の真ん中に向かって真っすぐ。
星が遠ざかっている。
雨上がり。
雲一つない宇宙を仰いで。
切れ目の無かった世界を惜しんで。
私は今から、セカイの一つになるのだろう。
何度醒めても落ちる夢。
何度眠れど落ちる夢。
黒い海に身を任せ、私も星になるとしよう。
——僕は君を、待っていた。
私の身体はどこも痛くない。
代わりに、丸い果実が割れている。
甘酸っぱい蜜は、みるみるうちに広がっていった。
或いは花か。嗚呼、薔薇だ。
蕾が空へ、咲き誇る。
狂気を探して腕広げ。
掬い上げるは花びら一片。
穢れを知らない箱入りの色。
月明かりに照らされ、艶やかに浮き上がって。
夢でも見なかったこの光景に、興奮が収まらない。
呼吸が止まる。
——綺麗だと思った。
天地がひっくり返っている。
——星も、月も、そこにある。
——
僕が星雲になった夜 わた氏 @72Tsuriann
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