第27話 方針会議
巨大な蜘蛛の足を持つ三体のロボットが基地内のハンガーへと入っていく。
それぞれの整備ドックに収まり、胸のコックピットハッチからヘルメットとパイロットスーツに身を包んだ三人の少年少女が現れる。
「お疲れ、なの」
同じくMT2から降りてきたアクアが話しかける。
ペットボトルの水を飲みながらアクアを見やり、口を離す。
「お疲れ様です。アクア、アクアもどうですか?」
「ありがとうなの」
手に持ったペットボトルをアクアに渡すと、同様にアクアも中の水を飲む。
「初陣にしてはいい成果だったな。ミストアブソーバーの性能を確かめることもできたし」
ピシッとした制服に袖を通している警官、野中が歩み寄る。
イフがMT1の三枚のブレードをついた右腕を見つめる。
「野中一佐。あのほかの機体は一体何だったんでしょうか?」
「後から来たのは
「やはりあれが
野中が頷く。
「そうだ、初めて東京で確認されたのと姿が似ているほぼ間違いないだろう」
「味方のようですが……一応、攻撃対象と考えた方がいいでしょうか?」
「そうだな。素性が明らかにならないことには何とも。それよりももう一機のほうだ」
「ああ……」
無駄に大きなロボットのことか。指示を出していたのは老齢の男だったが、恐らく操縦していたのは少年だった。イフの耳に間違いがなければ恐らく……。
「一応警告はしました。次も出撃しないとは限りませんけど」
「恐らくあれはのちに我々が抑えるようになった。状況が整い次第、徴収に向かうだろう」
「ここで使うんですか?」
「そのまま使いはしないだろう。武装をばらしてこのマルチトルーパーの武器とするだろう。民間であれだけの兵器が作れるわけがない。私の予想がただしければあれにはイノセンティアの技術が使われている」
「ああ……あの青い光の刃、ですか?」
スーパーロボットが蜘蛛の魔物を撃破するときに使った光の刃を思いだす。
「そうだ、多分だがあれは魔法だ。そうなるとあれもイノセンティアの人間が動かしている、かもしれない。白い義骸の登場にあの巨大ロボットは困惑していた。あちらの国の人間も一枚岩ではないということだろう」
「そうですかね……?」
「ん?」
イフがあごに手をあて、考え込む。
「どうした、心当たりがあるのか?」
「ええ、多分あのロボットの搭乗者は多分優しいこの街の住人ですよ」
× × ×
火伊奈と唯がコバキオマルの整備が終わり、権五郎に呼び出されて指令室まで入ってくる。
「せいっ!」
権五郎が長机を片手で持ち上げて部屋の中心に置き、その周囲に皆が集まる。
「それではコバキオマル今後の方針会議を行う。司は、少し休憩していろ」
一人を除いて。
司はがっくりとパイプ椅子に座ったままうなだれていた。
「あれ何があったの?」
「彼の父親のことを話したショックで、放っておいてやってくれ」
「父親?」
火伊奈の問いかけに、鷲尾が先ほど司にした説明を再び始める。
司の父親がユニグリフィスのパイロットと知り、火伊奈は驚愕に目を見開く。
「あれに乗ってたのが、司のお父さん⁉」
「そうだ。この世界にあるボクたち王立軍の
「ついでに聞くが鷲尾社長、もう一体の赤い
唯の質問に鷲尾が頷く。
「あっちも分隊のメンバーの一人、クルス・ネリーが使っていたパルソーサーという
「パーフェクト・クリムゾン……」
唯が興味深いと目を輝かせて頷き、その目を見た火伊奈が若干顔をひきつらせた。
「それで、方針っていうのは? このままコバキオマルを眠らせるの?」
権五郎を睨む火伊奈。
国から警告を受けたのだ。普通だったら、もう二度と動かさずに封印するところだが。
「いや、コバキオマルは次からも出撃させる」
権五郎の言葉に、司がピクリと反応した。
唯目を閉じ、手を上げる。
「当然のことを言っていいでしょうか、権五郎司令。あれだけの戦力が整っていた以上、我々一民間団体が戦いに出しゃばっていいものでしょうか? 邪魔をし、被害を出した場合責任をとれるのでしょうか?」
「とれん、かもしれない。だが、戦う!」
権五郎が拳を振り上げ、断言した。
「自衛隊が運用しているマルチトルーパーは装備が貧弱。玲君たち二人組は何を考えているのか不明。ならば、我々はこの街に住む住人として魔王の進行を阻止し続ける! 自分の身は自分で守るのだ!」
唯がため息を吐く。
「愚かな思考だ。それが混乱をもたらすというのに……」
「なんとでも。我々はヒーローになりたいわけではない。自分にできることがあるのに何もせずにいたくない、ただそれだけだ」
「自分にできることがあるのに……」
司の呟きが聞こえ、机に集まっているみんなの視線が一斉に集まる。
「………」
だが、司は一言つぶやいただけで顔を俯かせたままだったので、みんな視線を逸らし、再び会議に戻る。
「まぁ、何よりせっかく作ったコバキオマル。使わねばもったいないしな」
「それが本音だろう。権五郎司令」
「そうでもあるが」
「……だが、自分を貫くその考え、嫌いじゃない!」
にやっと笑ってグッと親指を突き立てる唯。
権五郎も笑って唯に親指を突き立てて見せる。
「では、今後も魔物は我々が倒すということで、解散! ハッハッハッハ!」
権五郎が宣言し、
「うむ、ハッハッハッハッ‼」
唯も笑いだし二人そろって部屋を出ていく。
「ハァ……全く、コバキオマルの整備に戻ろ」
火伊奈は扉へと向かっていったが、去り際に司の肩をポンと叩き、彼女なりに励ますとさっていった。
部屋が静かになった。誰もいなくなったのだろうか。
顔を上げ、立ち上がる。
「……鷲尾さん」
いや、誰もいなくなったわけじゃなかった。
鷲尾が司の前に立って、ずっと待っていた。
「司君、これを」
封筒が渡される。
受け取り、中を見ると六千円が入っていた。
「これは?」
「今日の分の給料さ。三時間は勤務したから。渡しておくよ」
「あ、ありがとうございます……でもどうして?」
「どうしても何も、君が何で戦ったのか。その理由だろう」
「あ……」
確かにコバキオマルに乗るきっかけはそれだった。ガチャがやりたくて、それで漠然と権五郎の仕事を手伝おうとした。それだけだ。
街を守るとか、怪物と戦うとか、そんな覚悟は全くできてはいなかった。
「君は自分のことを道化といったね」
「そうじゃないですか。俺たちは別に必要がなかった。舞台に役者じゃない人間が立っても笑いものになるしかないじゃないですか」
「そんなことを君は考えなくていい。僕らが君に指示を出して舞台に立たせたのだから、責任は全部僕たちにおっかぶせていいんだ」
「それでも道化は道化じゃないですか」
「道化も貫けば人の心を動かせる」
「…………ッ」
それは、どうかなと思った。だが、司は言い返すことができなかった。
「だが、戦闘に出たのは今日が初めてだ。やめたくなったらいつでも言って構わない。僕は無理強いするつもりはない。権五郎さんも僕が説得しよう」
鷲尾の声は、優しかった。自分の息子に話しかけているような優しい声色で語りかけていた。
「鷲尾さん、親父は裏切り者なんでしょう? 俺が憎くないんですか?」
「君と父親は別の人間だ、君を恨む理由はどこにもない。僕の怒りは彼にそのままぶつけるさ」
にっこりと笑った鷲尾の手が司の肩に置かれた。
「………ッ!」
何も言えずに司は封筒を握りしめた。なぜか涙がこみ上げそうだったのをこらえるのに必死になった。
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