第21話 名乗りは移動中に考えた。

 バアルの破壊は収まらず、バアルが通った後は焼け野原が広がっていた。

 すっかり日が沈んだ空の上。魔物の上空には魔法陣が浮遊し、バアルが破壊する光景をリムルと眷属三人が見つめていた。


「ア~ハッハッハッハ! 何とも愉快じゃないか、モンスターシード。これほど痛快に街を破壊できるとは思わなんだぞ、ネス」

「ええ、ありがとうございます」


 蛇原は声をかけられると姿を変えた。

 全身が緑色の蛇の皮に包まれ、爪が尖り、牙が飛び出た蛇の怪人・ネスへと変貌する。


「流石にこんなでかいと東京で俺たちの邪魔した奴らもどうにもできないですよね」

「警察とか、アカガワとかいうやつ?」


 会話をしている梟谷、蛙田も梟の怪人———ルオウ、蛙の怪人———フロッリーに変貌する。


「そうそうそいつらですよ。あいつらも対処のしようがないでしょうし」

「奴らはナイフとか銃とかしかもってなさそうだったしね。来たとしても戦車でしょう」

「そういえば……妙ね」


 ネスが街の様子を見ていぶかしげな声を上げる。


「戦車どころか、戦闘機すら来ていない。これだけの被害が出てるのに」


 魔物が出てから二十分は経過している。

 巨大な怪獣出現を想定していないとはいえ、破壊を続ける巨大生命体に対応をいつまでたってもしないのはおかしいのではないか……。


「来ぬのなら来ぬ方がいいじゃろ。それよりも見ろ」


 リムルが指さす先は御式町にある公園。

 すべり台が二つ並んでいること以外は普通の公園に見えるが。


「あれがどうかしたの?」

「あれが門の取っ手じゃ。見てろ」


 バアルが二つの滑り台を掴み、持ち上げる。


「……お、おおおお」


 すべり台がしたの地面事持ち上がり、大地に亀裂が入り、緑の光があふれる。


「あれはまさしく魔力の、イノセンティアの光!」

「やるのじゃバアル! 門を開け放ち、我々をイノセンティアへと帰すのじゃ!」


 興奮した目でバアルが門を開けていくのを見ているリムル。

 が……。


「ギギギギギギ、ォォォ……!」


 バアルの手が震え、徐々に下がる。


「ど、どうしてなの⁉」

「単純じゃ……」


 苦々し気にリムルが下に広がる街を見つめる。


「重いんじゃ。門の上にこれだけのものが乗っているんじゃから」


 家、車、ビル。街には様々な施設がひしめき合うように作られ、その一つ一つに人が関わり、存在している。


「……よ、い。破壊するぞ。ここまで秘密裏に進めてきたのだ。時間をかけてすべて門の上から取り除く。行け、バアル」


 リムルが街に背を向ける。


「ハオオオオオオオオ!」


 バアルのもう一つの頭部が咆哮を上げ、胸の宝玉に光が収束していく。


 ……ドンッ……ドンッ!


 遠くから足音のような地響きが聞こえてくる。


「アレ、何?」


 リムルが足元の街が熱で焼かれる光景を見ずと目を上に向けると、別方向を見ていたフロッリーが指さし声を上げる。

 彼のいう方向へとリムルは視線を向ける。


「魔物……?」


 一番最初に思った感想はそれだった。

 家と家の隙間を跳躍し、バアルへと向かってくる巨人。

 眷属たちが生み出したゴーレムかと思ったが、形状が違う。あまりにも余剰部分が多く、鎧武者に余計な突起物をいろいろ足したような姿をしている。


「何よ、知らないわよ。私あんなの」


 ネスが首を振る。モンスターシードを管理していたのはネスだ。ほかの眷属に今日まで隠しているほど秘密にしているほどであるし、知らないというのならモンスターシードで巨大化した魔物ではないのだろう。


「まさか……」


 巨人が大地が砕けるほど踏み込み、大跳躍をした。

 巨人の顔がリムルたちのいる魔法陣まで接近し、巨人の顔がリムルたちの眼前に迫る。


 リムルと巨人の目が合う。


偽骸ぎがい……なのか」


 巨人が重力に従って落下していく。


「! 逃げろ、バアル!」


 巨人の足が地上のバアルをとらえ、バアルの胴部を踏み抜いた。


「ギャオオオオオオオオ!」


 蜘蛛の口から悲鳴が上がる。

 バアルのからだが大地に伏し、巨人が大地に立つ。

流星一蹴りゅうせいいっしゅう、ただいま到着‼ 光の荒鷲あらたか———コバキオマル‼』


 巨人から声が響いた。

 少年の、声だった。


「コバ……キオマ、ル。だと……⁉」


 足元の光景を茫然とリムルは見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る