第二章 警視庁特殊災害対応第二係・特殊装備マルチトルーパー

第13話 異世界への扉

 一夜が明けた。


 昨日はコバキオマルを紹介されただけで家に帰され、今日の放課後にまた来るようにと言われただけだった。


「本当に来るのかね。大魔王」


 コバキオマルが本当に役に立つのかどうかかなり疑わしい。唯の話ではこの街じゃなく都会ではところどころで魔物が出現し、魔王の暗躍の兆しが見えていたらしいが、ほとんどが唯の銃でなんとかできるレベルだったという話で、コバキオマルほどの巨大ロボットが必要あるとは思えない。

 そもそもここに出現するとは限らないではないか。


「そういや……東京に行かなきゃいけなかったりするのか? まぁ、それはそれで……」

「嘘つき! こんなところに扉なんかあるわけねぇじゃん!」

「何が別の世界だよ、ばっかじゃねぇの!」


 通りかかった公園から子供の声が聞こえてきた。

 登校途中のようで黒い鞄が、一部に黄色や青など個性的な色のものもあるが。ランドセルがベンチに置かれ、すべり台の下に四人の子供がたむろっている。

 どうやら中心の子供が何か嘘を言って、友達をだましたようだ。

 囲まれ、怒られている男の子はキャップを深くかぶっていた。つばで顔が隠れているためよく見えないが泣いているようだ。


「行くべきか、なぁ……」


 子供同士のもめごとだ。無理に大人……といっても高校生だが、が関わると余計にこじれる可能性がある。

 可哀そうだが、スルーしておこうとそのまま歩を進める。


「本当だって、本当にここには異世界につながる扉があるんだって!」

「⁉」


 異世界といったか? あの少年は。

 身振り手振りを交えて、少年は必死に取り巻きに説明を始める。


「みんなで境目を見つけて掘るだけでいいんだ。掘り進んでいけば異世界に魔法の世界に行くことができるから!」


 昨日の今日でどうしてこう、似たような話がタイミングがよく……。

 司は踵を返して公園へと入っていった。


「なぁ、喧嘩でもしてんのか?」


 子供たちに近寄り声をかける。すると、嘘つき呼ばわりしていた子供を罵倒していた子供がびくりと肩を震わせて怯えた目で司を見る。


「あ……」

「揉めてんならやめとけ、まだ朝早いんだからここでエネルギー使ったら学校で力尽きんぞ、な?」


 いさめるように一番近くの子供の頭に手を乗っけると、すぐにその子供は司の手を逃れてランドセルをとって公園から逃げてしまった。


「へ、変態だ! 大人が子供を誘拐しに来たぞ!」

「あ、待って!」


 残りの二人の子供達もランドセルをとって逃げて行ってしまった。

 司は胸を押さえた。


「こ、こっちは何もしてねぇだろうが……! 小さな子供に変態扱いされるのは予想以上に胸に来るな……!」

「…………」


 いきなり変態扱いされたショックに悶えていると一人残った嘘つき呼ばわりされた子供。彼がジッと司を見ていた。


「……お前、あいつらに嘘ついたの?」

「嘘じゃない。本当にここに異世界の扉があるんだ」


 キャップを深くかぶり蒼いジーンズをはいた少年は手を大きく広げた。


「ここに、ねぇ……」


 見渡してみると普通の公園だ。砂場があってブランコがあり……ああ、変わっている点と言えばこの公園にはなぜかすべり台が二つある。それも別々の場所にではなく、すぐ近くに隣り合って。


「あれは取っ手なんだ」

「取っ手?」


 キャップを深くかぶったその子はコクリと頷いた。


「どう見てもただの滑り台じゃねぇか」

「元々あったのをすべり台に改造したんだよ。よく見て、金属でできているし、形がおかしいでしょ?」


 確かに言われてみれば、全身銀色で上る場所も下る場所も急こう配。登りは階段ではなく梯子をつかっているほどだ。


「確かにおんなじ方向に並んでいるから取っ手に見えるけど……あれをもって開くやつってのは相当でかくないと無理だぞ、それこそ……」


 昨日のコバキオマルが頭に浮かんだ。


「巨人……とか?」

「そんなのこっちの世界に今いないよ」

「昔はいたよう言い方だな」

「さぁ?」

「そこはさぁなのかよ」

「この世界と異世界との関係なんて知らないよ」 


 少年は不思議な雰囲気を持っていた。どこか大人びているようで物凄く年相応に幼いようにも見える。

 少年は寂し気に土を足で払うと、ランドセルをとりに行った。


「何で異世界があると思った。どこで聞いたんだ。異世界とか、ここが扉とか」


 気になって少年の背中に尋ねる司。


「聞いたんだよ。師匠に、ここに世界をつなぐ扉があるって、その後自分で調べもしたよ」


 少年がランドセルを背負う。


「お前も師匠とかいるのか?」

「もってことはお兄さんも? へぇ」


 少年が若干顔をほころばせた。

 師と仰ぐ人物がいる者同士少し親近感がわいた。


「お兄さんはこっちの話を聞いてくれるんだね。たいてい妄想だよって言って取り合ってくれないのに」

「最近、思うところがあってな」


 少年は司に背を向けた。


「じゃあ、行くよ。お兄さんもせいぜい気を付けなよ」

「気を付ける?」

「うん、なるべく街を離れた方がいいと思うよ。この街はこれから危ないことが起きるかもしれない。自衛隊基地に昨日大量の武器が運ばれたって話だし、化け物が最近出始めたって話も聞くし」

「そんな話が。忠告ありがとよ、なら、お前も逃げた方がいいんじゃないか?」

「そう気楽に逃げられるほど小学生は身軽じゃないんだよ」

「小学生どころか、高校生も同じだぞ」


 少年は驚いたように司を振り帰り、にやりと笑った。


「それも、そうか」


 やがて、少年は走って行ってしまった。


「自衛隊の大量武器……昨日のトラックってそれだったのか?」


 巨大トラックのこと思いだしながら、納得しながら学校への道を急いだ。

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