第12話 暗躍
その日の夜、
湖周辺には街灯がなく水面に浮かぶ月が目立ち、近所に住んでいる吉田さんなのはこの光景が窓から見えるのに憧れて湖周辺に引っ越してきたほどだ。
空の月光と反射した月光が金の流水のような長髪を照らす。
一人の金髪の女性の人影が岸辺にはあった。
モデル体型でピシッとしたスーツを着、眼鏡をかけているできる女性ビジネスマンといった雰囲気を持っていた。
「ここに来るのも久しぶりね。初めてこの世界に来てから一度も戻ってこなかったものね」
彼女は湖を見つめながら懐かしそうにつぶやいた。
「魔力が全くない世界で魔力をためるのに大分時間がかかってしまったけれど、そろそろやっておいたほうがいいかもしれないわね」
女性が手を泉に向けてかざすと、巨大な魔法陣が湖の上で展開された。
光輝く魔法陣から水面に波紋が広がり、やがては大きな波となっていく。
水面が盛り上がり、下からいきなり山が隆起するかのように水が突き上げられ、空へと飛び散る。
「久しぶり、やっと会えたわね。ユニグリフォス、パルソーサラー」
泉から二体の巨人が浮上する。
吹き上げられた水が雨となって二体の巨人と女性へと降り注ぐ。
「……それじゃ、行きますか!」
濡れた金髪をかき上げ、手を振りかざすと二体の巨人は足元に魔法陣を広げ、浮遊した。
一方、吹き飛んだ雨と巨人の浮遊により起きた風で窓が鳴り、近所に住んでいる老人、吉田さんの目を覚ました。
何事かとイラつきながらカーテンを開けて外を見る。
「?」
窓には水滴、地面も濡れている。
だが、空は雲一つない月浮かぶ夜空だった。
そして御式湖の周囲に人影もなく、水面は平穏そのものといったように揺れていた。
× × ×
御式町中心部にある電車通りにある塾、
夜が深まっていく時間だが、受験生やほかのやる気のある学生のためにまだ設備を使わせ、ライトがどの教室もついている。
一階の職員室には二人の塾講師が転任になっていた。
塾長と書かれたプレートの置かれた机に、筋骨隆々の体格をした大男と髪が異様に長い一見すると少女に見える男が塾長の椅子に座ったオールバックの男の前に立っている。
「久しぶり、良く戻ってきてくれたわね」
「うるせーんですよ。都会で暴れて支配して来いって言ったのはあの……あいつはどこ行ったんです? 先に戻ってるんですよね?」
大男が苛立たし気に周囲を見渡す。
「魔王様なら、忘れ物を取りに行くってどっかに行ったわよ」
「へぇ~、魔王様人を呼びつけて置いていないのか。おかしな話だよ」
髪の長い少年が口を尖らせて悪態をつく。
何でもない光景なはずなのだが、オールバックの男はまるで幽霊を見たかのように目を見開かせた。
「ちょっとフロッリー、あんたいつの間に普通の話し方になってるのよ! ずっとどこどこ何々って変な話し方だっ……」
追求しようとするオールバックをマッチョマンが手で制した。
「言うなネス、フロッリーもいろいろあったんだ。一言いうとすれば、就活の面接地獄は人を変える。ただ、それだけだ」
「あ……そうなの……あなたも大変だったみたいねルオウ」
悲し気な大男———ルオウの表情から大体のことを察したオールバック―—―ネス。
気を取り直して二人に向き直る。
「まぁ結局、就職して講師としてここにこれたんだからいいじゃない。東京で世界征服のために暗躍出張とかいう不明瞭な目的で浮足立った生活から、地に足着いた生活になるんだから」
「そういう話はよした方がいいと思うけどな僕は、ほかの講師たちも教室にいるんだし。下手に聞かれたらまずいんじゃない? それにここでは僕らは
職員室には三人のほかには誰もいないが、なにかの拍子に聞かれるという可能性は十分にある。
「そうね。で、先日帰還命令を出したのは大願を諦めるため。じゃなくて、この街で何かするらしいわよ」
「はぁ? もういいですよ。もう帰るのは諦めて普通に暮らしましょ普通に。あっちで俺たち酷い目にあったんですから」
「もう、銃に囲まれて……戦車の弾を撃たれるのは嫌だ」
呆れて反論する梟谷とトラウマがよみがえったのか肩を震わせる蛙田。
「そう言わないの。あたしたちは魔王様から生み出された眷属だから正直世界を支配するとかどうでもいいけど、あの子はあっちの世界で生まれてからずっと魔王として生きてきたのよ。この世界で一人の人間として生きていくのが耐えられないのよ」
「…………」
「…………」
蛇原の言葉に二人は黙ってしまった。
やがて何かを決意したかのように梟谷が手を叩く。
「よし、それで? 今回は何をするんだ? この街で一体何をすればいいんだよ」
「あたしたちがやることはこの街を破壊することよ」
「破壊? 僕たちが? また魔物を生み出すの? でも、べヘモスみたいのいくら出してもあんまり効果なかったよ」
蛙田が反論する。
「わかってるわよ。だから、今度はもっと大きな奴、街を破壊しつくすのに効率がいい巨大な……それを今魔王様がとりに行ってるみたいよ」
ニコッと蛇原が笑った。
「へぇ、面白いですねぇ」
梟谷がにやりと口角を上げて笑い、
「ま、僕たちそのための生き物みたいなもんだって言っていいし、あんまり考えるの苦手だからやれと言われたらやるよ。破壊活動。喜んでね」
最後に蛙田がフッと笑った。
悪役の定番、三人顔を見合わせて高らかに笑いあおうとアイコンタクトをし合い、
「ア~ハッ……」
「お疲れ様で~す塾長」
「は~い、お疲れ様です~」
「「お疲れ様です!」」
アルバイトの塾講師が入室したことでやめた。
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