第11話 三つの心をひとつに……、
権五郎を見ると、確信に満ちた目で司を見返している。
しばらく目が合い、司は口を開いた。
「やだ」
「ン何ッ⁉ 貴様、鷲尾君の話を信じておらんのか⁉」
「正直そこは半信半疑だよ。鷲尾さんが嘘を言っているとは思えない。けど、だったら魔王は何で二十年何もしなかったって話になるだろ?」
「力をためていたに決まっておろうが。鷲尾君たちのデルタヒップ分隊に負けたすぐ後で力も残っておらなんだろう」
鷲尾が隣で小さく「デルタウッド分隊です」と訂正する。
「二十年も? 時間かけすぎじゃないの?」
「う、それは……」
「そもそもトロルとかゴーレムとか、この地球上には存在しないし、出たとしてもこんなものを使うまでもなくて戦車とか戦闘機が何とかしてくれるだろ。つーか、そもそも動くのかコレ?」
コバキオマルの頭をコンコンと叩く司。
「そんなもの魔法で通じないよ。トロルやオークのような巨大な魔物は無理を擦ればいけないこともないけれど、街には被害が出る。強大な魔力が使える敵義骸が出たらなおさらだ。転送魔法や空間跳躍魔法を使われる。単純に兵器を使うだけでは街は守れない」
「でも、最近の兵器は発達してるから、魔物とかギガイ……だっけ。が出ても絶対に倒せると思うけどな」
「僕たちが求めているのは魔物を倒す兵器じゃない。街を守るためのロボットだ」
「…………」
真剣な目で鷲尾が司の目を見る。その瞳に司は押されて、言葉を詰まらせてしまう。
「……会長は信じてるんですか? 魔王の話」
さっきから言葉を発さずに銃を磨いている唯に話をふる。
「私は鷲尾さんの魔法を見せられて、一時期は彼のもとで修業したこともあるし、何より私がどうして銃を持たされ、使い慣れていると思う?」
そういえば、先ほどの鷲尾の魔法を見せるために銃を撃った時はまっすぐに鷲尾の額へ向けて銃弾を飛ばしていた。今も反動で肩を痛めた様子もなく平然としている。普通に感じてしまっていたが、扱いをちゃんと知っていないとできないことではないのか。
「私は戦ったことがあるんだよ。魔物って呼ばれる化け物と。それと戦うためにこの銃は作ってもらって、訓練も積んだ」
「え、え?」
そんなのは初耳だ。人知れずに唯が魔物と戦っていたんて。
「というか、魔物ってこの世界にいるんですか⁉」
「いたぞ。でも熊とあんまり変わらない外見してたな……もしかしたらあれは熊だったかしんない。目の血走ったでかい熊」
「熊じゃないです、べヘモスです。日本のヒグマにそっくりだったけど、角があったでしょう? それに夜の新宿の街で熊が突然十体以上も出るわけないでしょ?」
「確かにそういわれればその通りであるな」
「い、一体何の話をしてるんですか⁉」
世間話にしては現実離れしたことを話し出されて困惑する。
唯はからかうような目で司に視線を戻し、あごに手を当てた。
「司。確かに私も最初は権五郎さんの言葉を信じることはできなかった。異世界があったとしても自分の日常とは関係ないことだろうと。だけど、実際に魔物がこの世界のどこかに現れて誰かが何とかしなけばいけないと気付いたから、私はここにいるだけなんだ。お前にここにいるべき人間なのだとしたら……今、無理に決めなくていい。いずれやるべき時が来る。来なかったとしたらそれはそれでいい。君が戦う必要がないだけなのだから」
「会長……」
「それより、君は何か忘れてないか?」
「何か?」
「君がここに来たのはお金がないからだろう」
「………あっ!」
すっかり忘れていた。
イノセンティアとかいうファンタジー世界や、魔王が地球を支配するとかそういう派内云々の前に、司にとって重要なことがあった。
「金? なんの話だ?」
「実はですね。かくかくしかじかでして……」
司の事情を知らない権五郎と鷲尾に唯が、ガチャをしすぎて金を失った話をする。
「たるんどる! 貴様、今までわしが修行して身につかせた健全な精神はどこに行ったのか!」
「てめぇに修行されてついたのは無駄な筋肉と周りに嘲笑されても強く生きていける心だよ! 俺はその硬い意思でどんなに無駄と言われてもガチャを回しただけだ!」
「この……貴様、ここで働き修行のし直しだ! その精神を叩きなおしてやる! 当然無給で働かせるぞ! 覚悟しておけ!」
「ふざけんな! その言葉が現代日本で通じると思うな! こんなところ働いてたまるかよ!」
「お金、ないのか」
「え……?」
司と権五郎が喧嘩している横でボソッと鷲尾がつぶやく。
「うちで働くなら、給料出すよ。時給二千円で」
「時給、二千円……!」
地方学生のバイトとしては破格の金額だ。それに古くからの付き合いで身内同然の人たちだからこちらの事情も理解して融通が利きそうだし、業務内容に目をつぶれば滅茶苦茶いいバイトだ。
悩む、悩みどころだが……。
「よろしくお願いします」
一秒もたたないうちに気が付けば鷲尾に深々と下げていた。
「うん、これからよろしくコバキオマルメインパイロット。池井戸司君」
ポンと、司の肩に鷲尾の手が置かれる。権五郎は「無給だ! 無給で働かせろ」と騒ぎ立てていたがまぁまぁと唯に止められていた。
司は肩から手が離れるとこれから自分が扱うロボット、コバキオマルを見上げた。
「……メインパイロットか、メイン?」
メインという言葉が妙に引っ掛かった。わざわざメインというからにはサブもいるのか?
「あ~あ、決めちゃったか。司さん」
女の子の声が工場内に響いた。
コバキオマルの頭部から女の子が顔を出す。
「今の声って……」
聞き覚えのある女の子の声だった。
つなぎを着て、コードが伸びたノートパソコンをもった少女がコバキオマルの頭部から見下ろしていた。
「お前……
「よっ」
「ど、どうしてここに⁉」
「阿呆、おじいちゃんの孫なんだから、あんたより先に巻き込まれていてもおかしくないでしょ」
「そりゃそうだけど……」
「彼女はコバキオマルのサブパイロット2兼エンジニアだ。貴様が操縦する間基本的に機体の出力調整をやってもらうことになっている」
鷲尾が横から説明する。
「サブパイロット……2。2があるってことは……」
「そう、1は私だ」
唯が手を上げる。
いさめていた唯から体を話し、気を取り直して権五郎が白衣をなびかせる。
「この! コバキオマルは三人が心を合わせてこそ真の力を発揮するスーパーロボットなのだ!」
自慢げに権五郎が工場に響くほど声を張り上げる。
「ちなみに頭部、胴体部、各腕部脚部の三つに分かれ変形して全く別の機体にもなれるから、そこもちゃんと活用してね」
「分離でできんの⁉ どうしてそんな機能つけたの⁉」
付け加えて説明する鷲尾を振り返り更なる説明を求めるが、司の疑問に答えたのは権五郎だった。
「
しみじみと頷きながらそう答えた。
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