第10話 偽骸 —ギガイー
「え?」
「論より証拠だ。とりあえずその銃で僕を撃ってみてくれ」
「え? え? これ本物ですか? いや、そんなもの撃てませんよ。普通に死ぬでしょ?」
随分と自信満々だが、風が吹いて弾がよけてくれるとでも思っているのだろうか。夢見がちな妄言に付き合って前科一犯とかは本当にごめんなんだが。
「どうして、司に撃たせようとするのか、鷲尾さんは……」
「会長!」
気だるそうに頭を掻きながら唯が歩み寄り、司の手から銃を取り上げる。
良かった。会長が場を治めてくれる。そう思ったのもつかの間。
バンッ……!
唯は何一つためらうことなく、鷲尾へ向けて銃を撃ち放った。
「え、えええ~~!」
殺人を! 会長が人を殺してしまったぁぁ!
「見ろ。司、弾は鷲尾さんには当たっていない」
「え?」
混乱し、どうやって鷲尾の死体を隠し続けるか瞬時に頭を巡らせる司だったが、鷲尾を見ると確かに鷲尾は健在だった。
彼の前に光の壁が展開され、空中に浮遊していた。その中心に銃弾がめり込み、やがては重力に引かれ、床へと落ちていった。
「これが魔法だ。僕たちイノセンティアの人間は訓練すればほとんどの人間が使えるようになる」
「な、なるほど……!」
「うん、あまり驚いていないね。もっと叫ぶほどだと思ったけど」
「いや、昔魔法の修行をされたのはこういうわけかと今理解してね。そして、俺に習得させようとしたじじいの馬鹿さ加減に呆れたのもあって、正直興奮してるけど、色々複雑……」
別世界の人間じゃないと使えないじゃないか。つまりは修行をしても自分は使える可能性はゼロだったわけで、「あっ」と声を上げて思いだしたような表情をしているじじいを殴り倒したくなる。
「それより、どうして会長は銃を……もしかしてエアガンの改造ですか?」
「いや、作った。わしがな」
自信満々に権五郎が答える。が、完全な銃刀法違反である。
「まぁ、スーパーロボットがいる時点で法律云々は破りまくりか」
「で、何だが、イノセンティアという別世界があるのは理解してもらえたかな?」
「不思議な力があるのはわかりますが……どこにあるんですか? イノセンティアって、別の星とか? いきなり言われてもすぐにはスッと信用できないというか」
「別次元、としか言えない。イノセンティアの魔法で次元を超越することができ、たどり着いたのがこの世界だった。恐らくこの世界、宇宙には僕たちの故郷はない。別の宇宙に跳躍するほどのことをしなければたどり着けない、平行世界といったところか」
「平行世界……」
「どんなところか、気になるまなざしをしているね」
確かに気にはなっていたが見透かされると癪だ。
眼鏡を上げて鷲尾が続きを話し始める。
「僕たちがいた世界、イノセンティアは文明レベルで言うと中世と近代の間ぐらいのレベルだ。コンクリート技術は盛んではなくて、まだ家を作るのに煉瓦を使っている。だけど魔法が発達しているから交通はこの時代と同じようなレベルだよ。新幹線よりはるかに速い列車もあるし」
「へ、へぇ~、列車。イメージと少し違うけど、魔物とかいるの? そういう世界では常だけど」
「いるよ。こっちの世界ではオオカミやクマのような獣は武器や人間の知恵で何とか撃退し、生物界の頂点に人間が君臨できているけど魔物はそれが通じない。試したことはないけど、魔法を使える魔物もいるから弾丸は魔物に届かないんじゃないかな? そして、相手の魔法で殺される」
「じゃあ、魔物に支配されている世界ってことか?」
「いや、強力な魔物は繁殖能力が低くて数が少ないから完全に支配されているというわけではないよ。ただ、拮抗しているといった方がいいかな。ただ、魔王っていう強力な頭領が出てしまって、僕がこの世界に来る直前まで人間の王国がいくつも滅ぼされたりしていた。百は超えていたかな?」
「百⁉ そんなに? いったい何人の人が死んだんですか?」
「数えられないよ。ハハッ、滅茶苦茶殺されたんだから」
ハハって、笑い事じゃない。
「だから僕たちは討伐隊を作った。
「………」
つばを飲み込む。
鷲尾は昔話を懐かしみながらするような口調だった。それが、嘘を言っているようには見えず、本当にあり、目と耳で感じて、体験したことのように見える。
「鷲尾さんは、聖騎士だったんですか?」
「ああ、その
「すげぇ……鷲尾さん?」
落ちこぼれが悲願を達成させたという誇らしい話をしたというのに、鷲尾は寂しそうな目をしていた。
「あ、い、いや、それで魔王が差し向ける魔物との戦いで一番有効だったのが巨人だったというわけさ」
誇らしげに巨人を見る鷲尾。
「魔王は人の身の丈を大きく超えるゴーレムやトロルを戦場に投入する。敵のウィッチに魔法で守られて、こちらの攻撃は容易に通らず、城壁や城を破壊されてきた。その対応策として作られたのが、大型の魔物の外殻と魔法を通す樹を骨組みに使った
「で、こっちに逃げられた」
「そう、その通りである!」
鷲尾が「痛いところを突かれた」と胸を押さえる横で、胸と声を張る権五郎。
「わしは二十年前のその時、丁度この街に落ちてくる魔王たち残党の姿を見た。この目でな! それから二十年間、いつ攻めてくるのかとやきもき……危惧しながら対策を年々考え続けていたというわけだ!」
「それがあのオカルトチックな特訓の数々というわけか、なるほどなるほど……」
しみじみとコバキオマルを見上げる司。
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