記録⑤

男は一人で午後の寒い道を歩いていました。

四月になり、春の陽気さが訪れていた近日にも関わらず、今日はやけに肌寒く、歯がカチカチ鳴っています。これは寒さのせいではないことは男自身が分かっていました。

新しく社会人としての一歩を歩み出し、人生で初めての会社というものに就いた男でしたが、なかなか馴染めずに困った社会生活を送っていたところ、同じ会社のとある女の人から声をかけてもらったのです。そしてあろうことが、どんどん二人は意見が合い、どんどん仲を深めていき、そして遂には今日、二人でデートという結果にまで事が進んだのです。

とんとん拍子に関係が深まり、一番驚いていたのは男本人でした。

生まれて初めての女の人とのデートです。会う前にも関わらず緊張のせいで手足が冷たくなっていました。

聞くところによると彼女は一年前に一度入院歴があるそうでした。

もし付き合えたら、自分が支えてあげなければならない。

男はそんなことを考えました。

もし付き合えたら…?あんな美人が自分と付き合うなんてことがあっていいのだろうか。

昔からの癖で、そんな感情が男を包み始めました。

何だから急に悲しくなってきて、男は今すぐ帰りたい気持ちになりました。

どうしようと動きの止まった自分のつま先を見ながら立ち尽くしていたとき、突然肩を叩かれ、男は小さく跳ねてから後ろを振り返ると、そこには華々しい私服姿の女の人がいたのでした。

普段は絶対に見ることのできない私服姿の同僚の眩しさに男は固まってしまいます。

「今日はよろしくお願いします、悠介さん!」

そう言って彼女は少女のような笑みを浮かべました。

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