記録②
男はとある病院の一室のドアを開けます。周りには他の患者がいるのにもお構いなしに力強くドアを開け、中に飛び込みました。カーテンを開けると、そこには驚いたような顔の恋人がいました。
「ゆうちゃん!どうしたのそんな慌てて」
「慌ててじゃないよ!どうして言ってくれなかったんだよ」
「ごめんゆうちゃん、倒れてからずっと病院で、なかなか連絡するタイミングがなかったんだよ」
「また入院になったって…俺がどんなに不安だったか…」
そう言うと男は恋人に抱きつきました。
「痛いよゆうちゃん」
彼女はそう言うものの、点滴のされていない方の手はしっかりと男の背中へ回され、背中を優しくさすっています。
「ごめんね、ゆうちゃん、心配かけて」
そう言う女の目にはうっすらと涙が滲んでいます。しかしそれ以上に男は目にいっぱいの涙を溜め、今にも泣き出してしまいそうでした。そうしてお互いの顔を見合い、二人は笑いだしたのでした。
しばらくしてから女の両親が見舞いにやってきました。
彼女の容体は両親の方へ詳しく知らされていたようで、両親が言うにはしばらく安静にしていれば次第に良くなり、退院もすぐのようでした。そのことに男は胸を撫で下ろします。
それから夜になり、病院内が静かになり、両親も帰宅し、男と女は二人きりになりました。蛍光灯の淡い光が二人の繋がれた手を優しく照らしています。
「ゆうちゃん、私これからどうなるんだろう」
女は顔に影を落としたままぽつりと言いました。
男は間髪入れずに彼女の手を強く両手で包み、答えます。
「何をそんなに弱気になってんだよ、お医者さんも治るって言ってたんだし、絶対治るよ。二回入院するくらいそんな大したことじゃねーよ。世の中には何度も入院しても元気になるやつだってどれだけでもいるんだから!」
しばらく女は下を向いていましたが、やがて納得したように頷き、小さく「うん」と答えました。
それから二人は少しの間会話し、やがて女は静かに寝息を立て始めました。それを見て男は安心し、自分もパイプ椅子に座ったまま壁に身体の側面を預け、眠りに入ります。多少寝心地が悪くても何ら問題はありません。こうやって彼女と手を繋いでいられるのなら。
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