恋の記録
流音
記録①
男は一人で午後の暖かい道を歩いていました。革靴がコツコツと小気味がいい音を立てるその姿は、美しく、しわひとつないスーツ姿に包まれ、手には色とりどりの花束が抱えられています。その男の表情はどこか不安げで、しかし希望に満ち溢れ、目には光が灯っていました。
男がしばらく道を行くと、前方から突然自分の名前を呼ばれました。ふと男が顔を上げると、そこにはどこか見たことのある男がいました。そして少し考えを巡らせ、その男が自分の友人であることに気がつきます。最後に会ったとき、彼は黒いスーツに髪をオールバックにかきあげ、キッチリと身のこなしをしていたため、今の彼とはなかなか結びつきませんでした。
男はその友人に「久しぶり」と声をかけます。派手な水色のTシャツに橙色のパンツ。かなり目がチカチカする服装です。相変わらずのセンスのなさに男は少し笑ってしまいました。
「やっぱり悠介じゃねーか!」
彼はそう男に呼びかけます。
「その花は…どうし…」
友人は言ってからはっと何かに気付いたようでした。
「ああ、今から彼女と、その両親のところに…」
そう答えると、友人は神妙な顔つきで答えます。
「ああ、頑張れよ…これからも。俺たちがついているからな」
そのまま二人は少し話をした後、男はかねての目的地である自分の恋人の家への道をまた歩み始めました。
男は徐にスーツの内ポケットから指輪の入ったリングケースを取り出し、黙って見つめました。
少し緊張したような面持ちで、しかし顔には笑みを浮かべようと努力して、男は歩き続けます。
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