百十五話 銀色生物再びー2

 初対面の挨拶を終えたところで、神矢は銀色生物にここに来た目的を話すことにした。

「もし君たちが、この地底世界について何か知っているのなら教えて欲しいんだ。特にこの世界に住む先住民について」

 神矢が言うと、四体は顔を見合わせた。

 そして、指で丸の形を作って神矢たちに見せた。

「ありがとう。それじゃあ頼むよ。九条さん、矢吹さん、座って目を閉じて下さい。彼らが手を頭に置いて映像を見せてくれます」

「お、おう、わかった」と、戸惑いながらも座る二人。

「き、緊張するな」

「あ、ああ。さすがの俺もコレはさすがにビビるぜ……」

 そんな二人に神矢は苦笑した。

「大丈夫ですよ。VRみたいなもんですから。さ、始めてもらいましょう」

 神矢も座って眼を閉じた。頭に銀色生物の手が乗る感触がした。

 そして、映像が瞼の裏側で再生された。


 四体の銀色生物が横並びに立っていた。

『じゃあまず、ワタシたちのことから紹介します』

 前回は音声が皆無だった為に、驚いて思わず目を開けてしまった。九条たちも同じく、目を開けて彼らを凝視していた。

『目を開けないでください』

 声だけが脳内に響き、神矢たちは「あ、はい。すいません」と謝って再び目を閉じた。そして、そのまま訊ねた。

「……俺たちの言葉を話せるのか?」

 銀色生物は、少し機械的な音声で答えた。

『この前、あなたの記憶を読ませてもらった時に、言語も習得しました。実際に喋ることはできませんが、こうやって映像でなら会話することができます』

「……とんでもなさすぎだろ」矢吹の呟きに、映像の一体がクルクル回って楽しそうに踊った。あれは子どもなのだろうか。

『では改めて自己紹介させていただきます。と言っても名前などワタシたちにはありません。好きに呼んでくださってけっこうです。あなた方人間の家族で例えると、ワタシはこの家族の父親になります。そして、隣に立っているのが妻。その横が娘。そして、最近産まれた息子です』

『妻です』『娘でーす』『息子でーす』。

 娘と息子は随分とテンションが高い。あまりの出来事に、神矢たちは何も言えなかった。まさか、こんな形で会話できるとは思っていなかった。いや、嬉しい誤算ではあるのだが。

『まずは神矢さん、あなたには感謝を申し上げます』

「感謝?」

『はい。ワタシたちはあなたの脳に触れるまで、あなたたちのような強い感情を持ち合わせていませんでした。動物たちにも感情はありますが、あなた方人間程複雑ではありません。そんな人間の感情は、ワタシたちに衝撃を与えました』

「……今、俺たちもアンタらの存在に衝撃を受けているけどな」

「矢吹くん、気持ちはわかるが話を聞こう」

 矢吹の茶々に、九条は同意しつつ話を促した。

『そんなに驚かれることではないですよ。あなた方が言語や文字を使って意思疎通する事を、ワタシたちは脳内の電気信号による映像のやり取りで行っているだけですから』

「わかったわかった。とりあえず、話進めてくれ」

『はい。それでは、まずこの世界についてですが、神矢さんや桑田先生なる人が考えたように、ここは地上と同じように収斂進化を遂げた生物たちが生息する場所なのではないかと思われます』

 瞠目する神矢。この生物、あまりにも賢すぎる。それに桑田とのやり取りも、さっそく神矢の脳内情報で知ったようだ。

『そして、わたしたちのような生物も、地球のエネルギーや環境の影響を受け、様々な過程でこのような能力と身体になったと思われます』

「……いやはや。もう言葉がないな」

 九条の声から、神矢と同じ心境が窺えた。

 銀色生物の父が、口元を笑みの形にした。

『人間とは実に面白いですね。神矢さん、九条さん、あなたがたの心情がとても複雑で、まるで絡まった紐みたいです』

『絡まった紐ってこんなんかな?』

 映像内で、息子が長い紐にぐちゃぐちゃに巻かれている姿になった。『わたしもわたしも』と娘も一緒になって紐まみれになる。……微笑ましい光景というべきというかなんなのか。

 神矢は深呼吸して、少し心を落ち着けた。

「……話を進めてくれ」神矢は銀色生物に言った。銀色生物は『わかりました』と続ける。

『結論から言いますと、ワタシたちのような地上にはいない生物もこの地にはいます。コレもまたこの世界特有の産物なのでしょう』

 成る程。概ね、神矢や桑田の推論は間違っていなかったということか。

 だとしたら、やはりあの襲ってきた先住民もまた、地上の人類とは違った進化を遂げたのだろう。

 神矢が思い出した恐怖を読んだのか、はたまた神矢が思い浮かべた人物に怯えたのか、銀色生物の妻、娘、息子が怯えて父親の背後に隠れた。

 家族に『大丈夫』と父親は声をかけて、神矢たちを見て言った。

『神矢さん。その生き物は非常に獰猛で危険です。ワタシの仲間たちもその生き物に襲われて何体も生命を奪われたのです』

 その声には、憎しみとも取れる感情が込められていた。


               


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