百十四話 銀色生物再びー1
翌日、神矢たちはラーテルベアの巣穴へと脚を踏み入れた。
巣穴に入って少し進むと開けた場所に出て、ラーテルベアたちが神矢たちを取り囲んできた。
その目は、何かを期待しているように輝いている。
実は、巨大樹拠点の設立の時に、生徒たちが何度もここを通る際に、彼らに通行料としてあるモノを渡していたのだ。今回もそれを期待しているのだろう。
「待て待て。今出すからよ。順番に口に放り込んでやるから慌てんな」
矢吹が言って、小さめのリュックから包みを取り出した。神矢たちも同様に包みを出して開けてやる。
ピンポン玉ほどのオレンジ色の球。宮木特製、蟻蜜の飴玉だ。
蟻蜜を届けることもあるが、それなりに重労働なので、コレならどうだと宮木が作ったものである。
結果はラーテルベアに大好評だった。
最初はすぐに噛み砕いていたが、一頭が舐めることで味が長続きすることに気づいて舐め始め、他のラーテルたちもそれを真似しはじめた。今、彼らの間では、蟻蜜飴を舐めることがブームとなっていた。やはり頭の良い動物だ。
可愛らしい行動に少し癒された後は、神矢の案内で銀色生物のいる通路を通っていった。
道を知っているのは神矢だけだ。本当は、銀色生物がいる場所の奥にあるグロウワームの光のイルミネーションを雪野たちに見せてやりたかったが、それはまたの機会にする。
巣穴の奥まで来ると、前回銀色生物に出会った場所に来た。
「ここに銀色がいるのか?」
矢吹は彼らを『銀色』と呼ぶことにしたようだ。
「前回出会った時はこの場所でした。彼らが移動していなければいる筈です」
言って神矢は周囲を見回した。
少し開けた空間の真ん中に地面と天井を繋ぐ柱のような岩。壁には幾つかの通路がある。間違いなくここだ。
「銀色っぽいものは見当たらないけど……あ」
九条がソレに気づいた。
通路の影から除く銀色の一部。カブトムシなどの甲虫のような丸い点のような眼で、こちらの様子を伺っている。
「こ、コイツか? マジで銀色じゃねーか」
矢吹が少し大きな声を出して、銀色生物は慌てて隠れた。
「矢吹さん、声が大きいです。彼らが驚いたじゃないですか。とりあえず、まずは俺が彼らと話します。二人はそこで待っていて下さい」
「は、話すって、例の映像交換ってやつか?」
戸惑う矢吹に頷いて、神矢は両手を挙げて彼らにゆっくりと近づいた。前回、神矢の記憶を見ていれば、コレが敵意のないポーズだとわかるはずだ。
銀色生物はまたコッソリ様子を伺うように顔だけ出して、神矢を見ていた。
「俺を覚えているかな。ほら、この間ここで君らに手当てをしてもらった」
神矢は手を握手の形にして、銀色生物にゆっくり手を伸ばした。前回も握手を交わしていたのだから、これでいけると思うのだが。
少しの間神矢の手を見ていた彼は、身を翻して奥の方に去って行ってしまった。
「駄目じゃねーか」矢吹の声に神矢は頭を掻いた。
もう忘れられたのだろうか。かなり知能が高いと感じたから、覚えてくれていると思ったのだが。
どうしようか。そう思った時だった。
再び銀色生物が奥から出てきた。一体ではなく、三体程引き連れて。
前回は三体だった。一体増えている。それとも、もともと四体だったのか。もしくは、他にもいるのか。
その身体を見て、九条たちが絶句する。
「……神矢が描いた絵と同じだ」
「関節部分とかどうなっているんだ? ひょっとして軟体動物に近いのか?」
ほらみろ。いくら絵が下手だといっても、これくらいは描けるのだ。内心でそうほくそ笑んで、九条たちに抱いていたほんの少しの不満を解消した。
三体が神矢を取り囲み、棒線のような口の端を上に上げて笑みの形にした。そして、一体が手を出して握手を求めてきた。
「良かった。覚えてくれていたんだな」
神矢は銀色生物と握手を再び交わした。
それを見た矢吹と九条が「おお、マジか」と驚いていた。
「彼らは俺の仲間だ。危害は加えないから安心してくれ」
神矢がそう言うと、握手を交わした一体がのたのたと歩いて九条たちに近づいて、お辞儀するように頭を下げた。
「あ、これはどうも。ご丁寧に」
九条たちは完全に面食らいつつも、お辞儀を返した。
「いや、もうなんて言ったらいいのかわからんけど、とにかく凄いな」
「……同感だ」
初対面の挨拶を終えたところで、神矢は銀色生物にここに来た目的を話すことにした。
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