百十三話 情報の共有ー3
それから、九条は顎に手を添えて少し思案して言った。
「……先ほどの、他種族の話だけど、この地底世界にどれだけいるんだろうな」
「九条さん! マジ勘弁してくださいよ! あんなんがいっぱいいたら絶望しかないじゃないっすか!」
鮫島が文句を言うが、九条が言いたいことはそうではない。
「……その中に、話が通じそうな温厚な種族がいるかどうかってことですね」
神矢の言葉に、九条が頷いた。
「……まあ、日本語が通じるわけはないだろうがな」
地上では獰猛で恐れ知らずのラーテルが、ここでは温厚な性格をしていて、神矢たちと共生関係を築けたのだ。きっと、友好的な人種もいるはずだ。そう信じたかった。
だが、それを見極める術がない。あの危険な部族同様に、見つかったら終わりの場合もあるのだ。
一同は項垂れて、床をしばらく見つめていた。
本当に他種族の人類がいるかわからない。いたとして、相手が安全かどうかも分からない。言葉も通じない。
情報があまりに無さすぎる。この地底の知識がある者、言葉が通じる者がいなければ話にならない。と、考えて、神矢は「あ」と声を出した。
「どうした神矢?」
「……ひょっとしたら、彼らなら、何か知っているかもしれません」
神矢の言葉に皆顔をあげる。
「彼ら? 誰の事だ?」九条が訝しげに片眉を下げた。
「前に俺が出会った銀色の地底生物ですよ。彼らと呼ぶのは違うような気もしますが……とにかく、彼らは怪我をした俺を手当てしてくれて、体がなるべく冷えないようにタオルも巻いてくれました。俺の脳から情報を読み取って、手当てをしてくれるような温厚な知性ある生物なんです。こちらの頭に手を当てる事で考えている事も伝えられたし、彼らからも映像で言いたい事がわかります。現状で、この地底世界で意思の疎通ができる唯一の生物なんです」
銀色生物とはその仲間を探すという約束をした。それがまだ果たせていないが、約束を果たすためにもこの世界の情報が必要なのだ。
九条たちは顔を見合わせた。
「……神矢くんが言うのなら危険な生き物ではないんだろう。分かった。その銀色生物に会いに行こう」
「会いに行くメンバーは、俺と九条さんと矢吹さんにしましょう。大人数で行くと驚いて、出てこないかもしれない」
前回出会った時は、警戒しつつも興味を示して近づいてきた様子だった。
「……えー、俺も見たかったな、銀色地底人」鮫島と片桐、そして桑田がガックリと肩を落とした。
「彼らは見せ物じゃない」
「まあ、そうなんだけどよ」と片桐。そして、「あ、そうだ」と神矢を見た。
「だったらよ、絵を描いてくれよ。言葉だけじゃイメージできないし。それだったらいいだろう?」
九条と鮎川の顔色が変わったのは気のせいだろうか。マッピングに関しては神矢の代わりに九条がやっていたのだが。
「……絵か。まあ、仕方ないな」
神矢が頷くと、九条は片桐たちに「神矢くんの絵を見ても、笑ったりするなよ」と真剣に言っていた。
一分後、神矢は銀色生物の絵をみんなに見せた。
「……なるほど。人型でありながらも流線形であると。実に興味深い形の生き物ですね」
桑田が目を細めて言った。
「……てかさ、コレ宇宙人っぽくね? 全身銀色の人の形描いて、顔は目が点で口が棒線。関節とかなさそうだし、本当にこんなんなのか?」と鮫島。
「ある意味先住民より怖えよ、コレ」と片桐。
何とも失礼な反応である。
九条が「人には得て不得手というのがあるんだよ」と言ったので、神矢は三人をギロリと睨みつけた。
「……俺の絵が下手くそなのは認めます。ですが、コレに関してはこの絵の通りなんですよ」
三人は顔を見合わせ、もう一度神矢の絵を見て首を傾げている。信じていないようだ。
「……まあ、見れば俺の絵が下手くそかどうかわかりますよ」
憮然としつつ、神矢はそう言った。
そして、二度と人前で絵を描かないと決めた。
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