百十一話 情報の共有ー1
まずは情報の共有が最優先だった。
リーダーである矢吹と、当事者であった神矢と片桐、そして鮫島は、ラーテルベアの巣穴を通って校舎まで戻ってきていた。
校舎にたどり着くなり、神矢は、裂けた耳を見た九条たちに保健室へと連れていかれた。
早瀬に驚かれながらも、裂けた箇所を縫ってもらった。
処置を終えた神矢たちは、その後、講堂に数人で集まった。
神矢と矢吹、鮫島、片桐、九条、鮎河、桑田である。
そこで九条たちに、この世界には先住民のようなものがいるのを伝えた。
「……姿形は人間でしたが、その目が特徴的でした。肌は岩肌のような灰色で髪はボサボサ、メガネザルのように目が丸く大きく楕円形の瞳をしていました。動きは野生的で人の動きを超越していて、とても太刀打ちできる気がしませんでした」
神矢が説明して、片桐、鮫島が身体を震わせた。
「お、俺たちはそれの姿は見てねーけど、周りの雰囲気からとにかくヤバいってのは伝わったぜ。走って逃げている間に今までの人生振り返ったもんな……」
片桐はあまりの恐怖に走馬灯を見たようだ。
「人間にも危険に対する本能があるってのを実感したぜ……。全身の肌が泡立つ感覚ってあんなんなんだな……」
鮫島の肌には鳥肌がたっていた。
「……先住民の存在か。考えないようにはしていたんだがな」
九条が渋面で言った。その言葉から彼もまた、先住民の可能性を考えていたようだ。
「……メガネザルのように目が大きく、瞳が楕円形……か。そのような人類は聞いたことがありませんね。類人猿の一種なのでしょうか」
桑田が生物学の視点で言った。そんな彼に、神矢は質問をした。彼は地底生物を調べていたはずだ。
「桑田先生は、これまで地底生物を見て調べてこられて何か気づいたことはありますか?」
顎髭を触りながら、桑田は少しの間目を瞑った。
「……これでも、一応は生物学者の端くれ。わたしの意見でよろしいのであれば」
そして、神矢を見て言う。
「神矢くんは、
神矢は頷き、「詳しくは調べていませんが、ざっくりとなら」と答えた。
生物の進化の過程において、いくつか説がある。収斂進化とは、その一つで複数の異なるグループの生物が、進化の過程で似通った外見や器官を持つことを指す。例えば、鳥類の翼と、蝶の羽が構造と機能が似ているが、同一起源ではないといったように。他にも、哺乳類であるイルカと魚竜が似ていたり、モグラと昆虫のケラが似たような体型、前足を持っていることも挙げられる。
神矢は桑田の言わんことを理解した。
「桑田先生は、この地底の生き物、そしてこの地底の先住民がそうだと考えているんですか?」
桑田は頷いた。「さすが神矢くん。話が早い」
話についていけていないみんなは一様に首を傾げていた。
桑田が続ける。
「地上でも、過去には巨大な生物が存在していました。ティタノボアや、アンドリューサルクス、ダイアウルフ、サーベルタイガーといった生物です。どれも今では絶滅していますが」
「……どれも知らねーよ」と矢吹。
「サーベルタイガーは何かで聞いたことがあるわね」と鮎川。
咳払いをして、桑田は言った。
「……つまり、この地底生物たちは、地上でかつて巨大であった生物たちの名残を残しつつ、地上とほぼ同じような環境下でかつ特殊なエネルギーによって、地上の生物と似通った進化を遂げたのではないか、ということです」
「あ? 特殊なエネルギーてなんだ?」
矢吹の質問に、桑田は床を指して答えた。
「地球の核エネルギーですよ」
驚いた。少し前に神矢も考えていたことを、桑田も同じように結論づけたようだ。
「例えば、古来より地脈、または竜脈とも呼ばれていますが、それにもエネルギーがあるとされています。いわゆる風水的な考えですね。その考えでいくと、地脈──言葉通り地球の動脈なんですが、その動脈にエネルギーがあるのならば、心臓部たる地球の核には凄まじいエネルギーがあると考えるのが自然です。そして、それに近い生き物たちはそのエネルギーを受けて地上とは似て非なる進化を遂げた。それはおそらく地底にいた類人猿にも影響した可能性がありますね」
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