百六話 新区域の探索ー2
「神矢くんは誰と付き合うことにしたわけ? 雪野さんと上原さんと宍戸さん。なんか三人とも神矢くんとずいぶん仲良くしているみたいだけど?」
雪野がそれに意地の悪い笑みを浮かべて、「秘密です」と答えた。友坂は「……ふーん、まあ、いいんだけどね」と肩をすくめた。
雪野たち三人の中の一人を選べてないと知ったら、どんな反応をするだろうか。とてもじゃないが、言える気がしない。
強欲と思われても仕方がないのだ。神矢は自分の優柔不断さを呪った。……いつかは必ず答えを出すつもりだが。
「瀬里奈は……その、どうなの?」
山田が手を腰の後ろで組んで、恥ずかしそうに友坂に訊いた。
「わたし?」
「最近、林といるのを時々見かけたし」
「あー、アレはない。絶対にない。天地がひっくり返ることがないくらいない。林がどう思っているかは知らないけどね。確かに、アイツも浦賀の下にいた時に比べるとかなりいいやつになってるけど、そんなんでなびくほどわたしは軽くないわよ。そんな事を言う加奈子はどうなのよ? 矢吹は脈ありそうなの?」
「あ、それわたしも聞きたい」
雪野が会話に参戦した。
たちまち始まる女子の恋愛トーク。
神矢は一人ポツンと所在ない気分になった。かと言って、片桐たちとのカブトムシ談義に入る気もない。
「……矢吹くん、やっぱりわたしには興味ないみたい。いつも素っ気ない態度とられるし」
少し落ち込んだ口調で言う山田。
「そんな事ないって。加奈子が可愛いから、矢吹の性格上どうしたらいいかわかんないだけだって」
それはあると思う。矢吹が山田を見る視線は、他の女子と少し違う気がした。気を遣っているという点を除いたとしてもだ。神矢が内心で同意していると、雪野と目が合った。神矢くんと一緒だね、そう言われているように思えた。
神矢は頭を掻いて、余計な事かもと思いつつ山田に伝えた。
「矢吹さんは山田先輩を心配してましたよ。三人とも色々陰口叩かれてたけど、山田先輩だけが櫛谷先輩たち以外とあまり口聞いてないから、辛くて心細いんじゃないかって」
山田も友坂もそれを聞いて驚いたようだ。
「や、矢吹くんがそんな事を? ……なんだ。一応気にはしてくれていたんだ。やっぱ優しいトコあんじゃん」
目元を少し拭って山田は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「加奈子……気づかなくてゴメンね。アンタがそんなに傷ついてたなんて……」
「……山田先輩、わたしで良かったら話聞きます。役に立たないかもですが、話すことで楽になれることもあります」
「うん。ありがとう、雪野」
上手く話がまとまって良かった。そろそろ探索を続けたいと思っていたところだ。
未だカブトムシ議論を続けている鮫島たちを呼び寄せ、神矢たちは目標としている滝へと歩みを進めた。
「……すっっげぇ」
「……でっっけぇ」
鮫島と片桐が口を開けて、惚けていた。
巨大な滝が見えていた。
近くに来たわけではない。滝まではまだ5キロ程は森林地帯が続いている。神矢たちは、それを丘の上から見ていた。
その巨大で雄大な滝は見る者を圧倒させた。
有名なナイアガラの滝と比較しても劣らないであろう程の規模だ。
流れ落ちる水の勢いは凄まじく、もうもうと水煙が立ち込めている。遠く離れたこの場所からでも、爆音のような音が聞こえてくるほどだ。水は透き通ったエメラルドグリーンで、水飛沫の煙とのコントラストが見る者を惹きつけた。
だが、これだけの凄まじいものとなると、近づくだけで危険なのもわかる。離れて見るだけで良い。
「……ここ、日本だよな? 地底不思議発見で何でもあり言うても限度ってもんがありまっせ?」
片桐の言葉に、全員が頷いた。既に何でもありで、考えた所で無駄だと何度も言い聞かせても、やはり疑念はなくならない。時々、ここが地底だということを忘れそうだ。
「……滝に近づくのは無理だから、河下の方に向かってみよう」
神矢は言って、みんなを見回した。
「あいよ」「リーダーの言う通りに」「そうね」「オッケー」
頷く鮫島、片桐、山田、友坂。雪野だけが返事がなかった。眼下に広がる森林の一部を目を細めて見ている。
「雪野さん?」神矢は彼女に声をかけた。
「……ねぇ、アレって煙じゃない?」
雪野が指差す方を見る。
「……どこよ?」友坂が前傾姿勢をとり、胸が重力により強調された。
「俺には見えないな鮫島」
「そうですね。片桐先輩」
男子二人は友坂の胸に釘付けだ。
「……あ、ホントだ。よくあんな遠い所の煙を見つけたね」
山田も気づいたようだ。
神矢も見ると、確かに一キロ先付近で白い煙のようなものが立ち上がっていた。滝の水煙で全く気づかなかった。
煙が上がるということは、二つの要因が考えられた。一つは自然火災……。そして、もう一つは……。
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