百五話 新区域の探索ー1
巨大樹拠点周辺の探索をある程度終えて、警報の代わりとなる鳴子を設置し、また獲物を獲るための罠もいくつか設置した。
準備が色々と整った所で、ここからまた地上への手がかりを探るべく、新たな区域の探索を行うことになる。
今回は神矢が班長となり、班員に指示を出すことになった。
今回の班員は、神矢、雪野、鮫島、片桐、友坂、山田の六名だ。
神矢争奪メンバー──雪野たちが自分たちでそう言っていた──の中で、今回は雪野が参加した。三人の中で誰が行くかを毎回ジャンケンで決めているらしい。
山田に関してだが、神矢が友坂に相談したところ、いったん矢吹と距離を置かせようということでメンバー内に入れることにした。
普段、どのグループにも入ろうとしない山田だったが、今回は友坂がいるからか、別に嫌がる素振りは見せなかった。
鮫島は今までの事を償いたいと言って、情熱に溢れた目で訴えてきたので、気持ち悪いと思いながらも仕方なく承諾した。
鮫島の参加を、雪野たちは下着ドロの件もあってか嫌そうな顔をしていた。
「……あのパンツを拝んでいた男子よね。本当に一緒に行くの?」
耳聡く聞いた鮫島が、言った友坂に頭を下げた。
「その節は大変お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした! 汚名挽回のチャンスをお願いします!」
「……名誉挽回でしょうが。もしくは汚名返上。汚名をもっかい被ってどうするのよ」
鮫島は赤点組の中でも下のほうらしい。無理に使わなくていい熟語を使って頭の悪さを露呈している。……確かに間違えやすい熟語ではあるが。
そんなやりとりがあったが、とにかくこのメンバーで出発することになった。
装備は、神矢が弓とサバイバルナイフ。女子がクロスボウと威嚇用のスターターピストル。片桐は鉈で、鮫島が竹の先にナイフを括り付けた槍だった。
向かう先は、見張り台から見えた巨大な滝だ。その滝に行くには、また森林を通って東へといかなくてはならない。
見晴らし台から見たところ、ジャングルほど鬱蒼と草木が茂っているわけではなかった。比較的視野が確保されている分、外敵の発見も早いだろう。だからと言って、油断は禁物である。
道中、鮫島が鼻息荒くして神矢に言ってきた。
「神矢、何でも言ってくれ! 俺に出来ることは何でもするぜ!」
人が変わりすぎて本当に気持ち悪い。というか、怖い。
「……えっと、じゃあ後ろを警戒しておいてくれるか?」
「おう! 殿担当だな! 任せろ!」
一応使い所は間違っていないが、果たして分かって言っているのか疑問だ。とにかく、後ろにして離れることで少しはマシになるだろう。
やはり連れてきたのは間違いだった。神矢は後悔した。
歩き続けることしばし。
「うおお!」突然片桐が声をあげた。
「何だ! 猛獣か! 虫か!」
「み、見ろよアレ! 巨大金色ヘラクレスオオカブトムシ!」
片桐の指差す方を見ると、頭部と額から伸びる二対の角を持つカブトムシがいた。甲殻の色はなんと金色で、その大きさは人の腕の長さほど。
「す、凄え! 何だこのヘラクレス! 超絶レアな種類じゃねーか? こんなん見た事ねぇ!」
鮫島も大興奮だ。
「……珍しい昆虫なら今まで散々見てきただろう。たかが、金色のカブトムシで……」呆れて神矢が言うと、
「カブトムシを馬鹿にするなぁ!」
「お前には少年の心が無いのか!」
と片桐と鮫島に怒鳴られた。
「カブトムシは昆虫界の王なんだぞ! ヘラクレスはその世界の王だ! その王がメチャクチャでかくて更に金色の身体を持っている! まさに、王の中の王! いや、昆虫界の神!」
「片桐先輩の言う通りだ! 神矢! お前にはカブトムシの素晴らしさをわかってない!」
アホらしい……。神矢は深々とため息をついた。
二人がヘラクレスを近くで見ようと近づいていくのを見て、
注意しようとしたが、二人は突然近づくのをやめた。
「……おっと、こんなデカいカブトムシに挟まれた日には、肩腕どころか胴体まで真っ二つになりかねん」
「そうっすね。この世界では油断は禁物ですからね」
神矢が言うまでもなく、二人は分かっていた。彼らもまた成長しているのだと、少し感心した。
「まったく男子ってのは……」と二人が距離を置いてカブトムシを観ているのを呆れた顔で見つつ、「そういえば」と友坂が雪野に訊ねた。
「神矢くんは誰と付き合うことにしたわけ? 雪野さんと上原さんと宍戸さん。なんか三人とも神矢くんとずいぶん仲良くしているみたいだけど?」
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