九十九話 新拠点

 鮫島たちの改心により、心持ち全体の指揮が上がった。

 彼らは探索にも意欲的に参加するようになり、採取した物の運搬などでそれなりに活躍するようになった。

 ……コレ程までに人を変える下着とは一体? 

 下着を神の如く崇めていたというから、何か特別な布を使用しているのだろう。素材はきっとこのジャングルで手に入れた何かだ。あの蚕蛾の絹糸だろうか。

 何にしても一人でも協力してくれるのはありがたかった。

 さらに神矢たちは、ラーテルベアの巣穴への蟻蜜の運搬も、二日に一回は行うようした。この世界のラーテルは温厚で知性がある事はもう分かっている。他の生徒たちにも蜜を届けさせることで、顔を覚えてもらい、人間が敵ではないと知ってもらうためだった。

 みんな最初は怖がっていたが、そのうち慣れていって、むしろ頭や身体を撫でたりするようになった。ラーテルベアもそれを気持ちよさそうに受け入れていた。

 コレによって、巣穴を自在に移動することができるようになり、各方面への探索や採集の効率がグンと上がった。

 このラーテルベアの巣穴は、少なくとも直線距離で五キロ

はあった。人が楽に通れるほどの穴で、幾つも枝分かれしている。

 サバンナの向こう側の巨大樹の近くにも行けるし、蚕蛾のいる森も行ける。地底温泉の近くにも通じていた。

 銀色生物の場所に関しては神矢は教えなかった。黒河あたりが余計なことをしでかさないか心配だったからだ。

 とにかく、ラーテルベアという守護獣が味方になる事によって得られた恩恵はかなり大きい。

 だがいくら慣れて危害を加えてこないといっても、相手が言葉が通じない獣であることは変わりがない。動物園で小さい頃から人間の手で飼育されている猛獣でも、野生の本能が覚醒して襲われる例もある。

 これはあくまでも共存共生であって、人間が彼らの上に立ってはならないのだ。

 その事を生物学の教師の桑田がみんなを講堂に集めて、伝えようとしたが、授業のように説明するので大半が寝てしまった。仕方がないので、矢吹が要点だけ纏めてみんなに気を抜かないように厳重に注意した。

 そして、ラーテルベアの巣穴を通り、物資を巨大樹の樹洞へと運び込み続けて数日──。

 新たな拠点が完成した。



 地面から二メートル程の位置にあった樹洞の入り口には、竹製の梯子がかけられて、誰でも簡単に中に入れるようにした。

 猛獣が襲ってきても、梯子を取り除くか、中から槍で突いて撃退すれば問題はない。

 虫の侵入に関しては、洞窟の時と同様に、入り口付近に処理した虫除けの草花を潰して塗ったり、定期的に燻して煙を焚いたりした。

 中は洞窟並かそれ以上に快適な空間だった。

 地面は土だが、細かい芝主の絨毯で全く問題がない。寝転がっても皮膚にチクチク刺さるどころか、柔らかな絨毛のようでふわふわとした肌触りだ。

 樹木の集合体となっている壁面には、幾つか内側にも太い幹が絡まり合って出っぱっていて、それが上部へと伸びているために天然のスロープが出来上がっていた。コレによって上に登る事も可能だ。足元がやや滑りやすかったので、松脂を乾燥させたものを粉状にして、散布して滑りにくくした。さらに、所々に棒を立ててそれにロープを結び簡易手摺を作成した。

 ロープをつたって上へと登ると、壁面に人が通れる程の穴があり、出た所に足場を組んで見晴らし台が作ってある。

 ここからの景色は相当遠くまで見通す事が出来た。……それでも、この地底世界の終わりまでは見えなかったが。

 一階部分奥側には、洞窟の時と同様に男子部屋と女子部屋が作られた。これもまた、洞窟同様に竹で作った仕切り程度の部屋だが、不満はなかった。地面が土であるため、こちらの方が安定して立てることが出来た。

 左手奥……女子部屋の隣には、これもまた竹や学校で加工した板材で囲った女子トイレが設置してある。

 さすがにこれは洞窟のようにはいかなかった。穴を深めに掘ってそこに用をたす仕様で、最初は女子から非難轟々の嵐だったが、とりあえずは渋々納得してくれるようになった。

 女部屋の隣に設置することで、男子の目を気にすることもないし、排泄したものは、翌日には綺麗になくなっていたからだ。おそらく、文字通りこの巨大樹の肥やしとなったと思われる。バイオ処理だとしてもあまりに早すぎる気もしたが、まあこんな事は今更だ。

 とにかく、女子たちの不満はとりあえずの所は治って事なきを得た。

 男子トイレも同様に男子部屋の横に設置した。

 中央右寄り辺りには何も置かず、それなりの広場となっていて軽い運動ならば問題なくできた。

 その反対側が、食糧置き場と石材で組み上げた調理場となっている。各種調理器具も、ある程度は校舎から持ち出してきてあった。

 これが新拠点の全貌だった。

 

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