八十五話 光のパレード

 光の球が吊るされている根本を見ると、そこには何かの生物がいた。

 イモムシのような形の生物。

 グロウワームだ。土螢ツチボタルとも呼ばれているその生物は、洞窟などの天井に張り付き、光る粘着質の糸を垂らす。そして、光に吸い寄せられる羽虫の性質を利用し、糸に絡みつかせて捕食する。

 この世界でのグロウワームは、地上のものより体長も球も大きく、更に光も強い。

「……凄いな」神矢はその光景にしばらく見惚れていた。

 グロウワームの存在は聞いたことがあった。ニュージーランドやオーストラリアの洞窟に生息するのだが、その宇宙空間のような幻想的な光景が観光スポットとして人気だと何かで知った。しかし、光は青白いものだったと記憶している。こんな電飾のような色とりどりの光ではなかったはずだ。

 まあこれも、九条の言う地底不思議発見の一つだと思う事にする。

 とりあえず、この明るさだと松明は必要ない。火を消して、自然の……ある意味不自然だが、このイルミネーションを堪能する。

 これは先ほどまでの試練を乗り越えたご褒美だろうか。だからといって、もう二度とあんな試練のようなものはゴメンだが。

 もしもここから脱出できて、この場所に戻る事が出来るのなら、みんなを連れてきてもいいかもしれない。まずは脱出してからの話だが。

 いつまでも、天然のイルミネーションに見惚れているわけにもいかない。

 意識を現状に切り替えて、神矢はリュックの中を確認して、頭を掻いた。

 燻製肉があと一欠片しかなかった。先ほどの鼠の大群に使ったせいだ。

 それから、宝石の原石を取り出して眉根を寄せた。

 死の恐怖の代償で、とりあえず持ってきたが、冷静に考えると、こんなもの校舎に持ち帰ったところで争いの種になるだけではないか。

 地上に戻れた時には、大金持ちになれるかもしれない。が、持って帰れたところで、こんなものを高校生が持っていたら不審がられて、余計なトラブルになる可能性もある。

 もともと、目立つのは嫌いなのだ。それに、今は余計な荷物はなくして、身軽に動ける方がいい。この地底世界では、僅かな身の軽さが、生死の命運を分けることがあるのだから。

 そう考えて、神矢は躊躇なく、ゴミを捨てるようにアッサリと宝石の原石を後ろに投げ捨てた。

 そんなことよりも食料問題だ。

 とりあえず、ペットボトルの水はまだある。コレと一欠片の燻製肉で飢えをしのぐのは、かなり無理があった。

 地底湖を見た。ひょっとしたら、食べられる魚介類がいるかもしれない。しかし、こういった場所には、深海魚のような見た目気持ち悪いものがいるイメージしかなかった。

 ……見た目がグロテスクな深海魚でも、食べれるものは食べれるそうだが。

 おそるおそる、湖面に近づいてみる。警戒は怠らない。いきなり湖面から化け物魚やワニなどに襲われるかもしれない。

 湖は透明度が高く澄んでいた。水中を泳ぐ魚を見て、神矢はまたも少し驚きため息をつく。

 黄金に輝く魚が群れをなして泳いでいた。よく見ると、サバのようにも見える。

 黄金サバと呼ばれるサバは確かにいる。脂が乗る時期になると黄金色となるため、そう呼ばれているそうだ。

 この泳ぐ黄金のサバみたいな魚は、金色でさらに体内から発光しているかのような輝きを放っていた。グロウワームの光でそう見えるのかとも思ったが違うようだ。

 ……アレは食べても大丈夫なのだろうか。見た目はサバだ。きっと食べられるはず。

 神矢は意を決して、黄金の魚を手に入れることにした。

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