八十六話 鮫島たちの思惑
埋もれた洞窟の前にやってきて、九条たちは顔をしかめた。出入り口は完全に塞がっている。やはり、人の手ではどうしようもない。
上原が拳を握り、雪野も俯いて唇を噛んでいる。
「……神矢君無事でいて」
鮎川も心配していた。
「俺達は左側に沿って探索する」
矢吹がそう言って、彼のグループは左側に向かった。
九条たちは、右側の岩壁に沿って探索を始める。
一時間程して歩いたが、ただ岩壁が続くだけだった。
壁沿いには何もなかった。隙間のようなものすら見つからない。
九条は「くそ!」と岩壁を叩いた。
「あ」と宮樹が声を出した。
「どうしたの?」と雪野。
宮樹は岩壁と反対の森の中を見ていた。視線の先にはリス猿のような生き物が三匹ほどいる。
「……可愛い顔しているが、この世界で見た目で判断すると命を落としかねない。みんな用心しろ」
九条の言葉に、みんな緊張した面持ちで頷いた。
リス猿は九条たちの様子を少し伺っていたが、突然走り出して向かってきた。
「気をつけろ!」
九条は持っていた木刀を構え、戦闘態勢を取った。が、リス猿たちはその横をすり抜けて岩壁を登り始めた。どうやら、こちらに危害を加える気はないらしい。
リス猿たちは易々と岩山を登りきって、その上へと消えていった。
「あ」とまた宮樹が声を出した。
「今度は何?」と宍戸。
「あ、いや、壁ばかりに気を取られてたけど、洞窟が上に続いている可能性もあるなって」
「なるほど。確かにその通りだ。とすると、その逆の可能性もあるな。平地に穴が開いていてそこに繋がっている可能性もある」
都合のいい話はほとんどない。そんなことはみんな百も承知だ。だが、ほんのわずかでも可能性があるのならばそれを片っ端から潰していくしかないではないか。
今までの探索でこの岩山の上部は行っていない。ロッククライミングの上級者でもなければ登れそうにない程の高さと傾斜だった。
命綱なしで、素人が登り切れる高さではない。
少しでも傾斜がマシなところを探して先に進むが、とても無理だった。
「……いい案だと思ったんだけどな」
宮木が悔しそうに言った。
続いて平地に人が入れそうな穴がないかを探すことにする。しかし、時間をかけて探してもそういったモノは見つからなかった。
「……早く神矢くんを助けないと」
焦る雪野たちに、九条は言った。
「気持ちはわかるが、ジャングルは俺たちにとっても危険だ。慎重に行動を──」
「わかってるわよ!」怒鳴ったのは上原だった。「わかっているけど、仕方ないでしょう! こんな事でアイツが死ぬわけないって自分に言い聞かせても、不安で仕方ないのよ!」
「綾ちゃん……。それは、わたしも一緒だよ」
宍戸が上原の肩に手を置いた。
心配する雪野、上原、宍戸の三人。
その三人を、小山と田川が見て小さく舌打ちをした。そこに、鮫島の姿もあった。
「……神矢のヤツ、死んでてくれねーかな」
「俺も同意見だ。みんなアイツを重要視してるけど、別にアイツがいなくても問題ねーと思うんだ」
「その通りだ。ちょっと強いからってイキがりやがってよ。調子に乗ったバチがあたったんだよ」
小声でそんな事を言っていたが、九条は聞こえないフリをした。他のメンバーの様子を見る。鮎川が顔色を変えてコチラを見ていた。彼女も聞こえたらしい。他は気づかなかったようだった。
正直言って彼らを殴りつけたい衝動はあった。
昔の神矢は、きっとこういうヤツらに嫌気が刺したのだろう。彼の過去を少し聞いたから、余計に腹立たしかった。
「……もしよ、神矢が死んでたらさ、あの三人メッチャ落ち込むよな?」
小山が雪野たちを見て言う。
「だろうな。あいつら、神矢なんかに夢中だからな。今でさえあんな状態だ」と、田川。
そして、鮫島が下卑た笑みを浮かべた。
「目障りな神矢が死んで、雪野たちは悲しみに暮れるだろう。だが、そこがチャンスだ。心に空いた穴を俺たちが塞いでやればいいんだ。すると、俺たちも彼女たちも幸せになれるというわけだ」
「鮫島、お前天才だな。あ、ちなみに俺は上原な」
「田川は強気な女が好きだからな。俺は宍戸だ」
「小山はロリ系メガネか。見事に意見が分かれたな。俺はもちろん雪野を狙う」
そして、三人は円陣を組んで手を中央で重ね合わせた。
そんな彼らを見て我慢の限界に拳を震わせていると、鮎川が手を九条の拳に重ねてきた。
「九条さん、落ち着いて。彼らは後でちゃんと叱っておきますから、今は神矢くんの捜索を優先しましょう」
鮎川に言われて、九条は息を吐き出した。
「……そうだな。くだらない事に時間を取られている場合じゃないな。すまない」
鮎川は「いいんです」と首を横に振った。
そして、しばらく周囲を探し回ったが、洞窟などに繋がりそうな穴はなかった。
九条はもう一つ思いついた案を決行する決意をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます