八十九話 未知の生物ー

 どれくらい気絶していたのか。神矢はふと眼を開けて、銀色の生物が三匹、神矢を取り囲んで覗き込むように見ている状況に驚いた。

 思わず悲鳴を上げて飛び上がる。身体から何か白い塊が落ちたが、今はそれよりも銀色の生物だ。

 銀色の生物も驚いて神矢と距離を取っていた。

 神矢は慌てて、サバイバルナイフを探したが、取られたのか近くに無かった。

 まずい。これで襲われたらひとたまりもない。と、考えて怪訝に思った。何故、気絶していた時に襲ってこなかったのだろうか。それだけの知能がなかったのか、それとも凶暴な肉食の類の生き物ではないのか。

 ふと、頭に何かがついているのに気づいて手を当ててみて、また驚いた。神矢のリュックに入っていたタオルで傷口を塞ぐように頭に巻いてあったからだ。

 身体を見れば、寒さ対策のためなのか別のタオルが巻かれていた。さらに、先ほど身体から落ちた白い塊を見てみれば、どこかで見たことがあるものだった。そうだ。コレは蚕蛾の繭だ。平たく加工されていて、毛布のようになっている。何故これがここにあるのか疑問だったが、それよりも、驚愕の事実に唖然とする。

「まさか、手当てしてくれたのか?」

 神矢は銀色の生物を見た。見た目宇宙人にしか見えないが、知性を持った優しい生物なのかもしれない。宇宙ではなく地底だから、地底人かもしれないが。

 地底人かどうかはわからないが、神矢はとりあえず少しだけ警戒態勢を解いた。そして、頭の布を指して言った。

「言葉が通じるわけないけど、これありがとうな」と、不器用なりに笑みを浮かべる。

 すると、銀色の生物たちは顔を見合わせ、口の端を少し上げた。どうやら、彼ら(?)も笑ったようだった。

 言葉が通じた? そんな馬鹿な、と神矢はまた驚かされた。

 銀色の生物がおそるおそる神矢へと近づいてきた。一定距離まで近寄って、こちらの様子を伺うような雰囲気があったが、何せ目が点で表情もわからないから、どうしようもない。

「大丈夫だ。危害は加えない」

 言うと、やはり言葉が通じるのか、彼らは三匹とも神矢へと近づいてきた。

 いったいどういうことだ? この生物は一体何なんだ?

 彼らの一匹が、手を伸ばしてきた。三本指でわかりにくかったが、どうやら握手を求めているようだ。もうわけがわからないが、いったんは考えることをやめて、とりあえずは友好的な生物なのだろうと握手をしてみることにした。

 銀色の手は少しひんやりとしていた。だが、金属のような冷たさではない。人間の体温よりもずっと低いということだろう。

 握手を終えると、次は神矢の頭に手を伸ばしてきた。少し不気味だったが、抵抗するのはやめた。それほど、危険ではない気がした。

 銀色の手が神矢の頭に触れ、次にもう片方の手で眼を塞がれる。するとさらに驚くことが起きた。

 閉じた瞼から映像が見えたのだ。

 神矢が先ほど頭をぶつけて気絶していた時の状況。それを、彼らが手当てしてくれたこと。そして、彼らの手が神矢の頭に触れて、脳内の情報を読み取り、言語や神矢たち人間のことを理解したことが、映像として流れてきた。

 握手も、人類共通の友好的な意思疎通の手段だというのを、彼らは学んだらしい。

 相手の脳内を読み取る──。

 この生物はとんでもない能力と知能を持ち合わせているらしかった。

 さらに、彼らは仲間同士で頭を触りあって、映像で会話していることも見せてくれた。

 この地底でいろいろな生物を見てきたが、彼らの存在が一番驚いた。こんな超能力のような力を持つ生物を他に知らない。

 もっとも、自分が知らないだけで、地上にも何かしらの能力を持つ生物がいるのかもしれないが。

 神矢はふと思いついた。これだけの知能を持つ生物で言葉も通じるのなら、ひょっとすればここからの出口も教えてくれるかもしれない。

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