九十話 出口への道

「なあ、ここからの出口を探しているんだ。知らないか」

 銀色の生物は、口の端を少し上げた。そして、また神矢の頭に手を当てた。

 眼を閉じると映像が再び浮かんでくる。出口までの道のりが見えた。

 その映像に、神矢は一瞬息を飲んだ。ラーテルベアの巣穴に続いていたのだ。

 神矢の感情を読み取ったのか、映像が切り替わり、彼らとラーテルベアが仲良く手を繋いでいる映像になった。実際はそんなことはないだろうが、とにかく彼らとラーテルベアは共生共存関係にあるのだと理解する。

 さらに、蚕蛾の繭がラーテルベアからの供給品であり、それを毛布のような形に加工してお互いに使用している映像が流れた。続いて、先日神矢たちがラーテルにマーキングされた映像が流れ、漢字で『家族』の文字が浮かび上がった。だから安心だと伝えたかったのだろう。……家族という漢字も、神矢の脳内情報を得て使ったのだろうが、もう深く考えないことにする。

 それにしても、神矢の脳内情報でこんなVRのようなものができるとは驚きという他なかった。

 神矢は眼を開けて、礼を言った。

「あ、ありがとう。助かったよ」

 彼らは指を二本立てた後、両手を合わせた。

「ん? 二つお願いがあるのか?」

 彼らは頷いた。そして、神矢の頭に手を当てて、映像をまた見せた。

 神矢が仲間にこのことを話そうとしている映像が浮かんできて、その上から×印がついた。

「俺の仲間には君らのことを話すなってことか?」

 彼らはまた頷いた。そして、映像に悪巧みをしている人間の姿が映った。その姿が鮫島と数人の男子の姿をしていたのは、神矢が彼らを良く思っていないからだろうか。

 確かに彼らは神矢を嫌っていて信用ならない部分がある。

 さらに銀色生物はもう一つ映像を見せてきた。それは、彼らが仲間の群れとはぐれていて、仲間を見つけて欲しいということだった。彼らと同じようにこういった洞窟に住んでいるようだ。

「見つけられるかはわからないけど、探してみるよ。でもそうなると、俺の仲間にも伝えた方がいいんじゃないか? 君らの仲間に出会ったら、攻撃しないようにも言えるし」

 彼らは顔を見合わせた。お互いに頭に手を乗せあって、映像で会話しているようだった。

 そして、また一匹が神矢の頭に触り、映像を送った。

 今度は、神矢がみんなに話す映像に○印が付いた。

「君たちには今後危害を加えないと約束するよ。仲間たちにもちゃんと伝えておく」

 周知徹底しておかないと、余計なことをする輩がいるかもしれない。特に鮫島たちには気をつけよう。この銀色生物がラーテルベアの仲間であること、彼らを傷つけたらラーテルベアたちを敵に回すことになるのを伝えないといけない。

 そう言うと、銀色生物たちの口の端が少しだけ大きく上がった。喜んでいるようだ。

 彼らが手をまた差し出してきたので、握手を交わす。

 その後彼らはまた口の端を上げて笑みの形にして、手でバイバイの仕草をした。

 神矢も手を振って、見せてくれた映像の道へと向かう。途中振り返ると、彼らはまだバイバイをしていた。

 子どもの頃、仲の良い友だちと遊んで帰る時、お互いがいつまでも手を振って聞こえなくなるまで、バイバイを言い合っていた。その記憶を読んだのかもしれない。

 ……まったくとんでもない生き物がいたものだ。

 神矢は未知の生物との接触に胸を高鳴らせていたが、この先に続くラーテルベアの巣穴に向かうのに、少しだけ憂鬱な気分になった。

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