八十二話 神矢の捜索
校舎の講堂で、宮木から神矢が洞窟内取り残されたという報告を受けて、九条たちは驚いた。
「……そんな、嘘でしょう?」雪野も口に手を当ててショックを受けている。九条は沈痛な面持ちで宮木に聞いた。
「……彼は生きているのか?」
「わからない。洞窟の奥に避難するとだけ聞こえて、その後は」宮木はそこで言葉を切った。
「生きてるわよ!」と、上原が怒鳴った。身体を震わせ、懸命に涙を堪えている。
彼女だけでなく、宍戸も神矢の無事を祈るように拝んでいる。
三人とも神矢に命を救われ、行動もよく共にしていた。その想いは同じなのだろう。九条も胸を痛めた。
「校舎はあの地震でも大丈夫だったのか?」
宮木が講堂内を見回して聞いた。
「ああ。所々ヒビは入ったけど倒壊の恐れはなさそうだ。 この校舎は結構耐震性に優れているって聞いたからな。何しろ地上からここまで落ちてもそれほど壊れなかったんだからな。丈夫な造りだよ。……それよりも、神矢くんが心配だ。どうにかして助け出さないと」
九条の問いに宮木はすぐに答えた。
「ああ、俺もあいつに助けられたからな。借りは返す」
その言葉に雪野たちも顔をあげて頷いた。
「……そうだな。彼は強いもんな。彼自身諦めないだろうし、俺達は俺達でできることをしよう」
今すぐにでも助けに向かいたい所だが、人手も準備も必要だ。
塞がった巨大な岩を取り除くのは、人の手ではとても無理だ。重機でないと不可能だろう。
「……サバンナの時に作った火薬で岩を吹っ飛ばせないか?」
矢吹の言葉に、九条は首を横に振った。
「いや、さすがに岩を吹き飛ばせる程の威力は期待出来ない。そんな威力があったとしても、また洞窟が崩れる恐れが出てくるし使えない」
「削岩機とかねーのかよ……」
宮木が歯噛みした。工事現場じゃあるまいし、そんな物が置いてあるはずもない。
ない物ねだりしても仕方がない。
「……誰か何かいい方法ないの?」
懇願する目で雪野たちが周りを見渡した。
九条は洞窟奥の空間を頭に思い描いた。
食糧や水の貯蔵庫として使っていた場所だ。確かあそこには、壁に小さな隙間があったはず。
それからトイレ。壁と地面の境目に小さな穴が空いていて、そこに用をたして流し込んでいたわけだが、その穴の先は水の流れる音がしていた。
「……洞窟の奥の壁の更に奥には、別の空間が広がっているようだった。別のどこか違う場所からその近くにいくことができれば」
自分で言っていて、そんな都合のいい話はなかなかないだろうと思った。空間があったとして、それが人が入れるかどうかも定かではない。そこに繋がる道があるかもわからない。
だが、数少ないながらも、世の中には都合の良い話もあるのだ。わずかでも可能性があるのなら、それに賭ける価値はあった。
「……洞窟の外を壁伝いに進んで、他にも洞窟みたいな穴があればいいんだがな。そうすれば繋がっている可能性が出て来る。とりあえずは、それを探すか。他にも何かいい方法があれば言ってくれ」
矢吹が言って周囲を見渡した。
洞窟に閉じ込められた者を助け出す術など誰も知らない。やはり、矢吹の案が妥当な所だろう。
実は九条には別の案があった。だが、口にするのを躊躇った。これも可能性が低い上に、危険を伴うからだ。
もしコレをやるならば自分しかいない。他の誰も巻き込むわけにはいかない。
特に鮎川は止めるだろうし、今はまだ言わないでおく。
とりあえずは、矢吹の言う通りに洞窟周辺を隈無く探す所からだった。
洞窟に繋がる洞窟探しをするための、班分けがされた。
九条の班は鮎川、雪野、上原、宮樹、櫛谷、河野、小山、田川、鮫島の計九名。だいたいいつものメンバーと、残りは神矢のクラスメイトである。小山と田川、鮫島は、神矢と仲が良くなかったはずだが、ともかく協力してくれるのならありがたい。
矢吹の方は、林、片桐、黒河を含めた問題児と、前回ラーテル調査で外された藤木と浅田、そしてその他のメンバーで計十名いう具合だ。
いつもは一組五〜六人編成だが、今回ばかりは大人数での行動となった。
それほど、神矢の捜索は重要だった。
「神矢先輩がいねーと、なーんか物足りないんすよねー。ラーメンに乗っていないメンマっつうか、餃子のタレに入ってないラー油というか、納豆についてないカラシというか」
「お前は神矢を何だと思ってんだよ……」
矢吹が黒河の頭を引っ叩いた。
「……冗談っすよ。しばかなくてもよくない?」
「アホなこと言ってるからだ。……とにかくだ。この二組であの洞窟に繋がる道を探すぞ。お前ら、気合入れていけ」
「だが、無理して危険を冒すんじゃないぞ」
九条の言葉に皆が頷いた。
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