七十二話 神矢の相談

 早朝。早速神矢は矢吹と九条に相談があると言って、誰もいない教室へと呼び出した。

 矢吹は欠伸をして神矢を睨みつけてきた。

 時刻は午前の五時を指している。誰もまだ起きていない。

「んだよ神矢。こんな朝早くからよ」

「……ふむ。誰もいないところで相談とは穏やかではないな」

「……何か厄介ごとか?」

 九条の言葉に、矢吹は顔を引き締めた。

 神矢は本当に二人に申し訳ない気持ちになった。二人にして見れば、実にくだらない相談事だと思うだろう。

「……実はですね。俺、しばらく洞窟の方に行こうと思うんです。で、その上でですね。洞窟のメンバーについてお願いしたいんですよ」

 二人は顔を見合わせた。

「とりあえず、話を詳しく聞こうか」

 真剣な顔になる二人に、神矢は、「いや、本当に実に下らない理由で申し訳ないんですが」と前置きして、雪野たちの事を話した。そして、少し自分の過去のことも話した。

 二人は黙って聞いていた。

 話を終えると、九条は腕を組んで黙っていた。

 矢吹もまた腕を組んで神矢を見ている。

「すいません。くだらないことで時間をとらせてしまって」

 神矢が言うと、矢吹がため息をついた。

「……なるほどな。お前が本気を出さない理由が少しはわかった気がする」

「辛い思いをしてきたんだな」

 矢吹が神矢を見据えた。

「何もくだらないことねーよ。恋愛が奥手とかそう言う話じゃないってのはわかったからな。よし、いいだろう。お前の要望に応じよう」

 神矢は素直に頭を下げた。

「ありがとうございます」

「お安い御用だ。ま、俺の過去も話したわけだしな。コレでちゃらってことにしてやるよ」

 笑みを浮かべて言う矢吹。

「雪野さんたちには俺から上手く言っておくよ」

 九条が言って、神矢は「お願いします」と頷いた。

「そうだ、神矢。洞窟に行く前に一つだけ頼みたいことがあるんだがいいか?」

 矢吹の言葉に神矢は「俺にできることなら」と請け負った。

「実はな、お前たちがサバンナ横断していた日にな、他の探索グループの報告でラーテルベアを目撃したとあったんだ。お前らからも聞いていたから、同じ種類のヤツだと思われる。そこで、お前と九条さん、他数名で調査を頼みたい」

 九条が腕を組んで唸った。

「……ラーテルベアか。できれば二度と会いたくない存在だな。……しかし、ラーテルって和名でミツアナグマって名前なんだっけな。ラーテルベアを言い換えたらミツアナグマグマってわけの分からん名前になるぞ? 他の名前に変えないか?」

「……いいんじゃないですか? 言いやすいしわかりやすくて」その名前を最初に言い出したのは神矢だったが、それをおくびに出さずに話を進める。「そんなことより、そのラーテルベアはここから近い場所で目撃されたんですか?」

「ここからは少し離れた場所らしい。新たなミツツボアリの群れを発見して、その近くに現れたんだと」

 ミツツボアリに、ミツアナグマ。この組み合わせは偶然だろうか。

 最初にミツツボアリを見つけた時に、このアリは他の生物との共生関係にあるのかもしれないと考えた。ひょっとしたら、ラーテルベアがその関係にあたるのかもしれない。

 蚕蛾もそうだったが、ラーテルベアは色々と昆虫たちと共生している可能性がある。

「……危険な調査だが、引き受けてくれるか? 他のヤツらよりも、お前らの方が生存率が高いとふんでのことなんだがよ」

 神矢と九条は顔を見合わせた。

「……そこまで信頼されているんじゃ断れないな」と、笑みを浮かべて九条。

 神矢も「……でも、危険だと判断したら即逃げますよ」と答えた。


 

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