六十九話 林の探索ー1

 サバンナを横断する数日前の事だ。

 横断準備の間にも、当然、探索活動はしていた。

 その日は林も探索に加わっていた。

 メンバーは林と、浦賀の元手下二人と真面目組の二人だった。手下二人は、イチとサブと呼んでいる。フルネームは──忘れた。雑魚の手下の名前などいちいち覚えていない。真面目組の名前も知らないし、どうでもいい。

 浦賀が倒されて以来、林は矢吹の下についていたがあまり面白くないと感じていた。危険な事はさせられるし、女を好きにできないし、がんじがらめのルールに嫌気がさしていた。……女に関しては、何故か、最近抱きたい欲望がすっかり失せていたのだが。

 浦賀の下についていた時は、やりたい放題できて相当美味しい思いもした。

 美味いものも食えて、女にも不自由がなかった。だが、かと言って満足していたとは言い難かった。

 地上にいた時から浦賀の手下だった。浦賀のやり方についていけないことも多々あった。少し、いや、かなり無茶苦茶な男で、危険な目にもあったり、やらされたりした。

 暴走族に入り、街中を爆音上げて改造バイクで駆け回っていた時のことだ。浦賀に競争だと言われ、猛スピードで湖岸道路を走った。

 浦賀にブレーキホースを壊されていたのを知ったのは、後になってからだった。

 ブレーキが効かず、林はガードレールにぶち当たって、湖にダイブして溺れた。溺れる中、林はここで死ぬんだと思った。

 たまたま巡回していた湖岸警備隊によって、林は助かった。警察の世話にもなって、頭を何度も下げることになった。

 度胸試しとして、三十階のビルの屋上から、浦賀特性手作りゴムロープを腰に括り付けて、バンジーをさせられた。というより、浦賀に突き落とされた。

 あれも絶対死んだと思った。落下中、走馬灯が見えた。

 突き落とした浦賀は、ひとしきり笑った後に、宙ぶらりんになっていた林を放って帰ってしまった。林は警察に捕まって、「またお前か!」と、しこたま怒られた。

 サバイバル漫画で、マムシの皮を剥いで生で食べるシーンがあった。浦賀がマムシを捕まえてきて首を落とし、皮を剥いだ後に林に食べさせた。血の味と生肉の食感に思わず吐いた。さらに腹を下して数日入院した。

 翌日退院という時に浦賀が見舞いに来てくれて、プリンをくれた。優しい面もあるんだと少し感動して食べたが、また腹を下した。賞味期限が一年前のもので、入院が長引いた。

 このままでは命がいくつあっても足りないと思ったが、浦賀の手下でいると、みんなから尊敬の目で見られた。畏怖して自ら林の手下にしてくれと言ってきた。ヤレる女も紹介され、楽しんだ。手下から金も簡単に手に入った。

 だが、やはり命の危険とメリットを天秤にかけてみると、命の方に傾くのは必然だった。

 何とかして浦賀から離れる事は出来ないか。そう頭を悩ませていたある日、浦賀が殺人を犯したということで、少年院に入れられた。

 浦賀から解放されてホッとしたが、暴力団と少年院の教官との繋がりで浦賀は半年ほどで出てきた。

 夏休みに入り、浦賀が卒業するために補習へとやってきて、そしてこの地底世界に落とされた。

 それから仕方なく、林は前と同じように浦賀の下についていたのだが、浦賀は矢吹たちに倒されてしまった。

 林は神矢という二年の相手をしたが、あっさりとやられてしまった。今でも、あの振り下ろされた拳の恐怖を覚えている。拳がやたらと大きく見えて、顔面を粉砕されるかと思った。今までも浦賀の無茶振りで死を感じたことがあったが、人の拳で死を覚悟して気を失ってしまったのは初めてだった。

 あの神矢には二度と喧嘩をふっかけてはいけない。それほどの実力差を感じた。下手をすれば、いや確実に矢吹以上だろう。

 そして、今、林は矢吹の下で動いている。

 浦賀の下についていた時と比べると、命の危険度は半分以下にまで下がったと思う。ジャングルの探索では死人も出ているから、とても安心とは言えないが、それでも浦賀にやらされたことよりはマシだった。

 もとより、林は長いものには巻かれるところがあった。

 だから、矢吹の指示で、探索に参加して物資を調達させられるのも、とりあえずは従っていた。

「……あーあ、なんか面白えことねーかな」

 林は手に長い棒を持って、茂みをガサガサ叩きながら探索を行なっていた。

「林、いつ矢吹の野郎をぶちのめす?」

「さっさとあんなヤツやっちまって林がトップになってくれよ。こんな探索なんぞやってらんねーよ」

 手下二人の愚痴に適当に返す。

「そのうちな。今はまだやるべきじゃない。お前らも知ってるだろう。二年の神矢ってヤツ。アイツが厄介すぎる。まあ、俺の方が強いが、確実にダメージを受けるだろう。そんな状態では矢吹には勝てない。チャンスを待つんだよ」

 嘘だった。歯向かうつもりなどさらさらなかった。手下たちに見栄を張っただけだ。

 真面目組がこちらを見てヒソヒソと何か話しているのを、手下二人が気づいて、「なんじゃオラぁ!」「殺されてーのか!」とイキっていた。

「やめとけ。小物相手に凄むな」

 林が言うと、二人は真面目君たち睨んで、唾を地面に吐き捨てた。

「……とりあえず、適当に探索して、適当なもん見つけたら帰るぞ」

 そう言って場をまとめて、林たちは探索を始めた。

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