六十五話 帰還

 蚕蛾の森を抜けた所、サバンナの差し掛かる場所には心配そうな顔をした矢吹たちがまだいた。

 突然背後から現れた神矢たちを見て驚いて、矢吹たちは狐につままれた顔になっていた。

 神矢たちが巨大キングコブラとラーテルベアに襲われて何とか逃げ出した所までは、双眼鏡で見ていたらしい。そのあとは砂塵が噴き上げて見失ったため、心配していたという。

 校舎へと戻る最中に、神矢は顛末を伝えた。巨大樹の存在とその樹洞が拠点地となりそうなこと。ラーテルベアの手助けでここまで戻ってこれたこと。

 その他もろもろ──林と黒河の喧嘩や、黒河がかなりの問題児であった事など──あったが、端折っておいた。

 校舎に戻る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 校舎前にやってくると、矢吹が神矢の肩を叩いた。

「よく無事で戻ってきたな。ご苦労だった」

「そうですね。今回こそはダメかと思いましたね」

「……そうだな。正直言って、あの蛇と熊を見た時には、俺たちももうダメだと思った。……本当によく戻ってきた。話は明日でいい。ゆっくりと休め」

 神矢たちは頷いた。

「……俺は今度は勘弁してくれよ。あんな死ぬ思いはもうこりごりだ」

「俺は次も神矢先輩か九条さんとの行動を希望しまっす。いやあ、生死をかけた大冒険、心躍りましたわ!」

 林は次の探索を辞退し、黒川は次も行く気満々だった。

 九条と神矢は引き攣った笑みを浮かべ、矢吹に言った。

「……次は黒河だけは勘弁してくれ」



 九条とともに二年二組の教室に戻ると、雪野たちが心配顔で近寄ってきた。

「神矢、無事! 怪我してない?」と、上原。

「……良かった。心配してたんだよ?」と、雪野。

「……また無茶とかしてないでしょうね?」と、宍戸。

 神矢は女子三人に囲まれて、戸惑っていた。

「だ、大丈夫だ。問題ないよ」

 少し離れて九条が「心配してくれる女子が三人もいて羨ましいな」と、ニヤニヤして腕を組んで言っていた。

「あら、九条さんはわたし一人の心配じゃ足りないって言うんですか?」

 九条の背後に立って、鮎川が腰に手を当ててにこやかな笑みを浮かべた。

 九条が引き攣った笑みを浮かべて、必死に取り繕った。

「とんでもない! 鮎川先生が心配してくれてとても嬉しいですよ!」

「……本当に?」

「本当だって!」

 鮎川は「そう」と言って、顔を緩ませ九条に抱きついた。「無事に帰ってきて良かった……」

 九条は優しい顔になり、「ああ、ただいま」と言って鮎川の背に手を置いた。

 それを見ていた女子三人がポカンと口を開けた。

「え? え? 九条さんと鮎川先生? いつのまにくっついたの?」

 訊く上原に、九条たちは照れ笑いを浮かべて、

「ま、まあ、数日前からかな」

 えーーー! と女子三人及び、教室内も騒然となった。

 神矢も驚いていた。

 九条と鮎川。歳も近いし一緒に行動するうちに惹かれあったのだろう。確かに洞窟にいた時から、二人がいい雰囲気だったのは知っていた。付き合うのも時間の問題だとは思っていた。

 神矢は二人に何か祝福の声をかけようと思ったが、こういったことに慣れていないため、どう声をかけていいものかわからなかった。

「いいじゃん。九条さんと鮎川先生、お似合いだよ」

 上原が笑顔で言って拍手をした。雪野と宍戸も続いて拍手した。

「わたしたちも負けてられないね」

 雪野が言って上原と宍戸が頷き、獲物を狙うかのような目で神矢を見た。

 何かわからないが、神矢は身の危険を感じて「……トイレに行ってくる」と言って逃げ出した。

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