二話 地底
どれだけ経ったのだろうか。
神矢は打ち付けた体をさすりながら、上半身を起こした。
どうやら気絶していたようだ。
暗い。電気が切れたのか、教室内はまっくらだ。
窓から射す光もない。一体何が起きたのかわからなかった。
手で周囲を探ると、柔らかいものがあった。形からして手のようだ。
「おい。大丈夫か?」
神矢はその人物に声をかけた。
少し唸ったような声を出し、その人物は体を起こした。
「な、何がおこったの?」
「その声は雪野さんか。怪我はないか?」
「え? 誰? 兵藤君?」
雪野にしてみれば、神矢の声など今まであまり聞いたことがないのだからわからなくて当然だろう。
兵藤は、赤点組のお調子者だ。
「神矢だよ」
「神矢君? いったい何が起きたの?」
「わからない。他のみんなは?」
「こう暗いと何も……」
神矢は仕方なく声を出した。
「おい! みんな無事か!」
その声に反応したのか、ところどころから呻き声が聞こえる。
神矢は手探りで、周囲に何かないか探した。とにかく、状況がさっぱりわからない。何か照らすもの。そう考えて、胸にペンライトがあったのを思い出した。
普通は、学生がペンライトを胸のポケットなどに入れない。今朝、家で探し物をしている時、タンスの隙間を照らすために使用し、ズボンのポケットに入れておいてそのまま家を出たのだ。だが、歩く度に膝に刺さるような感覚だったので、胸のポケットにしまった。ただそれだけのことだった。
神矢はペンライトを出して、あたりを照らした。
何人かが、机やイスの下敷きになっていた。
「雪野さん、手伝ってくれ」
「え、あ、うん!」
神矢と雪野は机の下敷きになっていた生徒を助け出した。
その音で他の生徒たちも気がついたようだった。
全員で十五名。神矢祐稀、
幸い、全員に大きな怪我はない。軽い打ち身ですんだようだ。
「みんな、大丈夫?」
目を覚ました鮎川が尋ねた。
「まあ、何とか」
神矢はペンライトで、窓の外を照らした。窓は破壊され、そこからは土の壁が覗いている。だが、土が教室に入ってきているのはごくわずかだ。これはいったいどういうことか。
「一体何が起きたの?」
不安そうに雪野が聞く。
「多分、校舎が地面に沈んだんだ」
神矢は言った。
「はあ? お前何言ってんだよ?」
少し怯えたように言ったのは、先ほど雪野が間違えた兵藤という男子だ。
「さっき、三階からの景色が、二階からの景色に感じた。最初に校舎が傾いたのは、おそらく地面が陥没したんだと思う。そして、地盤が崩れ校舎は地中に沈んだ」
「じょ、冗談だろ? 適当なこと言うなよ!」
「あたしたち、死ぬの?」
「馬鹿なこと言うな! こんなところで死ぬかよ!」
パニックに陥りそうだった。神矢の隣で、雪野も震えているのがわかった。
「みんな落ち着いて! こんな暗闇でパニック起こしたら返って危険よ!」
鮎川の怒鳴るような声で、どうにかパニックは回避されたようだ。
「そ、そうだよな。まだ死ぬと決まったわけじゃない」
「ひょっとしたら、助けが来るかもしれないわ」
「とりあえず、校舎の中を見て回りましょう。他にも、部活で来ていた生徒や先生たちがいるはずだし。みんなも無事でいるといいけど……」
鮎川の言葉に、雪野が言った。
「だったら、二手に分かれて行きませんか? 少し目が慣れてきたことだし、多分行けると思います」
神矢はその言葉に何か違和感を覚えた。
「そうね。だったら……」
鮎川の声を遮って、数人が反対した。
「わ、わたしは嫌よ。ここにいるわ」
「わ、わたしも」
「お、俺もさっきので足痛めたし、ここにいる」
鮎川は強制はしなかった。
「そう。仕方ないわね。じゃあ、来てくれる人いる?」
「あ、わたし行きます」と、これは雪野だった。
「俺も行く。ライトあった方がいいだろうし」
神矢も行くことにした。状況を知りたかった。
一組目は、鮎川、雪野、神矢、兵藤。もう一組は、鮫島、河野、上原、宍戸が行くことになった。他の者は教室で待機だ。
教室を出て、とりあえず一行は真っ暗な廊下を照らしながら進む。窓が割れて、土砂と破片が飛び散っていた。だが、壁とかを見るとヒビなどはあまりみられない。
「……妙だ」
神矢は言った。
「何が?」と雪野。
「今校舎は完全に地面の中だ。校舎が倒壊してもおかしくないし、土砂ももっと入ってくるはず。それに、地中は完全な闇だから、慣れたところで人間の目で見えるというのもおかしい」
「お前の考えが間違ってんだよ。実際見えるようになってきてるんだから、人間の目は優秀だってことだ」
兵藤が神矢を馬鹿にしたように言った。神矢は一つ息を吐いて、黙ることにした。
「何にしても不幸中の幸いね。こうして命があるんだから」
鮎川が励ますように言った。「さ、早く他の人を探しましょう」
最初に隣のクラスから見て回る。神矢たちがいた教室は三階の一番端だ。
「誰かいる? いたら返事をして」
鮎川が声をかけたが誰もいないようだ。ライトで照らしてみたが、やはり誰もいない。
続いて次の教室を覗いた。先ほどと同じように鮎川が声をかけると、うめき声が聞こえた。ライトで照らすと、男子生徒が二人倒れていた。
「大丈夫!」
鮎川が駆け寄って、無事を確認する。
二人は起き上がり、「何が起きたんですか?」と尋ねた。
それはまだわからないことを伝え、とりあえず今は他に人がいないか探していることを伝えた。
「あ! 俺たち吹奏楽部なんです! 楽器を取りに来て、それで……。他のみんなが部室にいます! 様子見に行かないと!」
「わかったわ。それじゃ、二人は鮫島君たちと吹奏楽部の方を見に行ってくれる? 怪我人たちがいたら、知らせに来て」
鮫島たちは頷いた。
「あ、俺懐中電灯持ってます」吹奏楽部の男子が言った。「この前職員室から借りてきて、そのまま鞄に入れたままだったんだ」
とりあえずはありがたい。
鮫島たちは、ライトで照らしながら教室を出て行った。
引き続いて神矢たちは三階の教室を見て回ったが、誰もいなかった。
「先に職員室行きましょう。他にも懐中電灯があるかもしれない」
鮎川の提案で、一度職員室に向かうことにした。
ふと、神矢の鼻に木々の匂いがした。
疑問に思い、周囲を照らす。窓を照らし、神矢は驚愕した。
土の壁だと思っていたその場所に、大きな木の葉があった。
「何でこんなところに樹が……」
その声に、鮎川たちも見て驚いた。
「何? 何なのこれ?」
「俺たち、いったいどこに来たんだよ」
「職員室に行くついでに、外を見てみよう」
神矢は言って、階段を下りていった。
降りていくに従い、妙に明るくなってくる。
一階にまで来たら、まるで昼間の明るさだった。
「どうなってんだよ?」兵頭が不安な声を出した。
神矢は下駄箱まで行き、外の様子を見て絶句した。
外は木々に覆われたジャングルのようだった。
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