第31話
「さ!説明はこんなもんだ!それじゃあ早速、そっち奴から順番に来い」
ニコルがそう言うと、前に座っていた人から順に教卓の前へと並び始めた。
「それじゃあ、私達も行きましょうか」
「あ……でも……その、なんというか……いえ、やっぱり何でもありません」
フローレス嬢はそう言うと、パッと席から立ち上がり「並びましょうか」と言ってぎこちなく笑った。
俺とフローレス嬢が列へと並びに行くと、後ろの方の席にいたせいか、列の最後尾となった。
「どうやら最後尾のようですね」
「ハハ、そうですね」
フローレス嬢はそう言って、浮かない表情を浮かべていた。うーん。ここへ来る前もなんだか駄々をこねていたし……やはり、この授業で何かあるんだろうか。たとえばそう『おとめげーむ』での『いべんと』、とか?
「……あの、フローレス嬢?」
「はい」
「なにか様子が可笑しいですが、もしかしてこの授業で何か起こるのですか?その、例えばおとめげーむのいべんととか」
俺がそう訊ねると、一瞬驚いた表情を浮かべてコクリと頷いた。
「なるほど……申し訳ありません。この科目の単位はとても重要になると伺っていましたので、理由も聞かずに引きずっ……連れてきてしまいましたが……出席はもう取りましたし、今からでも医務室に行くとか言って抜け出しますか?」
「いえ、私もちゃんと説明をしなくてごめんなさい。大丈夫です。どちらにせよ、この学園へ入学した時点でこのイベントは避けられませんし……すみません、マーカス様にご心配をお掛けしてしまって」
「いえ。私は大丈夫ですが……その因みに、これから何が起こるのですか?」
俺がそう訊ねるとフローレス嬢は少し苦笑いを浮かべて、「すぐに分かりますよ」と告げた。
そんな会話をしながら少し前の様子も伺っていると、水晶には小さな水溜まりが浮かんだり、小さい火の玉が浮かんだり、小さい岩が浮かんだりしていた。しかし先程のニコルのように、天井に着きそうなほどの炎を出すくらい強い魔力を持っている者はいなさそうだった。
「はっはっは!まぁ、初めはみんなそれぐらい、それぐらいよ!水晶に浮かぶ魔力はその人物の魔力が高ければ高いほど大きな姿になって浮かび上がるからな。あと、その人の力加減もあるが……まぁ、お前達も俺くらいになればさっきみたいなの出せるようになるさ!」
そう言ってニコルは大きな口を開けて、再び笑い声を上げた。
そうして、あっという間に俺達へと順番が回ってきた。
「あの、マーカス様」
「はい、何でしょう」
「実は私、ラストだとめちゃくちゃ目立つ可能性があって……先に行ってもいいですか?」
「私は大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、マーカス様」
フローレス嬢はそう言って笑顔を浮かべ、前へと進んだ。そして、意を決したように、自分の右手を水晶に乗せゆっくりと力を込めた。すると、パァと白く目映い光が水晶を包み込んだ。
「っ、これは……」
「わ……何あれ……」
「綺麗……」
確かに、綺麗だ。
なんだかずっと見ていたくなるような。温かいような……席に戻っていた生徒もその光に魅了されているようだ。俺達がその光に惚けていると、フローレス嬢は水晶からゆっくりと手を離した。すると、白い光もゆっくりと消えていった。しかし、この反応は__
「聖属性……」
皆が静まり返っている中、一人の生徒がポツリと呟いた。
「い、今のって『聖属性』の反応ですよね?……先生!?聖属性はあの聖女の証……聖女の、いえ、聖女様の誕生ですよね!!?」
一人の生徒がそう言うと、周囲の者達は一気にざわめき始めた。
俺も聞いた事がある。『昔、聖なる魔力を持った人間が聖女となり、邪悪な闇の力を浄化し封印した。そして聖女は人々を導き、その国をその命尽きるまで守り続けた。そしてその国の繁栄は聖女の力により永久に続いていったのだった』といった昔話のような伝承がこの国にはあるのだ。
周りの生徒の視線を一気に浴びたフローレス嬢はだいぶ戸惑っているようだった。すると、ニコルが突然パンッと大きく手を叩き口を開いた。
「騒ぐな、静かに!……まぁ、その通りだ。今のは稀に見る『聖属性』の反応だ。だからと言って、誰でも聖女になれる訳じゃない。あくまでもその素質があるだけだ。だからあまり騒ぐんじゃない。いいな?」
ニコルがそう注意を促すも、皆の耳には届いていないようだった。そんな中、フローレス嬢は早くその場から立ち去りたくて席へ戻ろうとした。
「君」
ニコルはそんなフローレス嬢を呼び止め、「後で話がある」と小さな声で耳打ちをした。それに対してフローレス嬢は「はい」とだけ返事を返し、席へと戻っていった。席へと戻っても周りの生徒達はチラチラと彼女を奇異な目で見たり、ヒソヒソと話をしているようだった。なんだか少し嫌な雰囲気だ。そんな周囲に対し、フローレス嬢はどこか居心地悪そうにしながら視線を落としている。
先程浮かない表情を浮かべていたのは、この状況になる事が分かっていたからなのか。
「まぁ、そういうことなら……」
俺はそう呟き、まだざわついている様子の中、水晶へと近づき手を伸ばした。
……バチバチバチバチッ
「はぁ……じゃあ、次は最後の……」
ニコルはそう言って後ろを振り返った。すると、そこには水晶を右手に持った俺が不適な笑顔を浮かべていた。持ち上げられた水晶は凄まじい稲妻をほとばしりながら、バチバチバリバリッと音を鳴らしている。少しでも近寄れば感電してしまいそうなほどに。
「お、おい……あれ、見ろよ」
「うわっ!なんだ、あれ」
「おいおいおい、おまっ……やり過g……」
ニコルがそう言い掛けた瞬間、パリンッ!!と大きな音を鳴らして水晶は砕け散ってしまった。
「あ」
ついさっきまでフローレス嬢へと向けられていた視線が、今度は俺へと一気に集まった。
そんな中、俺は「わぁ、すみません。壊してしまいました」と言って、わざとらしく微笑んだ。
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