第30話




「「ふんふ~♪ふんふ~~♪~~」」


「……楽しそうですね、おふたりとも」


「そりゃ~もう~明日はついに海鮮よ!」


「ね~♪あ~楽しみ~♪」


 レイラ様とフローレス嬢は、あの日から数日の間ずっとこの調子だ。

 俺はあの後から大変だったっていうのに。今回の件を旦那様、執事長、ララさんに報告して手土産の手配、泊まりの服やらなんやらの準備に遠出用の馬車の準備にあれやこれ……本当に大変だったのだ。まぁ、でもなんとか明日には間に合いそうで良かったですけど。


「はぁ……まったく、しょうがない人達ですね。明日のお楽しみの前にまだ授業も残っていますからね?おふたりとも。ほら、次の授業はお着替えも必要ですよ」


「あ!そうよね!ってもうこんな時間!」


「お嬢様のお着替えはお嬢様のロッカーにご用意してあります。お手伝い致しますか?」


「ありがとう!ノア!大丈夫よ、一人で着替えられるわ!それじゃあ、また後でね!」


「はい、お嬢様。お気をつけて」


 俺はそう言って、レイラ様の後ろ姿を見送った。


「では私達も向かいましょうか。フローレス嬢」


「……ハッ!も、もしかしてこの後って……特別科目授業でしたっけ!?」


「?はい。そうですが」


「あ~そうでしたね……あーなんか今日は体調が~」


「……先程まで元気でしたが?」


「あ……いや、その腹痛が……」


「……そうですか、では明日は生のお魚は食べに行けませんね。残念です」


「え"!そ、それは……」


 俺は狼狽えるフローレス嬢に対して疑いの目を向けた。すると、フローレス嬢は観念したかのように「ごめんなさい。着替えに行きます」と言った。


「はぁ。とりあえず、急ぎますよ」


 俺はそう言って更衣室へと向かった。




『特別科目授業』


 それは貴族の生徒と特待生の生徒で別れて行う授業だ。この授業は週に2度しかない科目で、今日は初めての授業になる。


 特待生がこの授業で学ぶのは勿論、『魔法』だ。

 この学園では『スルス館』と連携して魔法が学べる設備が完備されているらしい。そういえばこの授業は、特待生自体が少ないから、学年関係なく合同で授業を行うって言っていたな。


 一方で、レイラ様のように魔力を持っていない貴族は『乗馬』、『剣術』、『異国のテーブルマナー』の中から選択することができるらしい。テーブルマナーは通常授業で組み込まれているが、この『特別科目授業』では名前通り、ありとあらゆる異国のテーブルマナーが学べるようだ。殿下の婚約者であるレイラ様は、外交など将来の事も見据え本来であれば『異国のテーブルマナー』を選択すべきだが


「でも、馬に乗れたらなんかかっこいいわよね!それに万が一、断罪されそうになったら馬に乗ってさっさと逃亡すればいいんだもの!ね!」


 と言って結局、『乗馬』を選択なされていた。


 そして、貴族にはもう一つ選択肢がある。それは俺達特待生と同じ『魔法』だ。魔力を持つ人間は勿論、平民だけではない。貴族の中にもシモン侯爵家のように代々強い魔力を持つ魔道師が生まれる家系もある。その為、貴族には4つの選択肢があるのだ。

 しかし、俺達特待生にはそんな幅広い選択肢はない。何故なら平民俺達はただ、国の為に役立つ駒に過ぎないからだ。まあ、魔力を持っていない平民は学問を学びたくとも学べないのだから、まだ優遇されている方なんだろう。


 俺はそんな事を考えながら、魔道師のローブを羽織り急いで授業へと向かった。




 ****************





 魔法研究室にて



「まったく……フローレス嬢が駄々をこねたせいで遅刻しかけましたよ」


「うぅ……それには訳が……って、わぁ!すごい。ゲームのイラストと一緒だぁ」


 授業が行われる『魔法研究室』へと入ると、フローレス嬢は少しはしゃぎながらそう言った。

 部屋に入るとカーテンは全て閉められており、確かに少し薄暗い部屋だった。が、天井にキラキラと輝くいくつもの火の玉が電灯の代わりに俺達を照らしていた。また、沢山の薬品が入った瓶達が並ぶ棚が机を囲うように列をなしている。他にも『スルス館』にある魔道具も設備されているようだった。

 ふと、前を見ると教卓に魔道師のローブを羽織った肌色が黒い男が座っていた。


「ん?あぁ、君か。さてと、これで全員揃ったか?君達は好きな席へ座りなさい」


 どうやら俺達で最後みたいだ。他の席には何人かの生徒がバラバラに座っていた。俺達は急いでドアから近くの席へと座った。


「ごきげんよう、諸君。揃ったようだから、授業を始める。俺はこの授業を受け持っているニコル・ジェイ・ノクターだ。よろしく。まあ、中には顔見知りもいるみたいだが……な?」


 ニコルはそう言って、俺の方に視線を移してウィンクをしてきた。それに対し、俺は苦笑いを浮かべた。

 この人、実は『スルス館』の幹部に所属をしている魔道師で、俺と同じく、この国に七人しかいない高位魔道師の一人なのだ。


「えー本来だと、上級生達も加わっての授業にはなるんだが、今日は初回だから一年生だけの授業だ。今日は全員の魔力適正を見て終了だ」


「先生、魔力適正って何をするんですか?」


 一人の生徒が手を挙げ、質問をした。


「あぁ。今ここにいるのはそれなりの魔力を持つ一部の人間だ。ある程度学べば、大抵の魔法はそれなりに使えるようになるだろう。が、人間、得手不得手ってもんがあるだろ?魔法も同じさ。そいつが一番得意で適正が高い魔力の属性を調べるのさ。そして、その適正が高い魔力の属性を強化して、自身の能力を伸ばしていくのが目的だ」


 ニコルはそう言って、箱の中から水晶のような物を取り出した。


「そんで……これがその魔力適正を調べる魔道具だ。よーく見てろよ?こうやって手を当てながら魔力を流し込むんだ」


 そう言ってニコルは水晶のような魔道具に右手を乗せ「ふんっ」と力を込めた。すると紅い炎が浮かび上がり、そのままその炎が水晶を包み込んで燃え盛った。燃え盛る炎はそのまま大きくなり、天井に着きそうになるほど燃え上がった。


「きゃ」


「ぅわっ!ひ、火が!!」


 その光景に何人かの生徒が、声を上げたり、思わず立ち上がって身を引いた。


「はっはっは!まぁ、落ち着け。この炎で火事にはならねぇからよ」


 ニコルはそう言って水晶から手を離した。すると、燃え盛る炎はスゥと消えていった。


「属性については知ってるか?魔力の属性は主に『火』、『水』、『土』、『風』、『雷』の5つだ。あとは『闇属性』と『聖属性』があるんだが……この二つの属性が高い奴は稀だからな。滅多に出ない。まぁ、属性が高くなくても闇と聖属性の魔法も訓練すれば一応使えるぞ?簡単な防御魔法や治癒魔法とかな。因みに、俺の属性は『火』だからさっきみたいに炎が燃え上がったんだ」


『第五元素属性』か。

 実は俺はこの魔力適正を『スルス館』で行ったことがある。因みに俺の属性は『雷』。この黒い瞳と髪のせいでよく『闇属性』と勘違いをされるが、『聖』と『闇』の属性が高い人間なんてそうそういないのだ。まぁでも、高位魔道師という立場に登り詰めるまで、死に物狂いで魔法を勉強して修行をした結果、どの属性もある程度の魔法は使えるようにはなった。


「さ!説明はこんなもんだ!それじゃあ早速、そっち奴から順番に来い」


 ニコルがそう言うと、前に座っていた人から順に教卓の前へと並び始めた。


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