第23話
今日もレイラ様はキラキラとした長い髪を
「グロブナー様よ。今日もお美しいわ」
「あら、本当。気品が違いますわ」
「グロブナー嬢、是非ともお近づきに……!」
「いや、お前じゃ無理だ。諦めろ」
「はぁ、本当に素敵」
道を少し歩けばこの通り。名家のグロブナー公爵令嬢で容姿端麗なレイラ様は、皇太子殿下のご婚約者であると同時に、学園みんなの憧れの的であった。
「流石ですね、お嬢様。皆様からの注目をこんなに集めております。こんな主人を持てる
俺がそう言うと、何故かレイラ様はジト目でこちらを見つめてきた。俺は首を傾げながら「どうされましたか?」と尋ねると、レイラ様はため息を漏らした。
「貴方……自分の事に関しては本当に鈍感なのね。貴方の耳はどうなってるのかしら。この注目の視線は私だけじゃないわよ?」
レイラ様にそう言われて、俺はもう一度周囲の声に耳を傾けた。
「はっ……マーカス様がこちらを見た気がするわ!」
「ちょっと!声が大きいわよ!はぁ、マーカス様。今日も素敵」
「平民の出だとは思えない立ち振舞いですわ。あんな方が専属従者だなんて、羨ましい……」
「なんてったって最年少の高位魔道師ですもの。平民出身だとしても、位としては貴族と大して変わりませんわ」
「そうね、あの美貌ですもの。本当、御二人が並ぶと美男美女で眼福ですわ~」
なるほど。まさか、ご令嬢の皆様方にそんな風に思われていたとは。まぁ、でも……
「他のご令嬢の皆様にどう思われようが、私には関係ありません」
俺がそう言うと、レイラ様は首を傾げた。
「ん、どういう意味?」
「秘密です」
俺がそう言いながらレイラ様に笑い掛けると、レイラ様はほんの少しだけ頬を紅く染めた。
あぁ、今日も俺のレイラ様は可愛い。
「あ、レイラ~!」
俺がレイラ様の可愛いさに浸っていると、後ろから笑顔で手を振りながら走ってくるフローレス嬢の姿が見えた。
「あら、アリス。おはよう」
「おはようございます。フローレス嬢」
「あ、マーカス様もおはようございます!」
フローレス嬢はそう言いながら、飛びきりの笑顔をこちらに向けた。すると、レイラ様は「ウッ」と眩しそうに手をかざして口を開いた。
「ま、眩し可愛い! 流石はヒロインね、朝ドラのヒロイン並みに眩しい」
「何言ってるの、可愛いのはレイラの方じゃない」
レイラ様とフローレス嬢は「いやいやいやいや」と言いながら、お互いにお互いを褒め合っている。正直、2人とも何してんですか? とツッコミを入れたくなる会話だか、周囲からの反応は少し違うようだ。
「な、なんだ、あの可愛い子は!?」
「が、眼福だぁぁ朝から天使がふたり……」
「あ、あの組み合わせ……綺麗系と可愛い系か!?」
「いや、待てあれはエロい系と小悪魔系だ!」
「……嫌ね。本当、男ったらくだらない」
「あの子……確か平民、よね? 確か入学式の時に注意を受けていた……魔力持ちの特待生だったかしら?」
「確かそうだわ。はぁ、またあんな風に走ってみっともない。これだから庶民は」
「ええ、全くですわ。でもどうして、あの庶民がグロブナー様と? 身分違いも甚だしいですわ」
ふむ。周囲の意見は男女でだいぶ差があるようだな。まぁ、当然の反応だろう。
俺がそんな事を思っていると、レイラ様は周りの視線に気がついたのか、スッとフローレス嬢の腕に自分の腕を絡めてニコッと微笑んだ。
フローレス嬢はレイラ様の突然の行動に驚き「レイラ?」と尋ねた。
「さっ、
レイラ様が『親友』という言葉を強調してそう言うと、当然周りがざわつき始めた。
「しっ!? う、うん」
一方フローレス嬢は、少し照れながらそう答えた。すると、レイラ様は少しだけ彼女に顔を近づけて再び口を開いた。
「いい? アリス。貴方、学園では
「ちょ、レイラ!? か、顔近くない?」
「いいから。貴方のことは
「っは、はい……♡」
……あの~フローレス嬢?目が♡になってますよー?
というか、レイラ様。貴方どこぞの主人公が言うセリフじゃないですか? あ、最近庶民向けの恋愛書物にハマっておりましたね、そういえば。
俺はそんな事を思いながら、前を突き進んでいく2人の後を追おうとした。そんなときだった。
「おい、なんなんだ? なんだか、騒がしいじゃないか」
この声は……
俺は嫌な予感を抱きつつ、後ろを振り返った。すると、そこにはジェイコブ皇太子殿下と、恐らく側近の2人がこちらへ向かって歩いていた。
「……げ、攻略対象が3人も……」
レイラ様も後ろの御三方に気が付いたようで、面倒くさそうな表情を浮かべながらボソッと呟いた。
「ん? あぁ、なんだ。騒ぎの原因はお前か。レイラ・エミリ・グロブナー」
俺達の姿に気が付いた殿下は、目を合わせた途端、ため息混じりにそう言い放った。すると、殿下の姿に気が付いた周りの一部のご令嬢達から「きゃ~殿下~!」と黄色い悲鳴が聴こえ始めた。
あぁ。また面倒な奴に遭遇……いや、エンカウントしてしまったようだ。俺は周りにバレないよう小さくため息を漏らした。
「学園で騒ぎなんて起こすなよ、まったく。困った婚約者だな、ほんと」
殿下はそう言いながらやれやれと、わざとらしく大きなため息をついた。
ふと、レイラ様に視線を移してみると「ふざけんな、どっちが困った婚約者なんだよ、コルァ」と顔に書いてあった。しかし、すぐに「マズイ」と感じたのか、レイラ様は一度深呼吸をして平静を装った。
「……お会い出来て光栄です。殿下」
レイラ様はそう言いながら、にっこりと微笑み、制服のスカートの裾を持ち上げ頭を下げた。流石です、レイラ様。
俺はレイラ様の凛とした後ろ姿に、改めて惚れ直しそうになった。
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