第22話
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!」
フローレス嬢は顔を赤く染めながら、恥ずかしそうに訴え掛けた。
「そ、そうよね。ごめんなさい。でも、まさかの展開ね」
「申し訳ありませんでした。そうですね……つまり、ルウ様の事が好きでこの学園に入学した、という訳ですか?」
「はい。そうですが」
フローレス嬢は食い気味に即答した。
なるほど……いや、本当にそれだけなのか? 他の企みは何もないんだろうか。
「でも、ルウ様って……確か攻略対象外のモブよね?ヒロインのお助けキャラ的な」
「モ、モブじゃありません! ルウ様はれっきとしたサブキャラ……いいえ、もうメインキャラです! あの細くて綺麗な瞳に、スラッとした鼻筋。あの甘い唇。そして何よりあの周りを包み込む優しげな雰囲気! 私は前世の時から、ずっとルウ様一筋なんです!!」
「細くて綺麗な瞳……むしろ線……あ、いいえ。そうよね、うん……」
レイラ様はフローレス嬢の独特な早口と、勢いに圧倒されていた。いやまぁ、レイラ様もたまにこんな感じですけどね?
「それなのに……それなのに! ファンブックでもチョロっとしか出てこないし、公式グッズだって攻略キャラしか発売されないし。あり得なくないですかああぁぁぁ!?」
「そ、そうよね。うん、ちょっと落ち着きましょう? 折角の可愛い顔が台無しよ?」
レイラ様がそう言って宥めると、フローレス嬢は深呼吸を繰り返しながら、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「す、すみません……またしても取り乱してしまって」
「大丈夫よ。良かったわ、落ち着いたみたいで」
レイラ様はそう答えたが、明らかにやつれた表情を浮かべている。あのレイラ様がこんな風になるだなんて、彼女はなかなかに強烈な人物のようだ。
「でも……
まさか
俺がそんな事をを思っていると、レイラ様は首を横に振りながら口を開いた。
「いいのよ、気にしないで! こちらの勝手な都合だったんだもの。そういうことなら仕方ないわ。むしろこうやって同じ前世の記憶を持ってる人に出会えて、こうやって話もできて実は嬉しかったの。だから、その……これからは友達として、仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「グロブナー様……」
「あ、そのよそよそしい話し方もしなくていいわ。名前もレイラって呼んで」
「えっ……いいえ、そんな! 私はただの平民ですし、グロブナー公爵家のご令嬢様を呼び捨てになんて」
「いいの、友達になりたいんだから。
レイラ様はシュンとした表情を浮かべながら、肩を落としてみせた。すると、フローレス嬢は慌てた様子で口を開いた。
「そ、そんな事ありません! えっと……その、じゃあ、レ、レイラ」
フローレス嬢がおずおずとした様子でそう言うと、レイラはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「ふふ、その調子よ。まさかヒロインと友達になれるなんて夢みたいだわ。よろしくね、アリス」
レイラ様が満面の笑みでそう言うと、フローレス嬢は何故か「昇天」と言いながら後ろへと倒れた。
「ちょ、ちょっと!?」
「アリガトウゴザイマス。ゴチソウサマデス」
フローレス嬢はよく分からない事を喋りながら、自分の両手を胸の前で合わせている。
「……あ。すみません、また私ったら。実は前世ではヒロインよりもレイラ推しだったのです。顔面がめちゃくちゃ好みだったんです。美人過ぎ、可愛過ぎ、エロ過ぎ。性格はまあ、確かに悪かったんだろうけど、きっとそれは殿下への深い愛故の歪みだったのです、きっと、はい」
「なんだか、私が言ったらいけない気もするけど、貴方もなかなかのオタクぶりね。あと敬語に戻ってるわ」
「ハッ、つい癖で」
「ふふ、アハハハ。ふっ……なんだか、ゲームのヒロインと印象違い過ぎておかしいわね!」
「ヒィ、ごめんなさい。中身はただの枯れたアラサー……いや、今世の年齢も合わせるとけっこうなオバサンなので……ヒロインとはかけ離れているかも」
「うん、そうかもね。あ、ていうか私前世ではJKだったから、むしろ私の方が敬語つかわないといけないかも」
「じぇっ!?……いーやいやいやいやいや、タメ口で! 私もタメ口にするから!!」
「ふふ、分かったわ」
レイラ様がそう答えながら笑い掛けると、フローレス嬢も少し照れ臭そうな笑顔を浮かべた。
俺はそんな光景を見ながら、ふぅと安堵のため息を漏らした。
どうやら彼女には、レイラ様に危害を加えるような企みはないようだな。まぁ、このルウ様に対する熱意を見るに、彼女は嘘をついてはいなさそうだし、俺の変な思い過ごしだったようだ。ひとまず安心といったところか。それにレイラ様に学園での友達が出来たようで、俺も少し嬉しく感じた。
「さっ、とりあえず解決したことですし、もうこんな時間です。そろそろ帰りましょう」
俺がパンッと手を叩いてそう言うと、レイラ様は「そうね」と答えた。
「あ、荷物! 私の席は……あ、あっちだ!」
フローレス嬢はそう言いながら、自分の席へと走っていった。
「良かったですね。お友達ができたようで。とりあえず、ぼっち回避ですよ」
「ぼっ!?……まあ、そ、そうね? ゲームでのレイラは友達じゃなくて『悪役令嬢の取り巻き』しかいなかったし。実は、少しだけ不安だったわ」
「あぁ、なるほど。でもまぁ、殿下との婚約破棄作戦は、また振り出しに戻りましたけど」
俺がそう言うとレイラ様は、はぁぁぁぁと深いため息を漏らした。
「そう……そうなのよね。まぁ、仕方ないわ。また違う作戦を立てましょ」
「かしこまりました。お嬢様」
俺がそう答えると、荷物を持ったフローレス嬢がこちらへ小走りに向かってきた。
「お待たせしました! 帰りましょう!」
「あ、コラ、また敬語」
「あ、ご、ごめん。なんだかまだ慣れないみたい」
「まぁ、徐々にね」
「うん!」
フローレス嬢は嬉しそうな表情を浮かべ、そう答えた。
これからなんだか騒がしくなりそうだ。
俺はそんな事を思いながら、前を進む2人の後ろについて歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます