第11話
「はぁ、はぁ……っ見失いましたね……」
俺とレイラ様は、ひろいんが逃げ去った方向へ走って追いかけたが、この人混みのせいで見失ってしまった。
「っ……そう、みたいね。はぁ、あの子、逃げ足早すぎじゃない?」
「まあ、この人混みですしね。というか、やはりあの子は『転生者』なんですかね?」
「……分からないわ。でもこの世界で『まぢか』なんて言葉を使うなんて『転生者』の可能性が高いわよね」
「ですよね」
それにしても、何故あの子はあんな風に逃げ出したのだろう。
「とにかく聞き込みをしましょう」
俺とレイラ様は早速、周りにいる人から聞き込みを始めた。何人かに話を聞いていると「ひろいんの姿を見た」という人物に出会った。わたあめの屋台を構えているおじさんだ。
「あぁ、さっき広場の音楽隊のとこで踊ってた女の子か?」
「そうです! ピンクブロンドの女の子です」
「あぁ、そうそう! ピンクだったな、肩ぐらいの長さで。あっちの路地裏の方に走っていったぞ。さっきちょうどすれ違ってなぁ。あっちの路地裏の方はまあ、なんだ……あんまし治安が良くねぇから、女の子1人で行こうとしてたんで止めたんだけどよぉ。聞かなくてなぁ……お前ら、友達か?」
「ええ、友達です」
俺は何食わぬ顔で答えた。
「そうかそうか。なら、見つかったら友達叱っといてくれや。あぶねぇから。本当なら俺もついていってやりてぇんだが、何しろ今、屋台を空ける訳には行かねえからなぁ……お前らも探しに行くなら、警備隊の連中を連れて行くんだぞ?」
屋台のおじさんはそう言って、わたあめを作りながらウィンクした。
「はーい、おじさん教えてくれてありがとうございます」
俺は笑顔でそう答えて、その場を離れた。
**********
「ノア、警備隊は呼ばないの?」
「うーん、そうですね……」
レイラ様は、何の迷いもなくスタスタと路地裏の方へと向かう俺に尋ねた。迷いどころではあるが……そうなると、もしひろいんが見つかったときに、前世の話について聞けずまた逃げられる可能性も高くなる。正直、そうなると面倒だ。
俺はそう思いながら、くるっと後ろを振り返った。すると、レイラ様が少しだけ不安そうな表情を浮かべていた。俺はそんなレイラ様に対して、優しく微笑み掛けレイラ様の左手をぎゅっと握った。
「警備隊は大丈夫です。私を誰だと思ってるんですか?」
俺がそう言うと、レイラ様はふふっと笑って俺の右手を握り返した。
「そうよね。なんたって最年少の最高位魔道師だもの! レッツゴーよ、ノア!」
そうして、俺達はそのまま薄暗い路地裏の方へと向かっていった。
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『星の夜祭』の日のせいか、路地裏へ入るといつもより余計に薄暗く感じた。先ほどまで笑顔を浮かべていたレイラ様も顔を強張らせ、俺の手を握る指にぎゅっと力が入っている。
この路地裏は、それほど危険というわけではない。が、もっと奥にある『スラム街』はまた訳が違う。ある程度探し歩いて、ひろいんが見つからなければ、一先ず引き返した方がいいかもしれないな。先ほど余裕たっぷりに「大丈夫だ」と見栄を張ったはいいが、レイラ様を危険な目に合わすわけにはいかない。後日、俺1人でひろいんについて探ればいいし。まぁ
それにしても、ひろいんは何故こんな所に入っていったんだろうか。
「ひろいんは、スラム街出身みたいな設定だったんですか?」
「え、ううん。確か……街から少し離れた一軒家に住んでる……みたいな設定だったような?」
「曖昧なんですね? 記憶が」
「うっ……ご、ごめんなさい」
レイラ様はそう言って、シュンとした表情を浮かべた。かわいい……いや、まずい。末期だな、これは。
俺は一度咳払いをして口を開いた。
「コホン。まあ、しょうがないですね。それにしても……けっこう進んできましたけど、いなさそうですね。今日は一旦引き返して、後日私がまた調べに来ます」
「え! でも、ノア1人じゃ……」
そう言い掛けたところで、レイラ様は口をつぐんだ。何故なら、俺が何も言わずに不敵な笑みを浮かべていたからだ。
(……私がいたところで、ノアにとって私はきっと、
レイラ様は心の中でそう思い、再び口を開いた。
「……そうね。じゃあ、お願いするわ。ノア」
「かしこまりました。では、戻りましょうか」
そう言って引き返そうと後ろを振り返ると、何故かニヤついたチンピラ2人が立っていた。なんだか見覚えがあるような?
「よぉ、さっきぶりだなぁ?」
「へっへっへ、まさか帰る途中で会えるなんて……ラッキーすね、アニキ」
あぁ、何処かで見たことあるようなと思ったら……
「しりもち男と腰巾着か」
「「なっ!なにぃ!?」」
あ、しまった。つい、心の声が出てしまった。
「ハン、まあいい。さっきの借り、返させてもらうぜ?」
そう言うと、チンピラ2人はその辺に転がっていた鉄の棒を持ってジリジリと近寄ってきた。
「ノアっ……」
「……目を瞑って、少し下がってて下さい」
俺は再び不敵な笑みを浮かべ、レイラ様の手を離した。
「すぐに終わります」
正直借りを返したいのはこちらの方だ。お前らがレイラ様にしたこと、あんなもんでは許さない。それにあの場で俺が止めていなければ、どうなっていたことか……想像するだけで吐き気がする。
俺はゆっくりとチンピラ2人に近づきながら、自分の右手にバチバチバチッと音を鳴らして電流を走らせた。まるで、右手全体に雷が纏まりついているかのように。
「あ、あいつ! また妙な事を……」
「あのガキ……もしかして魔道師なのか」
しりもち男がそう言うと、俺は鼻で笑った。
「やっと気づいたんだ? でも遅かったね、さようなら」
そう言って、俺は「
「「ぎやぁぁぁああああああ!!!」」
落雷に打たれた2人は、悲痛な叫び声を上げながらその場に倒れ込み気を失ってしまった。
*******************
「ん? どっかで雷が落ちたみたいだなぁ」
わたあめの屋台のおじさんはそう言いながら、雷鳴がした方へ視線を向けた。
「これから雨でも降るのかねぇ」
「さぁな……あの子ら、大丈夫だったかな」
「ん、あの子らって何なんだい?」
「あぁ、いやなに……こっちの話だよ。ほぉら、わたあめ、いっちょあがりぃ!」
わたあめのおじさんはそう言って、お客さんにわたあめを渡した。
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