第17話 ファンタジーの定番であり胸糞なアイツ

「ギルドカードはいくつか種類があります…。ランクによってギルドカードが代わります。Sランクはミスリル、Aランクは金、Bランクは銀。それ以下は皮のギルドカードになっています」


「それでそれで?」


「えーっとぉ…。ランクアップには依頼クエストを受けて頂く必要があり…依頼の回数やギルドからの評価によってランクが上がります」


「なるほどぉ。それでぇ?」


「えぇーっ!?それでって…。ほ、他にもぉ、他にもぉ…ううぅ…」


「「それでそれで!?」」


「う、」


「「う?」」


「うええーーーんん!!」


ギルドの職員ちゃんが泣いちゃった。

名前を確かフローラ。オドオドしてるその姿から小動物を思い出し、ついついいじってみたんだが…。


「やりすぎだぞ、ドーラ」


「ご主人様のほうがやりましたよ」


「どっちもどっちですよぉ!ううぅ……公衆の面前でこんなに泣かされるなんて…。もうお嫁に行けない…」


カウンターの向こうでしゃがみこんでわんわん泣き始めてしまった。


「え、ご主人様に泣かされた、責任取ってお嫁さんにして、と?やめておきなさい。ご主人様は私の身体に虜になっているから無駄よ!」


「ヒッ、大人の関係…!?まだ子供なのに…」


「ドーラやめろ。フローラちゃんごめんね、大丈夫?」


「歳下の子にちゃん付けされるとなんか嫌です…。とはいえ、先程説明したのがざっくりとしたギルドの規則です」


「ざっくりって言うと…さっきの冒険者みたいな喧嘩のことかしら?」


「け、喧嘩ではなく、決闘です。揉め事は基本ギルドから干渉はしないようにしています。決闘という形で問題は解決してください」


物騒、ではあるのだろうけどこれも異世界かと思うと少しは納得がいく。

法整備はあっちの世界がきっちり決めていたし、それによって成り立つ平穏だったんだろう。

こっちは個人の力がある分、圧政を敷くってのは考えなかったようだ。反乱が起きていいことないだろうし、民草に媚びを売るって考えは割とわかる。


「というか、決闘って貴族が己の誇りをかけて行うって感じだと思ってんだけどな」


「えと、概ね合ってます。仰るとおり、元々貴族が行っていた決闘は貴族が冒険者になる事例が出てから始まり、そこから広まっていったそうなんです」


「貴族が冒険者になる?身分を隠してってことなのかしら?」


「確か…初めは平民として登録した王族の方の身元がバレてしまい、ギルドでも問題になったそうですが、その王族の方の鶴の一声で、冒険者の登録には身分を問わないようになったそうです」


これでもかと権力をフルスイングした王族の方によって、冒険者の規約が変わっていったらしい。

貴族の登録が問題にならなくなったとはいえど…。


「未だ賄賂などでランクアップを不正に行う貴族がいますし、貴族が冒険者になるということに疑念を抱く人も少なくありませんので、お気をつけてください」


と、ある程度の説明が終わった。

諸々の書類を済ませて皮のギルドカードをもらった。昇進試験みたいなのはないらしい。


「まずは依頼を確認しに行くか」


「はぁ〜い。どんなのにするんです?」


「最初のうちは薬草採取がいいと思うんだが、報酬が少ないんだよな。お小遣い程度にしかならん」


「じゃあそこらのゴブリンでも狩りますぅ?」


そうしようかと頷き、フローラちゃんのところに依頼の書類を持っていった。


「ほ、本当にこれにするんですか?西の森のゴブリンは強いですよ?」


「自分の実力を過信してるわけじゃないけど、これくらいなら確実に達成できるし、これにした」


「ご主人様のやることについていくのができるメイドってやつですよぉ!」



というわけでゴブリンを狩る。







           ★






西の森。正式に言うとメジャの森。占星術を用いて文明を発展させてきた人たちの痕跡が残り、今では誰も寄り付かないのをいいことに魔物たちが暮らしいている。たまに人里の方に降りて村などに危害が加わる恐れがあるので、冒険者に依頼が入る。


「とはいえ、都合のいいようにゴブリンが見つかるわけでもないしな」


「隠れながら暮らしてるモンスターですし、余程強い個体が出現しない限り侵略してきませんしぃ」


あたりを見回しながらため息をつく。鬱蒼とした森の中でゴブリンを見つけるのは意外と難しい。特にゴブリンは巣や村を作るため、大規模なものでは1000体いる時も珍しくないらしい。


しかし、ゴブリンというモンスターの最も厄介なところは…。


「繁殖力の高さ、種族関係なく相手を孕ませるんだよな、ゴブリン」


「女の敵ですねぇ…」


「捕まえた女をもて遊び、孕ませて種族を増やすを繰り返す。そんな中で正気を守っていられるはずもなく…」


「人間の女を好み、夜人目の少ない場所で攫う。一年に少なくとも何千人と行方不明が出ているうちの八割ぐらいがゴブリンの被害者でしょうねぇ」


冒険者からすれば脆弱な存在だが、自衛の術を持たない村人からしたら家族関係を、下手をすれば自分たちの持つ物全てを壊してしまうモンスターだ。


「被害者がいないといいな」


「本当に…」


喋っているとパンドラが腕を伸ばし静かになる。しゃがむように促され、茂みに隠れる。


非戦闘魔術サポートマジックで気配を捉えましたぁ。見張りが3体、洞窟の前に陣取っているあたり巣があるでしょうね)


(はぁ…。これは後でギルドに報告モノだな)


(どうします?殲滅ですか?)


「隠れる必要もないな」


茂みから立ち上がり、スキルにより鎌が出現する。

レンを見つけたゴブリンが仲間を呼ぼうと声を上げようとした瞬間、一振りによって3つの首が飛んだ。


洞窟の前に立つとわかったが、鎌が振れるほどの広さがない。パンドラに非戦闘魔術サポートマジックによる素手や蹴りの攻撃を強化して戦うことを提案し、洞窟へと進んだ。


じめじめとした洞窟の中で別れ道が3つあった。


「どちらに行きますぅ?」


「右から選択肢を潰していこう」


「ダンジョンでもないから魔術的なトラップはないですよね」


「ゴブリンがトラップを作る知能はないし、もしあったとしたら、強力な個体が出現していることに――――――」


「…あらまぁ。落ちてしまいましたねぇ?」


「…原始的ではあるがそうだな。規模が大きい可能性が出てきた」


右の通路を通ろうとしたその時に紐を踏んでしまい落とし穴に落ちてしまった。

魔術によるものではないが、この暗闇の中、細いワイヤーに引っかかてしまった以上、確実に上位個体がいる可能性が高くなる。


「というか、こんな紐どこで手に入れたんだ?」


「そこら中に落ちているようなものでもないですし、他の冒険者が落としていったとかぁ?」


その紐を見ると赤黒い染みがついていた。


「血が染み込んでるような紐を冒険者が落とすとは思えないし、まあ十中八九やられたんだろうな」


「ゴブリンに?」


魔物の中では最弱。しかし奴らの脅威はその繁殖力の高さと最低三匹のグループを作り、連携の取れた動きで冒険者を殺すという点だ。これほどのグループとなると…。


「最低でもゴブリンソルジャーかゴブリンジェネラルはいるだろうな。もしかしたらキングやエンペラーがいる可能性もある」


「洞窟にそんな大きな群れが入りますかねぇ?溢れちゃいません?」


「普通の森ならそうだろうけど、ここはメジャの森だ。儀式用に大きく作られてる施設が風化して、洞窟になってもおかしくない」


「…早く終わらせましょう。あんまりいい気がしませんよぉ」


洞窟を歩き進めると大きな部屋に出た。玉座と呼ぶには貧相な石の椅子にどっしりと腰を掛けている奥の魔物。


ゴブリンエンペラー。小さな砦ほどの高さがある体躯は筋肉の鎧で覆われている。オーガよりも下位のモンスターだが、そこらのオーガでは太刀打ちできないほどの強さを持つ。


そしてその玉座の横には血で塗られた大斧があった。整備なんていう知識がないゴブリンたちは武器さえそのままにしておくらしい。


「パンドラ。あの武器」


「予想していたとはいえ、最悪な気分ですねぇ。魔王だった頃はこんな気持ちにならなかったんですけど」


王を守護するかのように立ちふさがるゴブリンソルジャーが持つ武器も王都の店売りの武器だ。殺した冒険者たちから奪ったんだろう。


「散った冒険者の弔いだ、パンドラ。殲滅するぞ」


「了解、ご主人様」

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鎌使いの転生者 Ryu-ne @Ryu-ne

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