第15話 冒険者ギルドとかませ役

とんでもないスキルをもらってから数日。なんとか鎌は手から離れたが、それでも常に身に着けなければならなくなった。

部屋に忘れていくと直線距離でついてくる。

例えそこに壁があろうが関係なく。検証などを続けているうちに部屋はボロボロになった。


色々問題はあったものの、レンとパンドラは冒険者になるべく、冒険者ギルドへと向かっていた。


「ところでご主人様、冒険者ってなんなのぉ?勇者とはまた別なのかしらぁ?」


「どこを比べているのかわからないけど…。一般的に言うなら…。『勇者』は魔王を討伐するために動く教会専属の人間。『冒険者』は街を魔獣から守ったり、ダンジョンを攻略する。教会は人族至上主義で、冒険者は多種族。誰でもなれるな」


「なるほど〜。で、何で『冒険者』になるの?ご主人様だったら『勇者』にでもなれそうだけれどぉ?」


ふと疑問に思い問いかけるパンドラ。


「勇者にはまず自由がない。教会の聖女が常に勇者の護衛をするんだ。それに魔王を討伐することを重要視しているからダンジョンに行けない」


ダンジョンに行けない、つまりステータスを上げづらい環境にいることになるということだ。確かに勇者には勇者専用装備があったり、教会から多額の支援金が送られる。しかし戦うことは少ない。魔王が出現し、人族に干渉するのも1000年に一度あるかないかぐらいだ。


「それにお前魔王だろ」


「あぁ、なるほど〜」


教会が魔王を敵視している以上、パンドラを連れて歩くなど自殺行為だ。

魔王を連れていた事で犯罪となり、火炙りになるのが目に見えている。もしくは全員を返り討ちにして街中で火災が起きる。どっちかというと後者の可能性が高い。


「だから冒険者だな。冒険者はいい意味でも悪い意味でも実力至上主義だ。ある程度の実力さえ持っていれば誰でも名声を得られるってわけだ」


「へーぇ。と言ってもご主人様はパーティー組めるのかしらぁ?」


なにか疑問に思ったのかパンドラが首を傾げる。


「?パーティー組めないのか?」


「不可能ではないにしても可能性はほぼないのかもよぉ。だってご主人様、今とても弱くなってるじゃなぁい?実力至上主義って言うなら間違いなく今のご主人様は底辺あたりにいると思うのだけれど…」


「それは大丈夫!パンドラ、お前に任せた!」


「丸投げじゃないのぉ……」


重要なところを見落としていたレンは深く考えることを止めた。







「到着したみたいだな」


視界に入ったのはそこら辺の建物より一際大きな建物だった。見た目はよくある民家を3〜4倍に大きくしたようなものだった。少し緊張しながらその扉を開ける。


少し酒臭い匂いと食事の匂いが鼻をくすぐる。ここは王都冒険者ギルド。入った途端に見えるのはドラゴンの大きな頭の骨。その昔伝説の冒険者が倒したとされるドラゴンを飾っている。

併設されている酒場には10数人が束になって飲んでいる。


パンドラが想像していた冒険者ギルドとは少し違う。


「思っていたよりぃ、ずっときれいねぇ。埃も少ないし、血もないしぃ。もう少し汚いものだと思っていたわぁ」


「それは多分うちのカリン母様とクリス父様のお陰だよ。あの二人も結構有名人だからな…」


「あらぁ?あの二人がこんなところに関わってくるのぉ?特にこういう荒っぽいのには関わらないと思っていたのに……」


なんせ6年前に起こった疫病で一番被害を被ったのは冒険者たちだ。

元々ギルドの衛生環境が悪い中活動していて、免疫機能が低下し、疫病で一番重症者を出した。


当時4歳。咳と高熱によりうなされた男の冒険者たちの姿が何故か上半身裸だったことから、馬鹿騒ぎをしたのかとレンは内心で呆れていた。

周りもそう思っていたらしく、発見が遅れてとんでもない被害を出すところだったらしい。


それからというもの、冒険者たちは健康を第一に考え始め、ギルドをある程度きれいに保ち続けるようにしているらしい。


「とりあえず冒険者登録しないと始まらないし。行くぞ、パンドラ。」


「はぁ〜い」


気怠そうに答えるパンドラに呆れつつ、受付へと進んだその時だった。


「おい、そこのガキィ、何してんだ?」


酒場の方から大きな声が聞こえる。冒険者ギルドに『ガキ』がいるとするなら多分それはレンたちだ。


「何って、冒険者登録だけど?」


「悪いこたぁ言わねぇ。とっととお家に帰るんだな。ここはガキどもが集まっていい場所じゃねぇんだ!」


周りから「そうだそうだ!」と歓声が上がる。間違いなく面倒くさいやつに絡まれてしまった。あぁ、異世界転生でのあるあるかもしれないけど面倒くさいことこの上ないし、こういうふうに声をかけられることは転生する前はあり得なかったから、そういうところでも異世界を感じる。


「やっぱどんなアニメ見ててもこういうかませ役がいるよなぁ……」


「あ!?誰がかませ役だって!?」


そうやって沸点高いところがかませ役に見えるんだが、と考えるレン。


「別に何言われようが冒険者になること自体は自由だろ?お前に帰れって言われて帰るつもりもないし」


「ご主人様の言う通りですよぉ。それにあなたの実力じゃ私達にかすり傷すらつけられないでしょうしねぇ……」


「チッ…!!言わせておけば、こいつら…!!」


腹を立てた奴らの一人が椅子を蹴り飛ばしながらこちらへ来る。見た目は30代のおっさんだけど、顔立ちは整っている方だ。歩く姿勢からして中々強くないか?


「うおっ、やべぇ『剛剣』のガルスがキレちまった!」


「前にも似たようなことがあったぞ。ガキ嫌いって噂を聞くけど本当なのかよ」


「あの女の子だけでもお持ち帰りできねぇかなぁ」


周りの反応からしてもやはりかなりの実力者らしい。


「尻尾巻いて逃げるなら今だ。早く帰りやがれ!」


こちらとしてはふっかけられた喧嘩は買うスタンスで行くつもりだ。舐められたら終わりの冒険者。礼儀を払うのは自分が認めたやつだけでいい。


「ご主人様、どうするぅ?私がやってもいいけど」


「金魚の糞扱いは御免だし、きっちり力量見せとかないとだめでしょ」


「武器使わないようにしなよぉ?」


「やるってんならこっちも容赦しねぇぞ!!」


そう言ってガルスが剣を抜いた。星鎌は筋力+0で強い訳では無いが素のステータスを考えると、剣で斬った断面ではなく、無理矢理に筋肉を潰したような断面が出来上がりかねない。


となるとやはり使うのは武技か。殺傷能力が低くて無力化するのに適したのは…『投』と『流』と『波』。


「来ねぇならこっちから行くぞ!」


剣に火が纏わり、周囲に熱が広がる。


「火斬!!」


武技の威力と身体能力をできるだけ抑えつつ、剣をいなしながら合気の太刀取りのように剣を捉え、放る。これを一瞬ですることで出来上がるのは、状況が何も分からず相手の前で隙を晒した剣士だ。


「星流投」


相手のがら空きの胴体に触れて先程と同じように威力を弱めながら押し出す。


「星波」


星衝ほど威力はないが結構痛い。無防備なところに年相応の筋力による腹パンと同じくらいだ。


「がっはあ!」


苦悶の声とともに倒れ込むガルス。剣は手から離れてた時点で火が消えていたが、もしギルドに引火したらどうしようとレンはヒヤヒヤしていた。


ある意味慎重に倒す羽目になったレンは息をついた。


周囲の冒険者はあまりの出来事に呆気にとられている。


「ガ、ガルスがやられるなんて…。あいつ一体どんだけの実力だよ!ガルスも元Aランクの冒険者だってのに…!!」


やはり相当の実力者だったのか。とするとこれ以上の実力者がいない可能性が出てきた。


「てめぇ、よくもガルスを!!」


正気に戻った冒険者がレンにくってかかるが、これ以上相手をしている暇はないとため息を付きながら言った。


「お前の相手はする気はないぞ。今の見てたらよく分かるだろ。喧嘩売る相手間違うなよ」


「あぁ!?ガルスが負けるはずはねぇんだ!てめぇ何か汚ねぇことしやがって!その気ならこっちだって…」


「いくらでも潰せるってか?事実を突きつけるようで悪いがこいつは負けたんだよ。調子が悪かったから負けたとか言ってても虚しくならないか?それで冒険者としてやっていけるなら笑い物だな」


「生意気をっ……!!」


「ハナから敬う気もねぇし、実力考えたらお前らのほうが下なことは分かりきってる。以後こっちにちょっかいかけてみろ、お前ら全員潰す」


最後の方は語気を強めて言った。脅しが効いたのかそれ以上何か言ってくるような様子はなかった。


やっと一段落かよ…とレンが疲れ気味になる中、ギルドの窓口の職員に声をかける。


「冒険者登録をしたい。今の見てただろうけど実力として足りるか?」


「えっ…!?あ、あの、ギルドに所属している冒険者同士の決闘は規則違反なのですが…」


「まだギルドに所属していない人間を冒険者が襲ったってことにしといてくれ」


「し、しかし…」


ギルドの職員はあたふたとしながらどうしたものかと悩んでいると…。



「おい、何だ今の騒ぎは…!!」


ギルドマスターが出てきてしまった。





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中々更新できない日々が続いております。

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