第9話 魔王討伐 1
そこにいたのは一人の小柄な少女と獅子の顔をした獣人だった。少女は南方の踊り子のような格好であり、小柄な体からは感じられるほどの魅力が溢れている。一方の獣人の身長はゆうに2メートルを超え、黄金のたてがみと白い牙が、自らが王であることを証明している。
彼らこそが世界を震わせる魔の王。禁断の魔王パンドラ。獣の魔王ガスラ。
彼らはクリシア王国へと足を進めていた。
退屈そうにパンドラが呟く。
「よくもまぁ、こんなチンケな国に来るだなんてぇ。星の魔王は何を予言したのかしらねぇ?」
「仕方ないだろう。それに今回の予言は通常とは異なる。なんせ、『新たなる魔王の誕生』だからな」
「前回の魔王の誕生が2000年前。神魔大戦で生まれたての魔王が死んでからもうそれだけ経つのねぇ。道理であたしも歳取るわけだわぁ」
「……昔話をするならやることが終わってからにしてくれ。あの王国、ただでさえ攻めるのに苦労するというのに…」
「はいはぁい。…星の魔王も何考えてるのかしらねぇ。でもあたし達に任せるって相当のことじゃなぁい?なんせ、『王国の全ての人間を殺すと新たな魔王が誕生する』らしいしぃ」
いつまでたっても仕事をしようとしないパンドラに痺れを切らすガスラ。
「いいから早くあの国を潰すぞ!」
「魔王使いが荒いわねぇ…。はぁ…。それじゃあ、合わせて頂戴」
「ああ」
パンドラがガスラの一歩前に歩み出て手を前に出す。その手には紫色の光が怪しく輝いている。
「不思議箱の
彼女の背後に魔法陣が浮かぶとそこから現れたのは黒色の巨大な宝箱。ガスラよりも大きい宝箱が開かれると、そこから巨大な大砲の弾が王国へと飛んでいった。
「あれぇ?おかしいわ、ハズレ引いちゃったわね」
「おまえ、魔力をケチったな!?」
「いや、だって疲れるしぃ…」
「疲れるのはわかるがあそこで魔力をケチるのは違うだろう?!折角の奇襲が台無しだろうが!!」
「はああ〜??何言ってんのぉ!?あそこから強い敵が出て来たときのために『節約』しただけなのにぃ…!」
「節約しなくても普通の人間なら倒せるだろうに!はぁ、連れてこなきゃよかったかもしれん…」
思わずガスラがため息をつくとパンドラはイラッとした。
「ぷっちーん!頭きた!身長に成長がいって頭が空っぽな獣にあたしの強さ叩き込んでやるぅ!!」
「!!おまえこそ、成長が胸と身長にいかなかった胸なしババァだろうが!上等だよ、タイマン張れやオラァ!」
禁断の魔王パンドラVS獣の魔王ガスラ、ファイッ!
禁断の魔王は節約という言葉を忘れ、全力で魔力を使って不思議箱の
これを王国の一級兵に見られてしまったので、奇襲の意味合い的には失敗なのだが、少なからず街に被害は出ていたので一応奇襲は成功している。
だが、目の前のクソ野郎をぶっ潰すと言わんばかりの激戦に意識が向くせいで新たな魔王の存在を完全に忘れている二人だった。
★
一方取り残されたレンは、応接間にて自分がどう動くべきか思案していた。
「魔王が二人…。さすがに5歳のこの体じゃ無理があるだろうなぁ…。職業の補正もついてない状態で戦うのは厳しいし」
天職として教会から受けた職業はその人のステータスを上昇させる。下級職なら25%アップ、中級職なら50%、上級職は75%とだんだんと強くなっていく。
ちなみに鎌を使う職業系統は下級職が農民、中級職が鎌使い、上級職は鎌聖である。
最低でも農民、鎌使いがあれば何とか勝てると思うが…。
「無職で行くのはさすがに無謀か?」
そう呟くと頭の中で声が聞こえる。
『我らを使えばよかろう』
「グリアド?」
声の主はリューンの神様であるグリアド。修行のときに魂の世界で出会い、契約した上の一柱である。
『
「でも、万が一のことがあったらと思うと…」
『では、いつレンが魔王を倒す?仮にも魔王だぞ?そう簡単に会えるものでもないし、倒す機会も100年に一度あるかないかだ。魔王は寿命が長い。自らの魔力を使って寿命をいくらでも伸ばせるからな』
「ならやっぱり…」
『今が
少しの思案の後、レンはやることを決める。
「よし、決まりだな!とすると…。ここからアスタ平原に行く方法だな」
『それこそ
「この身体で
少しの間をおいてグリアドが答える。
『多少の負荷はあるだろうが、まぁ、問題あるまい。
「それって大丈夫なのか?」
『まぁ、大丈夫だろう!』
なぜそこで言い切らないのか…。少し不安になりながらもやるしかないと腹をくくるレン。
「
レンの意識がなくなりその場に倒れる。
しばらくしてムクリ、と立ち上がったレンの瞳には銀色の光が宿っていた。
★
何ともまぁ不思議な身体だとグリアドは思う。その力はかつてリューンの神として世界を司っていたあの頃と同じだ。
「『まさか、これほどレンと我の親和性が高いとは…』」
神の器。1000年に一度現れるか現れないかの希少な特殊体質。特殊体質と言っても生まれてくるもののほとんどは体力強化や魔力強化といったそこまで強くはない。
だが、神の器というのはその身体に神を降ろすことができるほど神との親和性が高いということを表す。親和性が高いのは普通、王族の血を継ぐ女性や巫女の一族といった神との関わりが深い者で、それでも降ろせる時間は1日と長くなく、神の力も半減する。
だが、レンは他とは異なり、降ろせる時間も長く、降ろした神の力も強い。
「『契約を違わぬよう、早く魔王に会いにいくとするか。レンの大望のためにも』」
そう言ってグリアドは魔術を展開。星を
「『
魔導の発動とともにグリアドの背中に天使の羽が現れる。その羽の一つ一つに星を砕いたような光が広がっている。
「『さて、行くとするか!』」
星翼が大きく開き、空を裂くようにグリアドはアスタ平原へと向かった。
☆
パンドラは焦っていた。
(さすが、獣の魔王と呼ばれるだけあって、強いわぁ!こんなに魔力を消費するつもりなかったのにぃ…!)
今、パンドラは全力に近い状態で戦っている。それでもガスラに勝てるイメージが湧かない。次々と繰り出す魔導の全ては、彼の咆哮が掻き消す。
(決定打に欠けるわねぇ…!ここで大技放って
「考え事ばっか、してんじゃねぇぞぉぉぉぉ!」
「もぉぉ!うるさいわね、その声!そんなんだから、
「う、う、うるせぇこのババァ!テメェだってそういうのいないじゃねぇか!何百年理想の相手探してんだよ!なんだよ、『小さくて可愛い感じの美少年』って!この世にいたとしてもお前みたいな貧乳で処女なババァにはついていかねーだろうさ!」
「なぁっ……!処女言うなぁ!気にしてんだぞ!あと、ババァじゃないしぃ!」
「うっせ、処女!テメェの年齢いくつか、覚えてんのか!さっき『歳取るわけだわぁ』とかほざいてた老人はどこへ行ったんだよ、若作りしすぎじゃねぇの!?」
「それいうならおまえだって年取ってるでしょぉ!それに、あんたがモテない理由、教えてあげよっかぁ?あんたの体臭がくっさいからだよ!ちゃんと水浴びとか風呂とか入ってないでしょ!」
「ちげーし!毎日30分以上かけて身体洗ってるし!いい加減にしとけよ処女ババァ!」
尚、この会話は二人が戦いをやめて止まっているため戦っていない。否、戦ってはいる。口で。内容が完全に10代の悪口で、恐ろしいなんて感情が一切湧かない。
「つるぺた!ロリババァ!処女魔王!」
「筋肉ダルマ!単細胞!体臭魔王!」
「「ぐぬぬぬぬぬぅ!!」」
そしてその遥か上空。
「『なんだ、あれは…』」
二人の口喧嘩を何事かと見ていたグリアド。予想よりほのぼのしているというか、なんというか。もっとこう、激戦を予想していたというのに…。
「『倒しづらい…』」
人族達に被害を与えるならまだしも、今のところ最初の奇襲(?)以外に攻撃はしていない。それどころか身内で喧嘩しているとなると、本当に倒しづらい。これで倒したとき、果たしてレンの願いが叶うのか、それともしっかり正面戦闘をしないといけないのか。
「『倒しておくには、損はないかもしれんが…』」
そう言ってグリアドは魔法陣を展開。上空に広がる魔法陣の精密さと莫大な魔力を感じ、思わず魔王二人は喧嘩をやめてグリアドを見る。
「『ぎりぎり王国を範囲外にして…』」
「ちょっとやばいかもぉ…。
「おい、パンドラ!こっちにもそれくれ!」
「………頑張れ!」
「おぃぃぃぃぃ!!!」
膨大な魔力が魔法陣へと流れ、魔法陣から無数の岩石が落ちてくる。否、あれは岩石ではなく。
「『星堕』」
無数の星の弾幕が二人の魔王を襲ったのだった。
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