第8話 レンと王家

部屋に元気な泣き声が響く。


「奥さん、産まれましたよ!元気な男の子です!頑張りましたねー!」


「や、やっと、やっと産まれた…」


部屋の中央、ベッドの上で息を荒くしている華奢な女性と産まれたての赤ちゃんを洗っている助産師のおばちゃん。そして。


部屋のドアが壊れそうなほどの勢いで、男性が入ってくる。


「カリン!産まれたのかい!?いや、それより、君の体調は!?どこか具合の悪いところとかはない?!」


「クリス…。えぇ…、少し疲れてるし、何か大きな事をしでかしたような気分だけれど、体調は大丈夫よ、問題ないわ。でも、それより見て。私達の初めての子供よ、クリス。名前、どうするか決めているのでしょう?」


「もちろん決めているとも。この子の名前はレン。レン・グリタラットだ」





こうして僕はカリン・グリタラットとクリス・グリタラットの間に生まれた。







           ★




カリンとクリスはレンが生まれる2年前に結婚した。カリンは薬師、クリスは錬金術師として、働いていたそうだ。昔はクリシア王国の王都で二人で暮らしていたが、本来はクリシア王国南西の都市ベルアイルでのんびりとした生活を送るはずだったが、一軒家の建設に時間がかかるため、今は王国での仮住まいで生活をしていた。

ちなみに、薬術と錬金術は似ているが、専門家に言わせれば全くの別物だそうだ。


薬術は植物や動物を素材として、風邪薬や精力剤と言った、病気に合わせた薬を作成・提供する存在だ。たくさんの薬草を乾燥させて粉末状にし、配合を変えて粉薬、軟膏、錠剤などに形を変える。


一方錬金術が作るのは、この世に滅多にない金属や存在しない金属を魔石の魔力を使って魔石を作り変えたり、ポーションと呼ばれる回復アイテムを作る。薬師とは異なり、魔石の魔力を操作して金属を生み出す。魔石の魔力を一定量を均一に流しながら魔石を作り変えるため、精緻な作業となる。


そんな2つの派閥は犬猿の仲と言ってもいいほど仲が悪かった。似たようなことをするのでどうしてもお互いに間違えられる。 


カリンとクリスも同じように出会って最初は親の敵というほど憎み合っていたが、仕事終わりの飲み屋で偶然会い、意気投合。そのまま夜まで致してしまったので、クリスは関係に責任を持つべく、付き合うことにしたのだ。


そして晴れてゴールインした。聞いているだけでは一般的な夫婦の話かもしれないが、彼らはとある伝説を持つ夫婦だった。


今から一年前、王都で流行り病が蔓延した。咳と高熱。数百万の命が危機に晒され、王もまた病により死の淵を行き来していた。そのときに活躍したのがカリンとクリス。薬術と錬金術を合わせて作ったポーションは百万人の命を救った。その栄誉を称え、王はカリン達を貴族として迎え入れるつもりだったが、カリン達は「当たり前の事をしただけなので」「貴族なんてやっていたら研究なんてできないかもしれないので」とこれを拒否。貴族達は王の勧めを断るとはなんたることかと怒っていたが、王はそこまで気にせず、今後もよろしく頼むと勲章の代わりに大量の薬術と錬金術の素材を渡したそうだ。


そこからグリタラット家と王家の繋がりは深い。


そして、現在。

僕、レン・グリタラット5歳は一国の王であるクライン王に抱きかかえられていた。







           ☆





王城。その応接間にてのことである。


レンは今、一国の王であるクライン王に抱きかかえられていた。


「おお、おお!大きくなったのぉ、レンよ!3ヶ月ぶりか!?男であるのにこれほどの美貌を持つとは驚きだ!間違いなくカリンの血を継いでおるの!」


「あ、ありがとう、ございます?しかし、クライン様。僕の父であるクリス父様の血も入っておりますよ?それに、決してありえませんが、血が違えど僕の父はクリス父様で母はカリン母様です。あと、降ろしてください…」


「ほぉ〜。歳と違って大分落ち着いておるのぉ。これは将来が楽しみだな、クリスよ」


「この子には色々と驚かせられますから。将来に関してはこの子自身が決めることです。まぁ、錬金術を継いでくれるのなら嬉しいですがね」


「ちょっとクリス!レンには好きなことをやってほしいから将来を勝手に決めないって言ってるわよね!」


「わかっているよ、カリン。だけど将来のことを思うと、少しね。折角ならいろんなことを教えてあげたいと思うよ」


ゆっくりと降ろされるレン。


そこで繰り広げられるのは中身だけ聞けば何ともない微笑ましい会話ではあるが、人物が大物すぎてやたら緊張する。


クライン王は風の都の呼ばれるフェリア王国の国王。圧倒的な人気を集め、重税の改善や交通インフラの整備、果ては自ら商人として隠れた名店を経営していたほどの才覚の持ち主だ。まぁ、商人としての活動がバレた今は、公務の合間を縫って活動しているらしい。




「さて、レンよ。お主ははもう5歳になったのであろう?王都の大教会で天職の儀を受けるのが5年後か。楽しみじゃな」


「はい、望む天職が与えられれば良いのですが…」


この国では10歳になれば、天職が与えられる。攻撃の天職は主に剣士、魔導士、弓使い、騎士、盾使いとその他…。もちろんここに鎌使いも入っている。次に支援・作成の天職は回復術士、占い師、薬師、錬金術師、剣職人、防具職人、商人などなど…。


どの職業になるかは創造神やその他のいろいろな神次第ではあるが、なりたい職業に強く望めばなる可能性が高くなることもあるらしい。ここらへんはあやふやで、どれも噂や推測の範疇でしかない。


「どんな職業を与えられるのか楽しみだな、クリスよ」


「支援・作成の天職なら将来が安定ですけど…」


「レンはなりたい天職はあるかの?」


「僕は……鎌使いになりたいです」


「「「鎌使い?」」」


彼らは一斉に首を傾げる。一国の王ですらピンとこないほどマイナーな天職なのか…。師匠、僕、前途多難かもしれません。


「どんな職業であれ、レンは強くなれる!なんといってもこれほど高いステータスじゃからのぅ!

儂がレンの歳くらいにはステータスは低かったというのに!王国の仕事を初めて約10年!ここまで高いステータスを見たのはなかなかないわい!」


「ここまでステータスが高いと日常生活に支障をきたすので、すごく疲れるのですが…」


一国の王が驚くほどのステータスがこちら。


【ステータス】

レン・グリタラット   Lv1


属性:星


筋力:10000 防御力:100 魔術攻撃力:   

魔術防御力:1000 俊敏性:20000

体力:4000 魔力:20000


筋力は10000、俊敏性、魔力に至っては20000と高い。ステータスが10000や20000にいくのはそれこそ『剣聖』や『弓聖』、『バーサーカー』や『大賢者』といった技を極めた一握りの人間だけがたどり着けるというらしい。


そう、そしてこのステータス。全て師匠である鎌神ディアとの修行の成果だった。転生する際、修行したぶんの能力を転生体に移し替える、と師匠が言っていたような、言っていなかったような。


しかし何故か魔術攻撃力が空白だった。魔術は使えるものの、魔術攻撃力が空白なのは異例のことらしい。不思議に思うものの、使えるからいいか、と考えるのをやめたレン。そこらへんは創造神とかのさじ加減によって決まるのだから。


「ステータスが高いというのはどんな職業でも適正が高いと言われているくらいだし、いいことに変わりはないさ」


「そうかー、薬師にはならないかぁ…。

まぁ、なりたい目標があるなら母親である私は応援するわ。夢は実現させて初めて、意味のあるものになるし」


「無理しすぎないように頑張るんだよ」


「はい!」


「ああ、それとレンよ。婚約者のことなのじゃが」


「え!?」


そんなに気にすることでもないようにさらっと重大な内容をぶっこむクライン王。


「こ、婚約者ですか…。まだ僕は幼いので婚約者と言われても…」


「む?そうか?儂の娘のフィアでも娶らせようと思うておったのじゃが…」


「フィア様ですか…僕、彼女に嫌われているんじゃないかと思うんですけど…」


この国の第一王女フィア。なんと齢10歳で冒険者ギルドのAランク冒険者まで到達したというとても強い王女様で、二つ名は『氷姫』。

何度かお会いしたときはずっと睨まれたり、「お前の実力を見せろ」と言って模擬戦を申し込まれた。当時3歳。さすがに断ったもののいつまた襲われるかわからないのでちょっと怖い人だ。


「大丈夫じゃ!フィアはレンのことを嫌ってなどおらん!むしろあそこまで他人に執着す……気にすることなどなかったからな!」


「……不穏な言葉が聞こえましたよ、クライン様」


「とにかく!レンよ、お主は我が娘である第一王女フィアと婚約せよ!」


「は、はい。わかりました…」


本当にこれで良かったのだろうかと思うレン。

カリンとクリスを見ると息子に婚約者ですって、と目をキラキラ輝かせている。やっぱり婚約者って憧れるものなのだろうか。


他愛もない話は王国に響いた爆発音によって途切れる。


           ☆



ほのぼのとした空間は突如莫大な魔力と王国中に響く爆発音によって壊された。


王城が揺れるほどの爆発は10数秒続いた。


突然、応接間のドアが勢いよく開かれる。入ってきたのは一級兵だった。




「陛下!王国より南西のアスタ平原に二体の魔王の姿を確認しました!」


「なっ、なんだと!?魔王の復活が近いとは聞いていたがここまで早いのか!?」


「現在、魔王同士で争っています!遠見からでしたが、禁断の魔王パンドラと獣の魔王ガスラかと思われます!」


魔王が二人。レンは魔王が複数人いると聞いていたものの、さすがにそんなわけないと考えていたので驚いていた。


「王国の騎士団はいくつ動かせる!」


「第一、第二、第三の騎士団は遠征です!残り四〜十の騎士団は動かせます!」


「第四、第五は国民の避難を!他は王国の結界を強化せよ!誰一人として犠牲を許すな!冒険者ギルドにも通達しろ!」


「はっ!」


一級兵が命令に従い、部屋を出ていく。

そしてクラインはクリスとカリンの方を見て言う。


「クリス、カリン。二人の傷薬とポーションの在庫はあるか!?」


「家の倉庫にある!ポーションは約1000本、傷薬はも同じくらいあるわ!」


「取りに戻るよ!アスタ平原まで届ける!」


やることが決まった3人は、あっという間に自分の役割を果たすべくクラインは作戦会議室へ、クリスとカリンはポーションと傷薬を取りに家に戻った。


そして。


「魔王が二人…倒せるのか?願いも二つに増えるのか?さて、どうしたものか…」



ディアとの約束。『魔王を討伐する』という名のエクストラクエストが始まろうとしていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




最近投稿できていない理由。頭の中では構想ができているものの、それを捻り出す作業に時間がかかってしまったからです。



投稿強化月間とかしたほうがいいですかね?


感想や誤字脱字の注意など、色々書き込んでいただけるとありがたいです。


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