第6話 星神装 3
『このままではお前は滅ぶ』
何を、言っているのだろうか。滅ぶって…つまり…死んでしまう、ってことなのか?
『滅びる、つまり死ぬだけでなく、魂が破壊される。魂というのは存外脆い。完全に破壊されてしまえばたとえ神であろうと滅びる。お前はそういう状態に置かれているのだ』
そんな…いきなり言われても…。何か、打開策のようなものはあるんですか?
『打開策も大事だが、それ以前に大事なことがあるし、一度落ち着け』
……落ち着けと言われてもこの状況じゃ…。
『はぁ…。お前の魂は我らの魂を受ける器となっておる。端的に言うならば、茶碗から湯が溢れ出したような状態だな。そして、茶碗が湯の量に耐えきれずに壊れてしまう。神の器といっても注ぎ込める限界はある。お前はその限界を迎えかけているというわけだ』
魂の器…。そんな特別な力が…。でもそれが原因で死にかけているってことですよね?
『ああ。今現在、お前は溢れ出る力に暴走して鎌の娘と魔術の娘と戦っておる』
師匠と!?頭を抱えて、今の状況を整理する。上手くまとまらないけど…。
多くの神が魂に宿っていて、それで暴走してる。その暴走で死にかけているってことか…。
詰んだか?
『さてそんなお前に朗報だ。魔術の娘によってお前に宿っていた魂が、ある程度力を失った。もともとあの魂達は我のように自我を持っていたが、混ざりすぎた影響で、自我を失いかけたようだな。しばらくしたら元の力を取り戻すだろうが』
魔術神がそんなことを…。さすがは神様だ。これで元に戻るはず…。
『力を失った魂は一旦消えるが、茶碗は壊れないわけではない。むしろ均衡状態を保っていたのが崩れたわけだ』
……。まだ命の危険が残っていたか…。
『お前に説明するのに長く時間を使ったが…ここからが本題だ』
本題って…。何か、手があるのだろうか。この状況から抜け出せる一手を。
『我と、いや、我らと『契約』を結べ。契約の内容とはこうだ。
・お前はお前に宿っている我らから、必要なときに力を貸すことができる。
・契約する神の数は無制限。もちろん魂の墓標にいるすべての神の魂でも構わない。
・お前を依り代としての外界への降臨ができるようにする。
・この契約は他人に譲渡できず、一方的に破棄することは許されない。
この5つさえ守ることができれば我らはお前に力を貸そう』
レンは少し冷静になって考えてみたが、おかしいことに気づく。自身のデメリットが少なすぎる。特段難しい内容でもない。
『怪しむのは結構だが、お前には時間はないぞ。あと数分もすればお前は滅ぶというのに…』
また、魂が溢れ出すことは起こらないのか?仮に契約しても滅んでしまえば元も子もない。
『あれはお前が一気に魂の力を引き出したんだろう。そうでもなければあんなことは起きん』
それがあれば…。
………師匠に並び立てるのか?
もっと強くなって、師匠に、師匠の期待に応えられるのか?
『知らん。たとえ契約を結んでも何を望むかは契約者次第だ。さぁ、早く選べ。己の魂が滅びるか、全てを変える力を求めるか』
……思えば前世から、だいぶ無茶な橋を渡ってきたなぁ。無理と言われたことに真っ向から向き合ってバカにみたいに時間を費やして不可能を可能にして皆を驚かせてた。走って、頭を使って、頼って、立ち止まって、また走ってを繰り返した人生だった。
もう止めようと何度も思った。諦める回数が多くなった気がしてた。疲れて、倒れて、もう無理だーって言って、自分で限界を作ってた。
諦めた世界は灰色だった。
でも、次へ行こうと思えた。思わせてくれた神がいた。あまりにも短すぎる時間だったけど、その短時間で一気に色が塗られていった。あの強さに、憧れた。何度か修行しただけだというのに。時折見せる鎌神の笑顔に撃ち抜かれていた。
ぶっちゃけて言おう。詰まるところ、一目惚れだ。
剣神の言った通り、僕は鎌神に、師匠に心の底から憧れてた。そんでもって惚れてた。
口調かわいいし、小柄な体に大きめの鎌とかめっちゃ刺さるし、ちょっと寂しげにしてるところとかもう、構ってあげたくて仕方がない。
一方的に憧れて、一方的に好きで、一方的に愛している。
この想いだけは何が何でも伝えないといけない。
なら男として生まれたからには、やり遂げなければならないことがある。
口が、動く。
「人生ってやり直しが効かないから、やりたいことをやりたい。
まずは師匠に勝って、告白する。成功してもしなくても、転生して、あなたの弟子はこんだけカッコいい男になってますよ、って笑顔でまた師匠と会える日まで頑張って生きるんだ。中途半端じゃかっこつかない!だったらはじめからまっすぐに!
僕は師匠と結婚する!!」
煩悩が溢れ出ているが、止まらない。話し始めるときりがないから纏めよう。
「契約を結ぶ!僕の欲望と師匠の幸せのために!」
身勝手だろうか。強欲だろうか。
自分の欲望と他人の幸せを一気に望むのは。
でも望んだことに、悔いなんてあるはずがない。
『……なかなか面白い奴だな、お前は』
「えーっと、名前、名前…。あっ、そうだ、グリアドだ。僕の名前はレン。名前忘れかけてた奴が言うのもなんだけど、覚えといてくれ」
『……お前っ、お前というやつはっ……………!
……腹がよじれる………ッ!』
腹を抱え、笑いながら少し苦しそうにするグリアド。未だかつてないツボにハマってしまい、抜け出すことができないようだ。
「そんじゃ、よろしくおねがいします!」
『ああ、よろしく。お前は、レンは我らを退屈させなそうだ』
視界に光が差し込んでくる。眩しさが爆発し、笑い転げていたグリアドが見えなくなった。
★
ふと、不思議な感覚がレンを襲った。意識がない間、ずっと目は開けていたのだろうが、この瞬間になってようやく、目を開けたような。
次にレンを襲ったのは身体に纏わりつき、魂を燃やそうと煌々と光る白い炎だった。
「ぎぃっ、ぐぁぁぁぁぁぁ!?」
身体に熱々のやかんをぶつけたときより痛い。いや、違う。痛みのベクトルが、違う。表現する余裕もないが、間違いなくそんな痛みよりも遥かに痛い。
痛みで苦しむレンの身体の炎が段々と消えていく。
「『呪紋化』!」
レンはその声を聞き取ることができなかった。痛みは魂を焼く痛みから身体をじりじりと焼く痛みへ変わる。
「いっつ……。まだだいぶ痛みはマシになったな…でも、何で…」
燃えていたんだろう、と言う前に視界が黒色に覆われる。
あまりの勢いに尻餅をついてしまった。
「うぷ!」
「レンっ!レン、レンなのね!?良かったっ……ホントにっ…良かったぁ………」
「ひ、ひほぉう!?ふ、ふふひひへふ……、ぷはっ離れてって、師匠!」
とても強く、抱きしめられた。そういう感情がないわけではないので、反応してしまう。
主に鎌神の力が強いせいで、顔に当たっているであろう立派な果実の感触も感じ取れる余裕なんてないんだ。
ぱっと鎌神が腕を離すと、そのまま涙目で話し始めた。
「ずっと、すっとあのままだったらどうしようかと…」
「結局、どうなってたんですか?意識がなかったのでいまいち何が起こったのか…」
グリアドのところで聞いているが、確認する必要がある。
「…いちゃいちゃしてる二人のために私が話しますね」
「うわぁっ!!」
「い、い、いちゃいちゃなんてしてないわ!ただ、レンが心配で…」
ぬっ…と僕の背後から魔術神が現れた。そしてとっても気になる鎌神の反応。……気になる。
「最初に剣神に怒ったレンさんが、秒で剣神を倒しちゃいました。その後、何か様子がおかしいなーと思って呼びかけたんですけど、返事がなくて。しかも剣神にとどめを刺そうとしていたので焦って攻撃したら私達にヘイトが向いたんです。そこから、私が頑張ってレンさんに魔術で封印をしました」
半分くらいわかったけど、最後の封印って何だろうか。聞いてみると、
「わかりやすく言うなら、レンさんは今後あの状態になることはできません。魂を媒介にしているアレをどのようにして行ったのか知りませんが、あれができないよう、呪いという形で封印させてもらいました」
封印……グリアドは大丈夫なのだろうか。
『我らは無事だ、レン』
「うわっ!!」
「どうしたの、レン?」
「今なにか聞こえたような…」
頭の中でフワンと響く声。念話のようなものなのだろうか。
『その通りだ。ちなみにだが、その魔術の娘の呪いなら役に立たん。契約に何ら支障はないぞ』
支障ないのか。それだけグリアドが強いんだな…。魔術神が若干かわいそうである。
『我と会話するのもいいが、だんまりしすぎると怪しまれるぞ』
そりゃあそうだな、と別の会話をしようとした。
「どこか、おかしいところでもあるの?」
ぴとっ、と少し冷たいものがおでこにつく。何が、と詳しく言うのは憚られる。
感想?とても、気持ちよかったです。
「わ、悪いところはなかったですよ。ところで、剣神はどこに…?」
周りを見渡しても剣神の姿がなかった。勢いに任せて倒したから、また後日リベンジしようと思ったのだが。
「剣神は『用事があるから、帰る!』とのことです。まぁ、いつものように修行をするのでしょうね」
と魔術神。
色々あったけど、何とか事態は収束した。
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