第5話 星神装 2
「ユルサナイ」
そう言ったのは先程剣神にやられていたレンだ。才能を感じ、私は彼を弟子にした。
でも目の前にいるのは。
彼ではなかった。
★
剣神の剣が止められる。それも、素手で。だがレンの掌は怪我をしているようには見えない。
「剣を離せ、そこをどけ。私はお前をさらに強くしてやろうと言っているのに!」
どれだけ力を入れても剣神の剣が離されることはない。そのまま握っている掌ごと斬ろうとしているが、斬れる様子はない。
こうなったら…と剣神は息を整え、魔術を発動する溜めを作った。
「『神斬』!」
剣神が剣を振るった。一筋の剣筋が入り、後ろの天山が音を立てて崩れた。
だが、斬った手応えがない。目の前にレンがいない。剣神はレンを探す。
不意に剣神の後ろに気配がした。
「星衝拳乱」
複数の衝撃が剣神を襲った。『衝』は文字通り衝撃を伴った攻撃で、『乱』は複数の攻撃を同時に繰り出せるという攻撃だ。
「なっ、武技だと!?」
剣神がバックステップで離れてもすべての攻撃がなくなるわけではない。
「ぐっ……!でもその程度で倒れるわけでは…!」
「星蹴突」
離れた距離を一瞬で詰め、レンがジャンプして踵落としを喰らわせる。
「ちっ…!何度攻撃が当たったくらいで調子に乗るな!」
剣で防ぎ、弾き返す剣神。レンは弾き返されてもすぐに立て直す。
「火炎斬流!」
剣に炎が灯り、炎の波が揺れるようにレンを襲う。
一瞬で幾重の剣閃がレンを襲う。
「『天の川』、『星転』」
レンの掌が光り、天の川がオーロラのように広がり全ての剣をいなし、星転による反撃を交えた。
「ぐあぁぁっ!!」
ボロボロになりその場に蹲る剣神。圧倒的な攻撃になすすべもなく倒れる剣神。
「ユルサナイ」
剣神に近づき、とどめを刺そうとするレン。その間に一人の影が入り込んだ。
「影刃!」
レンの懐で影の刃が飛び、それを避ける。合わせるように魔術の白い槍が飛ぶ。魔術神だ。
「『ホワイトランス』!」
しかしそれをレンは容易に避ける。
「レン!それ以上はいけない!」
「レンさん待ってください!止まってください!」
鎌神と魔術神だ。レンから剣神を守るように立つ。
先程までずっと見ているしかなかった鎌神と魔術神だったが、剣神がやられたのを見て動いた。
「……………」
「レン!あなたやりすぎよ!剣神も落ち着いて!レンも、今本気で殺す気だったでしょう?!」
「そうですよ、レンさん!いくらなんでも剣神にやりすぎですって!」
レンを説得する鎌神と魔術神。しかしレンにはそれが聞こえないようだ。すると足元の剣神が苦しみながらも二人に言った。
「……ふたりとも、あいつは…レンではない…。あいつにこれほどの実力があるのなら、最初から私を殺せていた…。何かが、おかしい……」
「………ッ!ならわかったわ!レン!あなたと戦う!あなたを倒してあなたを止めてみせる!」
鎌神が鎌を構える。魔術神は鎌神を援護するべく魔導書を開いた。
「
そうレンが呟くと、星の光が集まり鎌を形作る。細く、星を砕いたような装飾。銀色の鎌は全てを斬り裂くような、そんな雰囲気を纏っていた。
レンは剣を手に取り、中段に構える。
「弐の武技、星薙」
一瞬で鎌神へと近づき、鎌を振り払ったレン。星の刃が鎌神を襲う。
「『グランドライトシールド』!」
その間を光の盾の魔術が防ぐ。魔術神が割り込み、鎌神を守ったのだ。
「伍ノ武技、星獅子ノ
続けるようにレンが鎌を魔術陣に突き刺し、魔術陣を破ろうとする。
「今です、鎌神!」
「烈風刃!」
レンが光の盾を壊す隙を見て、鎌神が攻撃する。強い風の刃がレンを襲った。体を切り裂かれた傷で少し動きが止まるレン。
追い打ちの機会だとばかりに鎌神が攻撃するための魔術と武技を溜める。魔術神も高火力の魔導を溜める。
「魔術武技合技『亡』!」
「『ゴットボルト』!」
どす黒い鎌を持った鎌神と神の雷がレンを襲った。大爆発が起こり、レンを完全に屠る。
確かに鎌神はレンを斬り裂き、魔術神は魔術を命中させた手応えを感じた。
すぐにバックステップで離れる鎌神。
黒煙が晴れたそこにレンは立っていた。
死んでいなかったか、と鎌神は安心したと同時にさすがにもう攻撃してこないだろうと油断した。
「肆ノ武技、星ノ
その瞬間、レンの体に星座のように光が繋がり、体を癒やす。
レンは剣を地面に突き刺し、手を掲げた。
「『星堕』」
小さな惑星が、レンの上空に現れた黒い穴の中から堕ちてきた。
「『ゴッドガードエリア』!」
即座に魔術神が結界を作る。半ドーム状の透明な結界が、鎌神と魔術神を包む。
「これっ!こんな威力が出るなんて…!この勢いだとあと数分後には私達即お陀仏ですよ!」
「早くレンを止めないと…!」
あまりの攻撃の激しさに焦り始める魔術神と鎌神。
攻撃を防ぎきったものの、いわゆる膠着状態。どちらかが尽きるまでこれは終わることはないと悟る。
次の攻撃を、と再び臨戦態勢をとった二人は、違和感を感じる。
「鎌神、気づいてますか?」
「やっぱり…。レンの器に魂がたくさんある…。まるで魂が溶けて混ざったみたい…!」
神が存在するには自身の魂を許容するほどの依り代がいる。転生者達にも天界で修行をするために仮初めの依り代が渡されていた。
でもこれは依り代に収まりきるような魂の量ではない。
「レンの魂が依り代になってる…!」
「ですよね!しかも一般人が持つような魂ではなく、神の魂です!それも壊滅指定の!」
「……滅んでもなおここまでの力を有しているなんて…!」
レンの体にある魂の数は数億はくだらない。しかもそれ等全てが壊滅指定の神の魂だ。
「鎌神、私が詠唱します。約10秒です。その間私を守りきってください…!」
「無茶を言わないでっ…!この状況で約10秒ってどれほど難しいか…!」
「それでも!止めなくちゃいけないものは止めないといけないんです!創造神の次に強いと言われた剣神があれ程のダメージです!覚悟を決めてください!」
鎌神は歯噛みしながら、不可能に近い無理難題に向き合う。レンに向かって駆け出す鎌神。
「烈風刃!」
「…それは時すら焼き尽くす終焉の火…時が刻まれながら燃えてゆく…」
「壱の武技、流れ星」
魔術神の詠唱を止めようと攻撃を仕掛けるレン。しかし、それは届かない。
「天衝!」
跳んでレンの攻撃を上から止めた鎌神。
あと7秒。
「嗚呼、その火は何を呼ぶか…平穏か、戦乱か、創世か、滅界か…全ての原初たる火に我は求む…」
「魔術武技合技、『亡』!」
「天の川」
攻撃を防がれながらもなんとか耐えている鎌神。しかし、神であっても限界は訪れる。
「『星牢』」
体力が尽きかけた鎌神に星の牢獄が現れ、動きを封じる。
「なっ!檻がっ!魔術神、逃げて!」
あと3秒。
「その火にどうか、願いが届きますよう…!」
「魔術神ッ!」
一瞬で距離を詰め、慈悲なく鎌を振り下ろすその瞬間。
ちょうど、0秒。
「『魂の
「…………ッッッ!!!!」
白い炎に包まれていくレン。段々とレンの魂に混じっているものが燃えていく。
炎に包まれたレンは■■を見た。
★
満天の星空。レンは星空に立っていた。星空に立つ、という感覚は何というか不思議な感覚だった。
やわらかいような、硬いような。だが、不思議と居心地は悪くなかった。
するとレンの目の前に一人の男性が現れた。体つきはガッシリとしていて、彼の目は鋭くレンを睨んでいる。
『何故我らに力を求めた?』
力?確か………、そうだ。剣神を倒したいと思った。そうしたら視界が暗くなって…。でも自分の力不足に悔しくなっただけで、力を求めたわけじゃないけど…。
『力を求める意志が無くとも、我らは確かにお前に宿った』
心を…読まれた?さっきから口が開けなくて喋れない。それと何か関係があるのだろうか。
『お前が喋ることはできない。魂の力がたりぬからな。何もここに呼んだのは力を与えたことに対する対価を求めているわけではない。お前に今の状況を説明するためだ』
今の……状況?だめだ、全く話が入ってこない。というかここはどこなんだ?師匠や魔術神は?
『……質問が多い。はぁ…。己の置かれている状況もわからぬとはな…』
もったいぶらないで教えてくれ!剣神を、あいつを倒さないと!
『ここは魂の墓標。世界の全ての魂がここで輪廻転生を待つ場所だ。お前の師匠とやらは、ここにはいない。もし其奴がここにいるのであれば其奴の人生は終わっておる。……ん、神が師匠と言うか。人であろうと神であろうとここでの扱いは変わらぬ。それに剣神とやらはもう倒しておいた』
魂の墓標?どこだ、それ。それに、剣神を倒しておいたってどういう……。
『これだけ言うてもわからぬとはな。そうだな……ここは言うなれば魂の世界。お前と、我らが干渉しあえる場所だ』
魂の世界って…。それに、干渉だって?
……お前は一体、何者なんだ?
『ふんっ、陳腐でありきたりな台詞だな。我はリューンの神、グリアド。最近の若い者には、壊滅指定と言われた、古代の神々の一柱だ』
リューンの神、グリアド?鎌神のように自分の使う武器や得意なことを名前代わりにするのではなく、名前があるのか?
驚きの事実はまだ続く。
『このままでは、お前は滅ぶ』
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最近は忙しく、あまり話を書く暇がなかったので。さ、サボっていたわけではないです。断言します。
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