第4話 星神装 1

早速剣神に会うべく、魔術神と鎌神とともに剣神の住んでいる土地へ。


「ここがいつも剣神が修行で使っている天界の山、天山という場所ですよ!神もあまりこの土地に来ないので、修行の地としてはとてもいい環境です!」


そう言って魔術神が指さしたのは雄大という言葉がこの山のためにあるのではないか、と思うほど大きな山だった。富士山よりも大きい。山の周りは森になっており、一度入ったら抜け出すことができないだろう。うん、広い。


「あの子はやると決めたらとことんやるから。こんなふうに修行が嫌になっても出ることができないようにしているのよ」


「なるほど〜。あれ、だけどその仕組みでいくと転生者たちはどうやって抜け出せたんでしょうか?」


剣神のところで修行していた転生者達は全部で10人ちょっと。その全員がこの森から抜け出せるか、と言われたら誰もが全員不可能である、と答えるだろう。それほど深い森のように見える。


「剣神が転生者達を担いで森の外へ出したのでしょうね。彼女ならそれぐらい朝飯前だと思うよ」


「そんなことより!早く剣神に会いに行きましょう!」


「…もういるのだが。鎌神は気づいていたようだが…お前は気づかなかったのだな」


魔術神が天山へ歩き出したとき、魔術神の背後に人影があった。


「なっ!?剣神、いるなら言ってください!それにあなたを求めて会いに来たというのに、さすがにその態度はどうかと思いますよ!」


「人の住む所へ行くのに一言も言わず、断りなく天山へ入ろうとしたのはどこの一行だ?客として迎え入れてほしいならそれ相応の態度を示せ」

 

「むきー!!あなたはやっぱり変わりませんね!そんなのだから転生者達に嫌われるんですよ!」


「私は、嫌われてない…。嫌われてはいない……」


彼女が剣神…。

腰に日本刀のような剣と藍色の袴に身を包んでいる。凛とした表情で口を閉じればそのまま肖像画になるようなほど繊細な顔立ちだ。


………口を閉じれば、であるが…。


魔術神との会話を聞いていると少し言葉の毒が目立つ。悪意を持って言っているわけではないが、どうしても角が立つ。


「……それにしても鎌神が弟子を取るとはな。あなたはもう数百年、蹲って泣いて未来を見ないと思っていたのに。そこにいる少年があなたを変えたのか?どう見てもどこにでもいる一般人だと思うのだが…」


剣神がレンを睨む。レンは彼女のオーラに一瞬怯んだ。しかし、ここで目を逸らしたら修行をつけさせてもらえないかもしれないと思い、腹に力をためて踏ん張る。


「レンは私の弟子。私が見てきた中で最強の鎌使いになるわ。きっと私の師匠すらも超えるとてもすごい鎌使いになることを期待しているの」


鎌神は自信を持ってそう告げた。彼女はレンの潜在的な能力を知った。

強靭なフィジカル、スピードだけではない。星属性でありながらも、初めての戦闘で鎌神の攻撃をしのぎ続けたのだ。確かに鎌神はレンを傷つけないよう手を抜いた。しかしそんなものはいらないとばかりに圧倒的な飲み込みの速さで鎌神に喰らいついたのだ。

そんな彼ならこれからきっと強くなる。そんな信頼が鎌神とレンの間にできていた。


鎌神はなんとか納得したようだ。


「まぁ、鎌神がそこまで言うならそれほどの人物っていうのはわかった。…ちなみにだが、こいつはどれだけ武技を使える?魔術だけしかできないのか?」


「どうなんでしょう。魔術はイメージが大事というのを教えてますけど、武技を覚えている感じはなさそうですね」


「武技は使ってなかったわ。あれは全部魔術よ」


3人が話す内容についていけない。とりあえず武技ってなんだ?


「武技って何ですか…?」


「……鎌神、魔術神。あなた達は戦闘で魔術と同じくらい大事な武技について教えていなかったと言うのか?もしかして、【ステータス】とスキルのことも教えてないわけないな?」


「そういえば教えていなかったわ」


「教えてませんでしたね…。簡単に言うと、武技っていうのは魔導とは異なる攻撃方法です。武技には『斬』『衝』『突』『乱』『刃』『拳』『蹴』『投』『刺』『流』『波』の11つが基本的な武技です。

これらは簡単に覚えられますが、単体だとあまり強くないため、魔導と一緒に使うことで威力を上げています。

剣神は『拳』と『蹴』以外は使えますね。私は魔導神なのであまり武技は使いませんが最低限として『投』と『流』を覚えてます。鎌神は全部使えますけど、剣神や拳神のように極めているわけではありません。これを覚えてどのように戦いを広げていくのか考えましょう!」


「【ステータス】というものはその名の通り自身の情報を表してくれる。今はまだ出ないかもしれないが、人に生まれ変わったときに必要になるぞ」


「で、それとスキルについて。スキルというのはステータスの中でも一番大事なものよ。スキルには色々あるけれど、簡単に想像してもらうとするなら…特殊能力みたいなものね」


一通りの説明を3人がしてくれた。


「なるほど。それでその…修行の方法はどういった感じなんですか?」


「…実戦だ。こいつの星属性の力も見たい。さらに言えばどれほど強いのか戦ってみたい。鎌神に認められた実力はどれぐらいか試してみたい。…ただ、それだけだ」


それだけにしては理由が多い剣神。だが確かに良い点はある。極められた技を見れば何か今後の役に立ちそうなものが掴めるだろうと思ったからだ。

少なくとも、手を抜いて戦っていた鎌神と同等くらいまでには強くなりたい。それほど強くなれば異世界に転生しても余裕で生きていけるだろう、とレンは先を見据えた考えをしていた。


「…それじゃあ、お前。私は手加減するのが苦手だ。全力で攻撃するから反撃してみせろ」





           ★




そう言った瞬間、剣神の姿はかき消えた。


「いない!一体どこに!?」


「…反応が遅いな。予測していなかったことへの対処も反射も。これ本当に鎌神の弟子?だとしたら相当見る目がないぞ」


そんな声が聞こえたかと思うといきなり視界が赤色に染まる。赤色よりもう少し濃い。いや、濃い薄いの話をしているわけではなく。


「血?」


そう呟いた瞬間、また視界に血の飛沫が飛んだ。

斬られたのは横腹と胸。自分が怪我をしたと、認識した瞬間に斬られた部分が熱くなる。


「があっ……!!!!」


「何も武技を使っていないというのにこれなのか?」


あまりの激痛に倒れ込むレン。涼しい顔でレンの前に現れる剣神。攻撃されたことすら、わからなかった。それだけ剣神が速いということだろう。


「……でも、まだっ!」


「…無駄だと思うぞ。いくら神界とはいえ、傷を受ければ魂が傷つく。……それにしても、鎌神。あなたはなぜこんな弱い人族を弟子にしたのだ?」


「それは、彼が強くなる存在だと思ったからで…」


「それならなんだ、この体たらくは。攻撃にも気づかずただ突っ立っていただけじゃないか。こんなやつを弟子だと?呆れた。鎌神、お前はもう諦めろ。今回のことも踏まえて、私も弟子を取ることは諦めた。転生者は、弱い。性根も、魂も、いくら教えたところで時間が無駄になっていくことだと気づいたのは転生者がいなくなってからだ。お前も、そう思うだろう、レン。

力の足りないことを。わかっているんだろう、どれほど足掻いても届かないことを。諦めてしまえ。お前にとって憧れは、強い足枷になる」


ど正論。剣神にとって弱さは最も憎いものだ。レンが弱いことを知って諦めてしまえ、と吐き捨てる。

その憧れが自らを強く縛るから。自分がそうだったから。でも、憧れが自身の成長を奪うことを知っていた。だからこそ敢えて最初に壁を作る。


「じゃあお前に問う。お前にとっての憧れは鎌神か?憧れて何になるというのだ?」


「僕に取って、憧れは…鎌神は…師匠は…」


「悩むというのなら私が断ち切ってやろう。喜べ、強いお前の新しい誕生日だ。憧れなんかに囚われたお前を殺してしまおう」


剣を抜く剣神。神々はそれぞれに殺し合わない。禁止されているからだ。だが、嘘でも鎌神を殺してしまおう、と言えばレンは怒る。そうすればさらに強くなる、そう剣神が予想した。人の本当の実力は窮地において発揮されるから。単純な好奇心だったのだろう。


だが、その予想は大きく外れることとなる。


剣を振り下ろすために大きく振りかぶる剣神。


まさか仲間に斬られると思っていなかった鎌神は何もできずただ動けない。目を瞑った鎌神。




そして。




その剣はレンに素手で掴まれていた。




           ★



視界がだんだん狭くなっているのがわかる。息も荒いし、だんだん体が鉛のようになって、どんどんと沈んていく。

でも、そんな自分の中に火が灯った。それが怒りだろうか何だろうか、わからなかった。



でもそれはだんだん、だんだんと。

だんだん、だんだん、だんだん、だんだん。



大きく、大きく、大きく、大きく。





気づいたら体が動いていた。






星神装スター・ゴッド・クロス








「おい、何だその姿。……お前、本当に人族か?」



剣神がそう呟いた。無理もない。なぜなら、剣神が反応できなかったほどレンが速かった。

ただそれだけ。


そしてレンは。まるで宇宙の闇を飲み込んでしまったかのような外套を纏っていた。


その瞳は黒色から星のような銀色へ。


「レン?」


「レンさん?」






「ユルサナイ」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



水曜日にあげなかったのには理由がありまして。

色々忙しかったんです。そのお詫びと言ってはなんですがもう一本あげます。

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