第3話 修行

「ところでなんですけど…。どんな修行をつけてくれるんですか?やっぱり走り込みとか?」


疑問に思って師匠(鎌神)に問いかけてみる。


「まぁ、勿論そうなのだけど…。あなた、私より速く動けるからね…。さっき私達の喧嘩を止めてたのを考えても、あなたの速さはとても強い武器になると思うよ」


ため息をつきながら、レンを見て、思案する鎌神。


「そうですね…あそこまで速いとは思いませんでしたし…。私達が速さに特化している神ではないですけど、剣神とか拳神とかといい勝負ができると思います」


「前世(?)では100m10秒で走ってましたね。

長距離とかも割と得意ですし、前に交通事故にあって腕の骨が折れたときとかは、1週間で治りましたね」


実はレンは運動能力はクラスで一番良かった。それこそ高校生の大会などで選手として出ないか、と陸上部の先生に言われたこともある。


「それは人族の中では異常だよね?」


「鎌神。彼は異常です。普通の人族はこんなに異常ではないです…」


魔術神は呆れ、鎌神は、そんなレンをどうやって鍛えようか迷っている。


「それじゃあ、レン。あなた、鎌を持ったことはある?」


「ないです!体育の授業とかで剣道を習いました」


ならなんで鎌をえらんだのか…、と呆れる鎌神。


「剣術は習っているのね…。実戦の経験は?」


「それもないです!というより実戦を経験してる高校生とかいません!」


実戦を経験している高校生なんていたら、日本が掲げる平和主義とは何なのか、もう一度調べるべきだと思う。


「ならそうね…。最初は基本的な大鎌の使い方と、鎌使いのベーシックな戦い方を教えることにしようかな…」


そう言って雲をちぎりだす鎌神。ちぎってはのばしちぎってはのばしを繰り返している。

一体何をやっているのだろう、と不安になるレン。

すると、だんだん雲が大鎌の形を作り、ものの数秒で雲の大鎌が完成した。


刃はシンプルに片刃。長さもレンに合わせて作られているため、試しに軽く振ったときに引っ張られるような感じもない。触った感じはふわふわしているけど、一本の芯が通ったような、そんな感じがする。


「この雲の大鎌は壊れてもすぐに作り直せるし、雲だから手加減がしやすい。初心者の練習としてはとってもいいものよ」


「おお〜〜!!これが大鎌!ってあれ?これ結構重量ありますけど、本当に雲なんですか?」


「実際の鉄の大鎌とかそれぐらいの重量よ。本当は雲のように軽いのだけれど、魔術神の魔術で重くしてもらったわ」


「雲の大鎌は1gにも満たない珍しい武器なので、普通の大鎌、つまり、1kg程度まで負荷を強くしました!」


何と大鎌の重さは自由に操れるらしい。修行している中で負荷が強くなるのだろうか。それはそれで怖い…。


「大鎌って、基本的に滅茶苦茶使いづらいの。

だから普通に使うだけじゃなくて、魔導をのせる。私が戦う場合、最初に広範囲の攻撃を仕掛けて、そこで相手が避けたあとに跳んで上から攻撃。その後は適当に距離詰めたりとか。

鎌使いは、剣士とかが間合いに入ってきたときに弱くなる。それを補う為に他の攻撃手段を用いているのが現実ね…」


鎌だけでは戦えない。そんな現実に少ししょんぼりする鎌神。


「魔術に関してはこの私!魔術神が力になりますよー!レンさんの魔術適性に合わせて、他の神様からも教えてもらいましょう!」


控えめな胸を張る魔術神。そんな魔術神から少し気になる言葉が出てきたので、魔術神に問う。


「わ、わかりました!…あの、ところで魔術適性と言うのは一体…?」


「……よくぞ!よくぞ聞いてくれました、レンくん!いい子ですね!また今度修行に付き合ってあげます!魔術適性というのは、簡単に言うと『その人にあった属性』なんです!どんな武器を使う人でも、その武器の向き不向きとかありますよね?それと同じで、魔術にも魔術属性の向き不向きがあるんです!何故、人族や神に魔術適性というものがあるのか不明なのだそうです!」


近い。鼻息を荒くして早口で説明を始める魔術神。やっぱり魔導の神だから、研究心みたいなのも豊富なのだろうが、得意分野になると達弁になるみたいだ。


「……魔術神。いいから早くレンの適性の確認をして。それによってどういう修行をするか決めるから」


「……そこまで大事なんですね!」


「まぁ、何ていうか…。魔術適性とはしっかりと向き合って戦い方を決めないと、後々伸びづらくなっていくから」


「それだけ大事なものなんですよ〜っと!それじゃあ、魔術の準備が終わったのでどうぞこちらへ!」


そこにあったのは大きめの魔術陣のようなものだった。魔術というのは奥が深いのだなぁ、と驚くレン。


そしてレンが魔術陣の中に入ったのを確認した魔術神が、レンの目の前に立って唱え始めようとする。


「始めます!レンさんは動かないでくださいね〜!『マジック・ジャッジ』!」


魔術神が唱えた途端、魔術陣が光り輝き、レンは眩しさから目を閉じた。


ある程度光が収まった時。ふと目を開けると、魔術陣の中に広がっているのは。


星空だった。強い光を放つ青白い星。優しいオレンジの光を放つ星。魔術陣の中には銀河そのものが広がっているかのような、そんなふうに感じた。


「ほ、星属性!1000年に一度と言われた超レアな属性じゃないですか!魔導の行使も早く、威力も高い!何より素晴らしいのは、攻撃力、防御力、回復力の3つに優れているという、万能型のバランス属性!長く神をやってきましたけど、星属性の人に会うのって初めてなんですよね…!」


「あ、そんなに凄いんですね、星属性。あの、師匠。どんな修行になるんでしょうか?」


「…星属性だったら、すぐに実戦形式の修行ね。私と模擬試合をして、勝ったら修行は終わりにしましょう」


「え!?そんなに早いんですか!?」


「私も星属性なんて見たこともなかったから、あなたは、実戦形式の修行をさせたほうが早いのではないかと思って。

あるとするなら創造神だけど…。あの人は直接見ることができないから、星属性は半分冗談の様なものなのだなと思っていたわ」


鎌神ですら見たことがないらしい。そんな強い属性だから何も教えず、とりあえず実戦形式での修行らしい。


修行とは何か、改めて辞書で調べたいと思うレン。


「それじゃあレン、構えなさい。始めるよ」





           ★




「風刃」


鎌神が取り出した鎌が緑色に光り、風を纏って斬撃が飛んでくる。


「うおっ!?」


ぎりぎりで上に跳んで、避けるレン。大鎌が避けるときに少し邪魔だが、今のところなんとかなってる。


「これ反撃なんてできるわけ…ってあれ!?師匠どこ!?」


「ここよ」


「はあぁあ!?」


上に跳んだレンの更に上を飛んで鎌を振り下ろそうとする鎌神がいた。


「地衝」


いきなり鎌神のスピードが上がって、とんでもない速さで降りて鎌を振り下ろそうとする。


体をそらしてなんとか避ける。


「レンさん!魔術忘れてますよ!」


「魔術ってどうやって出すんですか!」


着地しながら魔導神に問う。魔術を知らないレンにどうしろと言うのか。


「イメージですよイメージ!自分の中でイメージして、そのイメージを言葉で出せば出るんですよ!」


「ええ!?詠唱みたいなのいらないんですか!?」


「…少し戦いに集中しなさい。そんな体たらくでは出るものも出ないよ」


さっきから魔術神とレンが問答を繰り返していることが面倒くさいのか、大鎌を地面に刺して完全に無防備な鎌神。放てと?舐められてるなぁ、まあそうなんだけど。


……イメージするのはさっきの鎌神の風刃の星属性。星斬りとかでいいのかな?


「星斬り!」


なんとなくで鎌を振った瞬間、僕の目でも追うのがやっとなキラキラした斬撃が、鎌神へ向かって放たれた。


「なっ!?」


斬撃が当たる寸前、鎌神は印を組む。


「防壁!」


鎌神の防壁に僕の星斬りが弾かれる。

ふぅと息をついて印を解く鎌神。


「それじゃあ、まだまだ行きます!」


大鎌を低く構えて、レンはクラウチングスタートのような格好をする。


イメージするのは光の速度。神速っていう程早くはないんけど、それでも充分。


「星突!」


一直線上にいる鎌神との距離を詰めて、そのまま突っ込む。


それをあっさりと避ける鎌神。


「速いけど、一度魔術を出したら数秒の隙ができるもの。それを教えるのを忘れてたね」


鎌を振り切って無防備なレンに大鎌を振り下ろす鎌神。


「教えてもらえていなくても、なんとかなるのが僕なので、なんとかしますね!」


鎌神の大鎌が当たる瞬間にイメージしたのは、織姫と彦星を分け隔てる天の川。盾とかそういうのではなく、形を自在に変えられそうな、膜のようなイメージで。ついでに反撃みたいなのも入れておこう。

小さい星がたくさん出れば避けるのも難しいだろうし。


「『天の川』!『星転』!」


鎌神が振り下ろした鎌はベールのような星の膜で弾かれ、至近距離で星転の小さな星が散弾銃のように放たれる。


そしてそれは全部避けられた。バックステップで華麗に避けた鎌神が驚きながら言う。


「……っ!ここまでの技術を持つ人族は珍しいわ。手加減しているとはいえ、神と戦ってこれだけ保つのはすごいよ。さすが私の弟子ね」


「どうでしょうか?これでいいですか?」


「とりあえずいったん私の修行は終わるわ。

戦い方はある程度わかっただろうし、あとは魔術を極めなさい。

魔術神に教えてもらって、他の神からもどのようにして戦えばいいのか教えてもらうといいわ。そして、完璧に戦える、と思ったら私と一対一で戦いをしましょう」


「…はい!わかりました!」


これでとりあえず鎌神との修行はいったん終了らしい。


「魔術神、今天界にいる転生者はどれくらい?」


「ざっと20人くらいですかね。剣神のところとか0人です。いつもの厳しい修行をさせたんでしょうね…」


「え!?じゃあ、あれだけいた皆は一体どこにいるんですか?」


剣神のところが0人。あれだけいた剣神の修行を受けていた男子全員がもういないらしい。転生したのか?


「まだ転生はしていない。彼らは魂の状態で眠っているの。全員の修行が終わり次第転生してもらうことになってるから」


「そうですね。それじゃ剣神のところに行って修行をつけてもらいましょう!」


「えっ!?複数人から修行をつけるってありなんですか?」


てっきり一人だけからしか修行は受けられないと思っていたのに。


「レン、あなたは私と魔術神の二人から修行を受けているわ。技術を教えるという上で魔術神は、しっかりレンに魔導を出すイメージを教えていたじゃない」


「あれでいいんですね!」


「それじゃ次は剣神のところに行きましょう!魔術で移動しますよ、早く魔術陣に乗ってくださいね〜」


「…師匠も来るんですね」


「それはもちろん、私の初めての弟子だもの。ちゃんと最後まで見届けるわ」




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カクヨムから通知が来ていたので開いてみたら週間ランキングで1700位らしいそうです。

嬉しいですね。ありがとうございます。


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