第2話 弟子にしてください
それは5時間目ぐらいだったと思う。ウトウトしてたレンは、足元に浮かんでいた魔術陣のようなのが光っていたことに気づいていなかった。
周りがざわざわして、やっと「何か大変なことが起こっているのかな…」ぐらいにしか思ってなかった。
まさかこれが俗に言う「異世界転生」だなんて思いもしなかったのだから。
★
「……なんかいつもより陽の光が眩しいような、そうでもないような…」
寝起きで起きないレンに、クラスメイトが光を反射したビカビカしたやつを当ててるんだろうか。
「…眩しいからやめて……ってええええ!?な、何ここ!雲の上!?道理で眩しいんだ…ってええ!?皆倒れてるし!風間君!緑川さん!皆も起きて!」
周りを見渡すと、そこには群青というか、なんかそんな感じの空があった。快晴というべきか。そりゃ遮るものが何もないなら、眩しいに決まってるわな、と思い、足元を見渡せば、どういう原理で固めているのかわからない真っ白な雲、倒れているクラスメイト。そしてクラスメイトを囲むように立つ人影が見える。
とりあえずクラスメイトの意識はないけど、息をしているのを見て、レンは安心した。だが、クラスメイトが起きる気配は一向にない。
「なんで起きないんだろ?」
「おはよう、早起きだね。もう少し遅くに起きると思ったのに、予想が外れたな…。それに40人全員が生き残るなんて、なかなか珍しいね…!」
「ッ!?」
レンとクラスメイト以外誰もいないこと空間に声が響いた。クラスメイトの誰かが起きているとか、そういうわけでもない。だけど、男か女かわからない、中性的な声が周りに響いている。
「あ、あの〜。ここって、どこですか?もしかして天国とか?僕は悪いこととかしてないので地獄に行くことはないかなー、と思ってはいたんですが、流石にお迎えが早いです…」
「あ〜、それはごめんね。ここは天国ではないよ、天界っていう場所。そんでもって君達の状態だけど…『死んでいるけど死んでいない』っていうのが正しいと思う」
「『死んでいるけど死んでいない』ってどういうことですか?それって皆が起きないこととなにか関係が?」
一体どうなっているのだ、わけがわからない。皆が起きないこの状況が異常ではないわけがないし、何より、この声の主は誰なんだろう?謎が多すぎて、レンは追いつけない。それより怖いのが、何かたくさんの美形の人たちがこっちを眺めているんですが…。にらまれているような感じがして、おっかねぇ…。
「多分君のクラスメイトはもうそろそろ起きると思う。けど、珍しいね、君。神代レン君だったっけ」
「なんで僕の名前を!?」
「ある程度知ってないと、転生なんてさせないさ。クラスメイトの情報は全員分頭に入っているとも。それより……僕が気になるのは君の方だ、レン君。いくらなんでも神気への適応が早すぎる。これまで呼んだ100人の転生者の中でも、ダントツで早い。それに…。知らない人、ましてや神に話しかけるその胆力。すごいね、君みたいな人族は見たことないよ」
ウキウキした感じで話す声の主(神)。すると、クラスメイトの皆が起き上がった。
「風間君!緑川さん!大丈夫!?」
「あれ?俺、確か教室の光みたいなのに、ブワァって飲み込まれたような…」
「私もなんかそんな感じの夢?ってぽいの見た気がするけど…」
目を覚まし、頭を振る風間と緑川。他のクラスメイトも今置かれている状況に理解が追いついていないみたいだ。
「それじゃあ、改めて説明しようかな。ようこそ、僕が創った星、ステラへ。改めて、僕は創造神。この世界と、そこにいる神々を創った原初の神だよ。君達はこの世界、ステラに転生してもらうために呼んだ。
そして、君たちがなぜステラに呼ばれたかというと…君達には新たに生まれた魔王を倒してほしいんだ。もし倒してくれたら、どんな願いも一つだけ叶えよう。以上!何か質問はあるかな?」
勢いで話す創造神という声の主にクラスメイトも怪しさを爆発させている。中には異世界転生…!と興奮を隠しきれない者もいるが。
「創造神だって…。どうなってんだろ?」
「魔王を倒すと言ってもどうやって倒すのかな?」
クラスメイト達から溢れる疑問の声。
「倒す方法というか、何というか、君達には神々と鍛えてもらう。そうすれば地球で言ういわゆるチートみたいな力が手に入る。それで倒してほしいんだ。
もちろん、神々に鍛えてもらうと言っても、君達が何を鍛えたいか、自由に選んでくれて構わないし、いつやめても構わない」
チート。それはまあ簡単に言うのならズル、と言うか…。ゲームバランスを崩壊させてしまうほどの強力な力と言えばわかりやすいだろうか。
そんなすごいものをもらって魔王を倒せと言われたら、簡単だろう。何故神様がやらないのか詳しいところはわからないけれど、異世界で俺強えぇぇぇ!みたいなことをやってみたいとは思わなくもないけど…。
「それじゃあその場にいる神から鍛えてもらってくれ。特に期限とかもないからそのつもりで頼むよ。それじゃあね〜」
どっか行ったと言うか、声が消えた。
とりあえず僕らがやることは、魔王を倒して世界を救うみたいなことをすればいいのだろうか?
そのために鍛えるのか。
すでに、男子のバカグループはわかりやすく、剣とか拳とか近接戦闘の神を選んでいるみたい。
女子は後衛である魔導とか錬金術とかそういうのを選んでいるみたいだ。
とりあえず風間君と緑山さんとレンで集まる。
「なぁ、神代。どうするよ?俺は鍛冶とかに興味あるからそっちに行きてぇって思ってんだけど」
「私は弓かなぁ。弓道部だったし、なんかそういうのできたらかっこいいなぁって思って」
「どうしよっかな〜。男だったら剣とかだろうけど、正直そんな興味ないっていうか…なんだろ…」
剣はやっぱり男からしたら憧れが強いから、人数もそれなりに多い。男子が28人、女子が12人のこのクラスで12人が剣を鍛えに行っている。
できれば違うようなことをやりたい。例えばそうだな…。
「大鎌とか使ってみたいなぁ…」
その瞬間。周りの神がギョッとこっちを向いた。何か地雷を踏んだんだろうか。不安になっていると、ピンク色の髪をした女神が近づいてきた。えーっと、確かに魔術神だったっけ?
「あなた、今大鎌を使いたいと言いましたね?」
「はい…できればそういうの使ってみたいなぁ…って。もしかして、鎌の神様とかいないのでしょうか?」
「いないわけではないのですが…。何というか、彼女は転生者とは関わりたくない、と言っていて…」
困った顔で話す魔術神。あるならやってみたい。鎌というロマン武器、使いこなせたら超かっこいいのでは!?
「紹介とかって難しいですかね?」
「やめといたほうがいいと思うのですが…。まぁ、あの子にも、いい加減前を向いてほしいですし…」
言葉の最後の方は小さくて、あまり聞き取れなかった。
「…それでは、鎌神のところに案内しますね」
「ありがとうございます。ふたりとも!また会おうな!」
風間と緑川に挨拶をして、魔術神さんに案内される。
そして気づいたときにいた場所は、天界と呼ぶにはあまりにも似合わない戦場があった。
目の前にいたのは銀髪で紫紺の瞳を持つ少女だった。この人が鎌神?とてもそうは見えないけれど…。
「……鎌神、あなたに鍛えてほしいっていう転生者が来ましたよ?あなた、名前を言って」
「はい。僕は神代レンと申します。ぜひ、鎌神に鍛えてほしいと思って来ました!弟子にしてください!」
挨拶をして一礼。しかし、返事はなかった。返ってきたのは返事ではなく、殺意だった。
「魔術神、私は言ったよね?『私は誰とも関わりたくない』って。なのに、どういうことなの?」
「…鎌神、話を聞いてください。あなたがそのままじゃ私も悲しいのです!だからこういうことをすればあなたもまた昔みたいに…」
「できるわけがない!私の心にズケズケと!誰とも関わりたくないと、あれ程言ったよね!?」
「でも!あなたとまた一緒に笑いあえたらと思って!」
「そんなことでっ…!私に関わるな!」
鎌神が鎌を構えて、魔術神に斬りかかろうとする。
その時。何故かわからない。わからないけれど。体が動いた。魔導神さんを助けようとか、揉め事を止めようとか、そんなつもりではない。
けれど、この子の、鎌神の涙は止めなくちゃならない、と心の底で思ったのだろう。心の底で願ったことは実行に移すべく、何よりも早く体に情報が伝達し、鎌神よりも速く動いて、魔術神を守るように立った。腕をクロスして上段振りかぶった大鎌から身を守ろうとする。
「やめてくださぁぁぁぁぁい!」
「えっ!?」「なっ!?」
驚いて急ブレーキをかけようとする鎌神。魔術神も驚いてる。だけど急に止まれないのは人も神も同じらしい。彼女の振った大鎌は止まらず、そのまま僕の右腕に刺さって止まった。
「いったぁぁぁ!?」
「え!?」「なんで!?」
再び驚く声が聞こえた。
そんなに驚くぐらいなら僕の心配をしてほしいなぁ、と思うレン。
鎌が右腕にぶっ刺さったまま話しかける。
「……あ、あの…話、聞いて、もらえませんか?」
「え?え、あの、…はい?」
「鎌神の一撃で斬れないのですね…」
敵意がなくなったみたいなので、とりあえず安心した。痛む右腕に力を入れて、膝をついて、丸くなる。これを日本では古来より伝わる、土下座という方法で頼んだ。
「どうかお願いします!僕に鎌の使い方を教えて下さい!」
「え?……う、うえぇ?な、なんで私に?普通だったら剣神とか、拳神とか色々いると思うけれど…。何故私を?」
「純粋に鎌を使ってみたかったからです!皆剣神さんのところに行ったりしてましたけど、僕が鎌使いになって、彼らより強くなれたら、それってすごいことだと思うんですよね!」
「は、はぁ…。それで、私のところに?」
「はい!!!」
元気よく、ハキハキと、いい返事で。こういう面接みたいなところでは「どれほど自分の人間性がはっきりしているか」というところをアピールすることができる人が一番、強い。というのをネットで見た気がする。
「魔術神。あなたはここまで見越してこの子を連れてきたの?」
「いや、流石にこんな子だったとは思っていませんでした…。まさか、私達より早く動けるなんて…」
「鍛えたら他のところでも、充分強くなると思うけれど…私を選んでくれた、という認識でいいの?」
「はい!!!」
元気よく、ハキハキと、いい返事で………etc。
「……ならわかった。あなたを鍛える」
「おぉ!ありがとうございます!」
「鎌神!?本当にやってくれるのですね!」
魔術神は嬉しさ半分、驚き半分な感じだ。
「ここまで言われて断るのは不義理。それに…」
「それに?」
「この子なら、私を、一人にさせてくれないと思ったから…」
飛び跳ねて喜びながら右腕をいたがるレンを見て、鎌神はほのかに笑顔になる。
「……鎌神。わかりました。頑張ってくださいね」
「……また今度、あなたのところでお茶しよ…」
「………ッ!わかりました、最高のお茶菓子を用意しておきますね!」
「〜ッ!何もそこまでしなくてもいいのに…」
照れながらも微笑む魔術神と鎌神。
「それじゃあ、鎌神!何をするんですか?」
「鎌神、ではない。師匠と呼んで」
「ーッ!わかりました、師匠ッ!」
ここに一人の孤独な鎌神とその弟子である転生者が修行を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます