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「お嬢様は七歳の頃に学校でおつらいことがあったようで、以来部屋にこもるようになりました。詳しいことは家族にもわかりません。なにもお話しくださらないのです。いつからか、お嬢様はお爺さまの書斎にこもって、膨大な蔵書のコレクションを読みふけるようになりました」

「その蔵書って……」

「ええ。古今東西のミステリ小説です」

 世界各国の、古典から昨日発売の最新作まで、ありとあらゆるミステリ作品を読み続ける一人の少女。祖父は年季の入ったミステリファンであり、豊富かつ新鮮な蔵書を保っていた。

 そんな生活を何年も、何年も続けた彼女は、いつからか、ミステリの登場人物に強い憧れを抱くようになる。

「で、あいつが憧れた人物って……?」

 また平見の脳内を、イヤな予感が胸をかすめた。高杉はうなずく。

「ご想像の通りです。お嬢様は探偵ではなく、『犯人』に憧れたのです。さまざまなドラマチックな動機を持ち、愛する人のためや、守りたいもののために、信じられないような手の込んだトリックを使って罪に手を染め、そして最後には探偵に真相を見破られて自滅していく犯人に――。そしてその想いは妄想にとどまらず、行動へと移されていきました。といっても常識的なお方です。実際に犯罪には至りませんでした。罪を犯さずに、『なにがしかの事件の犯人』になることにしたそうです。しかし重大事件などの大きな現場に行けば迷惑になる。そう考えて、お嬢さまは、事件とも言えないようなちょっとした事件現場に足を運ぶことにしたのです。そして見つけたのです。ちょっとした事件に遭遇する体質を持った、平見ムサジさまという人物に」

「つまり、俺の行動を常に観察していれば、いつでも事件に飛びつけるという……」

 トンチキな種明かしを聞いた一同は、顔を上げてなんとも言えずに低くうなった。

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