第3話

「雪葉……?」

「・・・芹那ちゃん……会いたかった」

一面白の空間に私と雪葉はいた。

雪葉に背も高く小さい頃との印象は全然違っているが私には雪葉と感じた。

背の丈に合った長い髪はそろっていて美しいし顔も美人さんだ。

白いワンピースに身を包んでいる姿は夏を感じさせるものだった。

でもここは暑くはなかった。

空気も湿ったり乾燥したりする印象は受けない。

ただ空間として存在してる摩訶不思議なものだ。

「芹那ちゃんはこの十年間……何をしたの?」

「私は………何も特別なことはしてないよ。毎日雪葉に懺悔して、後悔して、泣いて、死ぬことも出来ずに泣いていただけ。ねぇ、なんで今頃私に会いに来てくれたの?」

「・・・それは私と芹那がもう一度巡り会えたから」

「どういうこと?」

こうして話してることを巡り合ったというのか……それとも別の意味があるのか。

私にはよくわからなかった。

「雪葉は…何してたの?」

「私はね。色々したよ。芹那の世界では私は幽霊で見えない存在だから人の心に存在したり、思ったり、時には実態として化けてみたり……。でも何も何も面白いことはなかったよ。ただ、芹那ちゃんが私を思ってくれてるのだけは本当に伝わった。自分で感じても、周りから感じても。私は芹那ちゃんの思いを感じれた。ありがとう」

「そんな言葉…私には勿体無いよ」

笑顔を作って一生懸命笑って見せる。

せめて彼女の前だけは彼女に望む私でいたかった。

「芹那ちゃん……泣いてるよ」

「っ!?」

私の左の頬を伝う涙を雪葉が拭う。

「泣いてよ。私の前では弱い君でいいから。私はもう十分自分の人生を楽しんだから。だから、私は残りの全てを芹那ちゃんに捧げたい。だからもっと頼って…」

「うん………。うん……!ごめん……ごめん……うっ……うあああああああぁぁぁぁぁんんん!」

雪葉の胸の中で涙で滲んだ世界を見る。

見えるものはない。

ただ輪郭はわかる。

彼女の不確かな存在が私を確かな存在へと導いてくれる。

それだけで私は救われる

生きる意味をもう一度見つけられる。

「ありがとう……雪葉」

「うん……。芹那ちゃん」

少し見つめあってから赤くなる熱を持った頬にひんやりとした手が触れる。

「大好きだから」

「私も…ん」

雪葉とできないと思っていた初めてのキス。

ひんやりとしていて気持ちい。

頭がふわふわして雪葉のことしか考えられない。

ボーとした私をおいて雪葉は唇を離した。

「ありがと。また来てね」

「・・・うん…。ありがとう」

雪葉が手を振ると私の視界は真っ暗になった。

光を頼りに目を開けると家のリビングにいた。

周りには誰もいない。

ただ、二階や廊下で物音がしている。

ガチャっと音を立ててドアが開く。

入ってきたのはお母さんだった。

お母さんは私を見るなり駆け寄っておでこやら首筋やらを触り始める。

「お母…さん。どうしたの…?」

「どうしたのって…あなた急に倒れたのよ」

「そう…なんだ」

覚えていない。

私は気づいた時には雪葉と同じ世界にいた。

ここには雪葉はいない。

「もう一回…寝てもいい?」

雪葉がいないのは耐えられない。

私は逃げるようにお母さんとの会話を切る。

「うん…きっと疲れてたのね。おやすみなさい。明日二人のこと紹介するから」

「うん…おやすみなさい」

私はもう一度闇に落ちていった。

今度は雪葉が出てくることはなかった。

でも、誰かが私を包んでくれてるようなそんな温かい闇の中だった。

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