第2話

午前の暖かく眩しすぎる太陽に照らされて私は溶けることも忘れて固まっていた。

目の前にいる私と同じくらいの女の子はずっと昔に死んでしまった彼女にそっくりだった。

「ゆ、幽霊………?」

そう自分が呟くのも無理はなかった。

だって最愛の彼女はあの日私が殺してしまったから。

そんなことを知らない目の前の少女は可愛い瞳で私を睨んでいる(?)。

「は?」

当然の反応だと思った。

急に出てきた女に幽霊と言われたんだしょうがない。

でもこっちも訳がわからない。

突然家に同じ年くらいの女の子が現れて、そのうえ顔が昔の最愛の人……死んだ人と同じなのだから。

「・・・すみません。時前さんのお宅ってここであってますか?」

黙っていた少女は機嫌悪く聞いてくる。

「はぁ……そうですけど。君は、ゆ、ゆう……」

「幽霊じゃありません。何見てそう言ってるんですか。私ちゃんと地面に足もついてますし浮かんでもいません」

そう言って少女はステップを踏んでみせる。

確かに重力に従っていた。

「・・・まぁ。確かに幽霊が出たらいいなぁとは思っていますけどね」

「?」

少女がどんな顔をしていたかわからないが悲しそうな声だった。

「それよりも……話、聞いてます?」

「え?なんの……?」

何も聞いていないが……というか主語がないからわけがわからん。

少女は呆れた顔をして私の目の前にスマホの画面を見せてきた。

そこに写っているのは少女と……ん?彼女のお母さん?と………私のお母さんだった。

「どういうこと?」

理解不能とまではいかないが私の頭で考えることは難しいことだった。

死んだ彼女とお母さんは未だに仲がいい。

二人は高校時代からの仲だから自然と大人になっても関わりを持っていたようだ。

でも、なんでその間に目の前の少女がいるんだろう。

「えーーと、この写真は……?」

「はぁ」

うわぁっ!ため息つきやがったコイツ……!

まるでなんで理解できないの?とか言いそうな態度だ。

「お姉ちゃん…」

「えっ?」

い、今……な、なんて……。

歯を食いしばり頰を赤くなりつつも少女は上目遣いで言った。

「早く入れてよ……芹那お姉ちゃん」

「は?……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

お母さん……一体全体どうなってるの……!?

死んだ彼女にそっくりな少女が義理の妹になりました………笑えない……。


「意外と快適……お姉ちゃん、お母さんいつ帰ってくるか知ってる?」

ソファに座りテレビを見ながらさっきの少女もとい義妹が話しかけてくる。

「・・・知らないけど……。今日は遅くなるって言ってた」

「ふ〜ん。そっか」

義妹の前にアイスココアを置いてやる。

生きていた頃、彼女が好きだったのを覚えてるから。

なんとなくこの子も好きなのかと思った。

「はいどうぞ…。・・・コーヒーの方がいい?」

「ん〜ん。大丈夫。それよりお姉ちゃん私のことかなり警戒してる?」

「ん…ま、まぁ…名前も知らない女の子が勝手に家に来て義理の妹になったらそりゃぁ……」

「ま、そうだよね」

それに態度とか口調とか『お姉ちゃん』と言う姿勢が外と中で全然違うのにも驚いてる……。

少女が立ち上がって胸に左手を当てる。

「名前は美苗。美しい苗って書いて美苗。お父さんとお姉ちゃんは昔死んで今はお母さんと二人暮らし。あ、でも結婚したから四人暮らしか」

自己紹介した彼女は満足そうに座った。

立って思ったけど多分私の方が背が高い。

彼女の方が女の子らしい可愛さがある気がする。

・・・口は少し悪いかもだけど…。

そんなことを思いつつ私はさっきの写真へと目を向ける。

目の前の少女に対して聞かなければいけないことがいくつも見つかった。

さっきから引っかかっていたことが全て解ける気がする。

3人が写っている写真の画像。

あれはどう見ても彼女と美苗ちゃんが繋がってるとしか思えない。

それに顔もそっくりだ。

必然的に答えは振り絞られる。

私は恐る恐る口を開く。

「・・・お姉さん……って何年前かに亡くなったんだよね…?もしかして…雪葉?」

「・・・はい…。雪葉は私の双子の姉です」

「そっか……」

不思議と驚くことはなかった。

納得のいく答えだったから。

事故が起きて最後に彼女が…雪葉が私に言った言葉それは…『お姉ちゃんに……なっ……て…』だった。

あの時は何を言っているのかさっぱりだった。

でも今ならわかる。

あの時からお母さんは雪葉と美苗さんのお母さんと結婚するつもりだったんだ…。

二人が結婚して私たちがいて…5人の家族になるはずだった。

それを私がぶち壊した。

美苗さんの唯一の姉を私が殺してしまった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

今更枯れに枯れた涙を絞って出しながら懺悔したって意味はない。

少し目を丸くして驚いた美苗ちゃんも今では冷静さを取り戻している。

彼女の目に私がどう写っているのかはわからない。

ただわかってるのは私が犯罪者ということだけ。

「死にたい…」

最愛の人を…家族を苦しめた私はこの世になんていらない。

私がいなかったらみんな幸せに暮らせる。

懺悔する私の頭にそっと手が置かれた。

暖かくて女の子らしい小さな手。

顔を上げると微笑みながら泣く雪葉の姿があった。

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