写して、騙して、恋して、忘れて

ユリィ・フォニー

第1話

あの子が私の全てだった。

数年前に私と彼女は河原に遊びにいっていた。

まだ幼かった私たちは危険も知らず、ボールを蹴ったり、投げたり、川へ投げたりした。

悲劇はすぐ起きた。

弧を描いて川へ飛んだいったボールを私は取りにいって彼女の方へ投げた。

そのボールは勢いよく飛んでいきしまいには車が走る道路まで出てしまった。

私たちは愚かだった。

彼女が取りに行くと言い出し私は任せた。

一度後ろを振り向いだけだった。

大きな音と少女の悲鳴が聞こえた。

あまりの大きさに耳と目を塞いだ。

周りの人が一斉に事故現場へと駆けつけた。

私もその後について行った。

車は炎上こそしていないが白の車体には赤が塗られていた。

運転手と見られる男の人が一人の女の子を抱えていた。

力も入らずに目を閉じた赤に塗られたカラフルな色の服を着ていた少女。

私は誰が男の人に抱えられているかがわかった。

周りに彼女の姿はなかった。

ただ、目の前に彼女はいた。

私は男の人の腕に抱えられた少女を抱きしめて泣いた。

あまりの衝撃だったのか私を止める人は誰もいなかった。

男の人ですら私に話しかけることはなかった。

私のせいだ。

わたしのせいで彼女は死んだ。

私がボールを投げたせいで……。

だんだん私に積もる後悔の念は重くなっていった。

やがて私たちのお母さんが来た。

二人は大勢に囲まれた私たちを見るや否や私たちを抱えて車に乗せた。

お母さんが何を私に言ったかは覚えていない。

大丈夫、助かる、あなたのせいじゃない、こんな気休めな言葉は要らなかった。

ただ残るのは彼女が死んだという真実。


ーねぇ、そうでしょう芹那。


彼女が死んでから生活する意味がわからなくなってから迎える何千回目の朝。

気分が悪くなるほどに光る太陽に照らされて時間もわからず起きる。

一度両手を高く伸びてから立ち上がる。

パジャマのまま部屋を出て一階のリビングへ。

「おはよ」

ドアを開けて挨拶をするも誰もいない。

お母さんは仕事に出掛けてしまったようだ。

冷蔵庫からパンを適当に出してテレビをつける。

特に見たいものはないけど聞こえてくる人の声を聞くと考えずに何も考えなくてよくなる。

普通なら高校一年生として学校に行っている時間だが、私にはそんなものもないし必要ない。

ただ日々を過ぎていくのを待っている。

色のない世界がカラフルに突然なることなんてないのだから。

十分もしないでパンを食べ終える。

寝るか……そんなことを思っている時だった。

電話が鳴った。

私はすぐに駆け寄ると知っている番号だったので出る。

「もしもし」

「ああー繋がった。やっと起きたのね。ご飯食べた?」

「うん」

「そう。あ、今日少し遅くなるからお昼は何か自分で準備してくれる?お母さん帰るの3時くらいになりそうだから」

「わかった」

「それじゃあね。バイバイ」

お母さんが電話を切る。

「・・・遅くなるのか」

特に用もないから大丈夫なはずだが、少し困る。

何もしていなくてもお腹は空くので今日のお昼について考えることにする。

冷蔵庫には何も入っていなかった。

今の時間帯に外に出て買い物するのも他人に声をかけられたりするから面倒だ。

となると選択肢は限られてくる。

私は新聞紙の中から安そうなものをピックアップして電話をかける。

相手は宅配ピザのお店。

「チラシに書いてあるやつ一枚ください。12時頃にお願いします」

そう言って電話を切る。

これでお昼の心配もなくなった。

「・・・寝よ」

一つを抜いて趣味もないので部屋に戻ってベットに横になる。

部屋はさっきまで暖房が入っていたので寒くもなく心地よい。

ボーと壁を見ていても何も生まれない。

眠気もさほど襲ってこない。

机に置いてある二人の少女の写真は曇っていた。

きっと彼女が今の私を見たらガッカリするだろうな。

過去を変えられるのはアニメだけ。

現実はどう足掻いたって無理なことの方が多い。

私が彼女と会えないように。


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!!!!!!!!!

「るっさ」

いつの間に寝てしまったのだろうか。

クソうるさいインターホンで起きた私は急いで玄関に向かう。

「ピザですかー。ちょっと待ってくださいねー」

財布を持ってドアを開ける。

と、そこにいたのはピザ屋さんじゃなかった。

眩しく光る太陽の中から現れた少女。

紺を基調とした制服、ツインテールに結んだ黒い髪、キラキラした瞳はまさに、彼女のもので……。

「ゆ、幽霊……………」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

私が幽霊と言った彼女は子猫が怒るみたいに可愛く私を睨んだ。


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